- 刑法総論
- 個人的法益に対する罪
- 殺人罪(刑法199条)
- 暴行罪(刑法208条)
- 傷害罪(刑法204条)
- 凶器準備集合罪及び終結罪(刑法208条の2)
- 業務上過失致傷(刑法211条前段)
- 重過失致死傷罪(刑法211条後段)
- 遺棄罪(刑法217条)
- 保護責任遺棄罪(刑法218条)
- 堕胎罪(刑法212条)
- 逮捕・監禁罪(刑法220条)
- 脅迫罪(刑法222条)
- 強要罪(刑法223条)
- 略取、誘拐および人身売買の罪(刑法224条~229条)
- 強制わいせつ罪(刑法176条)
- 強制性交等罪(刑法177条)
- 準強制わいせつ及び準強制性交等罪(刑法178条)
- 監護者わいせつ及び監護者性交等罪(刑法179条)
- 強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条)
- 住居侵入罪(刑法130条前段)
- 名誉毀損罪(刑法230条)
- 侮辱罪(刑法231条)
- 業務妨害罪(刑法233条後段)
- 威力業務妨害罪(刑法234条)
- 信用毀損罪(刑法233条前段)
- 個人的法益に対する罪【財産罪 】
- 社会的法益に関する罪
- 騒乱罪(刑法106条)
- 放火罪(刑法108条~)
- 往来妨害罪(刑法124条)
- 汽車等転覆等罪(刑法126条)
- 通貨偽造・行使罪(刑法148条)
- 偽造通貨等収得罪(刑法150条)
- 不正電磁的記録カード貸渡し罪(刑法163条の2)
- 不正電磁気録カード所持罪(刑法163条の3)
- 文書偽造罪総論(刑法154条~)
- 公文書偽造等罪(刑法155条)
- 虚偽公文書作成等罪(刑法156条)
- 公正証書原本不実記載罪(刑法157条)
- 偽造公文書行使等罪(刑法158条)
- 私文書偽造等罪(刑法159条)
- 電磁的記録不正作出罪・不正作出電磁的記録供用罪(刑法161条の2)
- 公然わいせつ罪(刑法174条)
- わいせつ物頒布等罪(刑法175条)
- 死体遺棄罪(刑法190条)
- 刑法国家的法益に関する罪
刑法総論
構成要件該当性
実行行為
構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為をいう。
不能犯・未遂犯の区別基準
未遂犯の処罰根拠は、法益侵害の現実的危険性を惹起した点にある。そして、行為の危険性は行為の客観的側面に加え、行為者の主観を併せて評価する必要があると考える。
そこで、行為時において、一般人が認識していた事情、及び、行為者が特に認識していた事情を基礎として、一般人の観点から結果発生の現実的危険性があるといえるか否かによって不能犯と未遂犯の区別をするべきである。
実行の着手時期
未遂犯の処罰根拠が法益侵害の現実的危険性を惹起した点にあり、「実行に着手」(刑法43条)という文言から密接性が要求される。したがって、実行の着手は①実行行為に密接行為がなされ、②結果発生の現実的危険のある行為の開始、あるいは既遂結果の具体的危険の発生した時点で認めれる。その判断方法は、行為者の計画も考慮して、結果発生の確実性・自動性、結果発生との時間的場所的近接性などから判断する。
詐欺罪(最判平成30年3月22日)
構成要件該当行為に密接な行為(「計画の一環として行われたか」など)であり、当該行為を開始した時点で既遂に至る客観的な危険性がある行為を行った場合に「実行に着手」したといえると解する。
早すぎた結果の実現(クロロホルム事件)
行為者の計画を考慮した上で、
①第1行為が第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったこと
②第1行為が成功した場合、それ以降の犯罪計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存在しないこと
③第1行為と第2行為が時間的場所的に近接していること
以上が認められる場合には、第1行為の着手の時点で、実行の着手が認められる。
因果関係(危険の現実化説)
因果関係は、当該行為が結果を引き起こしたことを理由に、より重い刑法的評価を加えることが可能なほどの関係を認め得るかという法的評価の問題である。因果関係が認められるには条件関係を前提に、客観的に存在する全事情を判断の基礎とし、行為の危険が結果に現実化する必要がある。
具体的には、①行為が結果を引き起こす直接の原因が形成された場合、②介在事情が行為から誘発される危険性があったと評価される場合には、因果関係が認められる。
故意
構成要件該当事実の認識・認容をいう。
違法性の意識(制限責任説)
違法性の意識がなくても故意を阻却しない。もっとも、違法性の意識はその可能性で足り、この欠如は責任阻却事由となると解する。
錯誤
故意責任の本質
犯罪事実の認識により反対動機形成可能であるにもかかわらず、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難
故意の認識の対象
①構成要件事実
②違法性を基礎付ける事実
具体的事実の錯誤
①認識事実と発生事実が構成要件において一致している限り故意を阻却しない
②犯罪事実が認められる限り、観念的競合として複数の故意犯が成立する(法定的符合説、数故意犯説)
抽象的事実の錯誤
①認識内容と発生事実が異なるので、原則として故意を阻却する(38条2項:軽い⇒重い、。
②認識内容と発生事実が構成要件的に重なり合う場合は、軽い限度で故意犯が成立する(法定的符合説)
過失
過失
①予見可能性を前提とした結果予見義務違反及び
②結果回避可能性を前提とした結果回避義務違反をいう
予見可能性の程度
特定の構成要件的結果及びその結果の発生に至る因果関係の基本的部分の予見可能性が必要(具体的予見可能性説)
不作為犯
不真正不作為犯の実行行為
不作為が作為犯の実行行為と同視できる程度の法益侵害の危険正を備えた場合に限り実行行為性が認められる。①作為義務、②作為可能性・容易性があるにもかかわらず、作為義務に反してなにもしなかった場合に同価値性が認められる。
不作為犯の因果関係(条件関係)
期待された作為がなされていれば、合理的な疑いを超える程度に確実に結果を回避することができたことが必要(期待説)
共犯関係
・行為無価値論
⇒共同実行の意思の下、相互に他人の行為を利用補充し合って犯罪を実現するために処罰される。
・結果無価値論
⇒共犯は各構成要件の結果を惹起したために処罰される。
一部実行全部責任の原則の趣旨
共同正犯のおいて一部実行全部責任の原則を認める趣旨は、共同者各自が相互に他人の行為を利用し補充しあって構成要件的事実を実現することにある。
※共同実行の意思が求められるのは、この趣旨にある。
間接正犯
間接正犯の成立要件
Q.実行行為性を欠く間接正犯は認められるか。
A.①自ら犯罪を実現する意思を有し、②他人を一方的に利用、支配し、構成要件実現の現実的危険性を生じさせた場合には、実行行為性が認められると解する。
具体的には、利用者の行為態様、利用者と被利用者の関係、被利用者の規範的障害、被利用者の行為態様、罪責等から判断する。
間接正犯の実行行為の時期
法益侵害の現実的危険性が認められるのは、被利用者の行為であるから、被利用者が犯罪的行為を開始した時点を実行の着手時期と解する(被利用者基準説)
共同正犯
共謀共同正犯の要件
①共謀、②重要な役割(正犯性:正犯意思)、③共謀に基づく実行行為(三要件説)
共謀
[➀]
共謀とは、2人以上の者が特定の犯罪を行うために相互に他人の行為を利用・補充し合い、各自の意思を実行に移すことを内容とする合意をいう 。つまり、犯罪の共同遂行の合意をいう。
具体的には①犯行の動機・意欲、利害関係、②関与の主体性、積極性、③犯罪事実・共犯者の意思に関する意思疎通が認められる必要がある。
[➁]
共謀は、相手にどの程度強い心理的因果性を与えたかという点、共謀者と実行者の関係、犯行動機、正犯者意思の明確度と強度、犯罪結果の帰属関係、実行行為以外の関与の内容などを考慮して認定される。
重要な役割
①当事者間における地位、人間関係、②犯行への関わりの程度、③謀議への関与の程度、準備行為等への関与の程度を総合的に判断する。
過失の共同正犯の要件
共同の注意義務に共同違反することをいい、共同の注意義務とは、自己の行為からだけでなく他の共同者からも結果が発生しないよう相互に配慮し合うべき義務をいう
共謀の射程
共犯の処罰根拠は、共謀に基づいて実行行為者が生じさせた犯罪結果の危険性を生じさせた因果性にある。そのため、共謀に基づく実行行為といえるか否かは共謀の因果性が継続しているか否かにより決する。
具体的には①当初の共謀と実行行為の内容との共通性・同一性の程度、②当初の共謀になる行為と結果を惹起した行為との関連性の程度、③犯意の単一性・連続性、動機・目的の共通性などを総合的に判断する。
共犯の錯誤
※注意:共謀行為と正犯行為との間に因果関係があり、共謀者に正犯行為についての故意がない場合に問題となります。
故意責任の本質:犯罪事実の認識により反対動機形成可能であるにもかかわらず、あえて犯罪に及んだことに対する道義的非難にある。
具体的事実の錯誤の場合:認識事実と発生事実が構成要件において一致している限り故意を阻却しない
抽象的事実の錯誤の場合:構成要件が実質的に重なり合う限度で犯罪が成立する。
故意がある者の罪責の書き方
例:「殺人罪が成立し、殺意のない者との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となる」
承継的共同正犯の要件(中間説)
共犯の処罰根拠は、構成要件の実現に対する因果性にある。すなわち、共犯とは他の犯罪関与者を媒介とした間接的な法益侵害である(因果的共犯論)。とすると、①先行者の行為が後行者の関与後も効果をもち続け、②後行者が先行者とともに結果を実現したといえ、③後行者の行為と結果との間に因果関係が存続する場合には、後行者も行為全体について責任を負う(中間説)
共犯関係の解消
離脱行為によって、従前の共犯行為と離脱後に生じた結果との間の物理的・心理的因果性の両方が遮断されたときに、共犯関係の解消が認められる。この根拠は、因果的共犯論にある。
従犯
「教唆」の成立要件
(1)他人に特定の犯罪を実行する決意を生じさせ
(2)それに基づき犯罪を実行させること
(3)故意
「幇助」の成立要件
(1)実行行為以外の方法で正犯の実行を容易にする行為をすること
(2)正犯の実行行為があること
(3)故意
幇助
他人の犯罪(上記:2)に加功する意思を持って(上記:3)、有形・無形の方法によって他人の犯罪を容易にさせるもの(上記:1)をいう。
幇助の因果関係
幇助の処罰根拠は、正犯者の実行行為を容易にし、結果の実現を促進するところにある。そのため、実行行為を強化し、結果の実現を促進すれば足りる(促進的因果関係説)
身分と共犯
身分(刑法65条)
男女の性別、内外国人の別、親族の関係、公務員たる資格のような関係のみに限らず、総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊の地位又は状態を指称するものをいい、一時的な状態も含まれる。
真正身分犯
構成要件において行為者が一定の身分をもたなければ犯罪を構成しないものをいう。
不真正身分犯
構成要件において行為者が一定の身分をもつことで法定刑が加重あるいは軽減されるものをいう。
業務上横領罪の行為
Q.非占有者が業務上の占有者による横領行為に加功した場合の非占有者の罪名・刑罰
A.刑法61条1項により、業務上横領罪の共同正犯が成立し、刑法61条2項により単純横領罪の刑を科す。その理由は、刑法61条1項は、「犯人の身分によって構成すべき犯罪行為に加功」した「身分のない者」を主体とし、同条2項は、「身分によって特に刑の軽重」がある犯罪行為についての「身分のない者」を主体としているという、文理解釈にある。
違法性阻却事由
総論
違法性
社会倫理規範に反する法益侵害及びその危険(行為無価値論)
可罰的違法性の理論
質的・量的に処罰に値する違法性がなければ犯罪は成立しない。具体的には、当該行為の具体的状況、その他諸般の事情を考慮して、それが法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かによって決する。
正当行為
社会的相当性を有する行為をいう。その判断は、行為の動機・目的、行為の危険性、被害者の傷害程度などを考慮する。
「同意」の判断基準
承諾の事実だけでなく、承諾を得た動機、目的、身体傷害の手段、方法、損傷の部位、程度等から判断する。
正当防衛
刑法36条の趣旨
急迫不正の侵害という緊急状況の下で公的機関による法的保護を求めることが期待できないときに、侵害を排除するための私人による対抗行為を例外的に許容したものである。
急迫不正の侵害
法益の侵害が現に存在しているか、または間近に押し迫っていることをいう。もっとも、行為者がその機会を利用し積極的に相手方に対して加害行為をする意思で侵害に臨んだときなど、刑法36条の趣旨に照らし許容されるものとはいえない場合には、侵害の急迫性の要件を充たさない。
行為者が「侵害を予期した上で」対抗行為をした場合の「急迫不正の侵害」の判断
行為者が侵害を予期した上で対抗行為に及んだ場合、行為者が侵害を予期したことから、直接にこれが失われると解すべきではなく、対抗行為に先行する事情を含めた行為全般の状況に照らして検討すべきである。
①行為者と相手方との従前の関係、②予期された侵害の内容、③侵害の予期の程度、④侵害回避の容易性、⑤侵害場所に出向く必要性、⑥侵害場所にとどまる相当性、⑦対抗行為の準備状況(特に凶器の準備の有無や準備した凶器の性状等)、⑧実際の侵害行為の内容と予期された侵害との異同、⑨行為者が侵害に臨んだ状況、⑩その際の意思内容等(最決平成29年4月26日)
不正な侵害
違法な侵害のことをいう(有責でなくてもよい)
防衛行為
客観的に侵害者の法益侵害に対する反撃として行われることを要する
防衛の意思
急迫不正の侵害を認識しつつ侵害を避けようとする単純な心理状態。この要件が必要であるとする根拠は、明らかに犯罪的意図があるのに正当防衛を認めることになると、法の確証によって法秩序の維持を図る正当防衛の趣旨に反する。また、刑法36条は「ため」と規定している。
やむを得ずにした行為
①侵害を排除するために防衛行為が必要であること(必要性)
②防衛する手段(行為)として必要最小限度のものであること(相当性)
量的過剰防衛
①時間的・場所的連続性、②侵害の継続性の有無、③防衛の意思の有無、④発言の内容、⑤第2行為の行為態様等から、全体が1個の防衛行為といえれば量的過剰防衛が認められる。
自招侵害の要件
防衛行為が社会的相当性を欠く場合には、正当防衛は認められない。
①防衛者の不正な行為によって相手方の侵害行為を誘発した場合であること
②相手方の行為が近接した場所での一連、一体のものであること
③相手方の侵害行為が自身の行為による侵害の程度を大きく超えるものでないこと
緊急避難
現在の危険
法益侵害が現実に存在すること、またはその危険が目前に切迫していること
避難の意思
現在の危難を認識しつつ危難を避けようとする単純な心理状態。
やむを得ずにした(補充性)
その危難を避けるための唯一の方法であって、他にとるべき方法がなかったことをいう。なぜなら、緊急避難は、危難とは無関係の他人に侵害を転嫁することを許容するものであるから、他に方法がない限定的な場合のみ認められるべきであるためである。
責任阻却事由
責任
他行為可能性、意思の自由を基礎とした非難可能性
期待可能性
違法行為を行った行為者に行為当時の具体的状況の下において、適法な行為を期待することが可能であること
心神喪失
精神の傷害により、事理弁識能力または弁識にしたがって行動する能力を欠く者をいう。
心神耗弱
精神の傷害により、事理弁識能力または弁識にしたがって行動する能力が著しく減退している者をいう。
原因において自由な行為(同時存在の原則修正説)
行為者は行為(結果行為)に至る前に自ら飲酒・薬物摂取等することで責任無能力状態を作出しており(原因行為)、このような場合にまで不可罰(刑の必要的減軽)とするのは不当である。
そこで、完全責任能力のある原因行為の時点における意思決定に貫かれる形で結果行為が実現されていると考えられる場合は、全体を一個の意思の実現過程と捉え、結果行為について行為者の責任能力を肯定すべきであると解する。
そして、原因行為者時の自由な意思決定に基づいて犯罪が実現されたと評価すべきためには①原因行為時に犯罪の故意が存在していること②当該故意が結果行為時まで連続していること③原因行為と結果行為との間に相当因果関係があることが必要である。
誤想過剰防衛
故意責任の本質は、反対動機形成可能であったにも関わらずあえて犯罪をしたことに対する道義的非難にある。そのため、故意の認識の対象は構成要件事実のほか、違法性を基礎付ける事実もこれに含まれると考えられる。したがって、違法性を基礎付ける事実の認識を欠く場合には責任故意が阻却される。
誤想過剰防衛は、行為者に急迫性の侵害の不存在につき認識がなくとも、過剰事実の認識についての認識があった場合には、行為者は規範に直面し反対動機形成可能であったといえるから、故意責任を問うことができる。したがって、過剰事実の認識がある場合には責任故意は阻却されない。
誤想過剰防衛の場合の刑法36条2項の準用の可否
刑法36条2項が過剰防衛について刑の任意的減免を認めているのは、正当防衛状況においては緊急事態における心理的動揺により適法行為の期待可能性が減退するためである(責任減少説)。この心理的動揺な誤想過剰防衛の状況においても同様であるから、誤想過剰防衛の時であっても刑法36条2項を準用すべきである。
中止犯
中止行為
結果防止にとって必要かつ相当な行為をいう
真摯な努力の要否
必要説
●中止行為には真摯な努力が必要である。この真摯な努力は倫理的な意味である。
●真摯な努力は他人の協力を得て結果を防止した場合について、犯人自身が防止に当たったと同視するに足りる程度の努力という意味と解する(有力学説)
不要説
●中止行為には、中止行為のみが必要であり真摯な努力は不要と考える
自己の意思により
一般人を基準として、「やろうと思えばやれた」のにやめた場合をいう
自首(刑法42条)
発覚
犯罪事実および犯人の発覚をいい、犯人を特定するに至っている必要がある。
発覚する前
犯罪事実は確知されていても、犯人が誰かが判明していない場合も含む
没収・追徴
組成物件
構成要件上、不可欠の物件をいう。
Ex.賭博罪の掛金
犯罪供用物件
犯罪の実行に実際に使用した物、及び犯罪の実行に使用するために用意したが、実際には使用しなかった物をいう。
報酬物件
犯人が犯罪行為をしたことの報酬として取得した金品をいう。
対価物件
組成物件、犯罪供用物件 、報酬物件の対価として得たもの
個人的法益に対する罪
個人的法益に対する罪
【財産罪以外】
殺人罪(刑法199条)
人を殺す
自然の死期以前に人の生命を断絶すること
死期
呼吸・脈拍の不可逆的停止・瞳孔散大から判断する(三徴候説)
暴行罪(刑法208条)
暴行
不法な有形力の行為をいい、傷害の未遂に当たる行為であれば足りるから、接触は不要である(非接触説)。また、違法な有形力の行使であれば足り、傷害の危険性を生じさせる必要はない。
傷害罪(刑法204条)
傷害
生理的機能の障害をいう(生理的機能障害説)
同時障害の特例の成立要件(刑法207条)
⑴暴行が当該具体的な傷害を惹起しうるものであったこと
⑵複数人で意思の連絡なく同一人に対し故意で暴行を加えたこと
⑶暴行が同一機会に行われたことであること
⑷障害の原因となる暴行が特定できないこと
機会の同一性の判断基準(名古屋地判平成28年11月25日)
各暴行の時間的・場所的感覚の程度を主として、客観的な事実経過からうかがわれる暴行状況の共有制・継続性などを総合的に考慮し、社会通念上同一の機会に行われた一連の行為であり、外形的には共同実行に等しいと評価できる状況において行われたものと認めらえるかにより判断する。
同時傷害の特定の「傷害致死罪」への適用の可否
被害者保護の観点・立証の困難という点では同じであるから、適用することができる。
【批判】
・「傷害した」という文言上、傷害以外に適用するのは類推適用となる。
・致死をもたらす程度の重大な傷害は暴行による傷害に比べ立証が容易であり、立証の困難を救済する必要はない。
共犯がある場合(承継的共同正犯)の「同時傷害の特定」の適用の可否
刑法207条適用の前提となる事実関係が存在するにも関わらず、さらに途中から行為者間に共謀が成立していた場合に同条の適用を否定すると、共謀関係が認められないときとの均衡を失する。そのため、刑法207条を適用することができる。
凶器準備集合罪及び終結罪(刑法208条の2)
凶器
性質上の凶器、及び用法上の凶器のことをいう。
性質上:拳銃、日本刀
用法上:木こり斧、角材、鉄パイプ
共同して害を加える目的
他人の生命、身体財産に向けられた、助勢的意思、幇助的意思な加害意思があれば足りる。
業務上過失致傷(刑法211条前段)
業務
①社会生活上の地位に基づき
②反復継続して行う行為であって
③他人の生命身体等に危害を加えるおそれのあるものをいう。
重過失致死傷罪(刑法211条後段)
重過失
注意義務に違反する程度が著しい過失をいう。
遺棄罪(刑法217条)
遺棄
作為的な移置により、場所的離隔を伴って生命・身体に危険を生じさせることをいう。
保護責任遺棄罪(刑法218条)
保護責任者の該当性
保護責任の有無は、法令、契約、事務管理、条理、慣習、排他的支配、保護の引受の状況等を総合的に判断して検討する。
遺棄
移置または不作為の置き去りにより、場所的離隔を伴って生命・身体に危険を生じさせることをいう。
不保護
場所的離隔を伴わずに、要扶助者の生命・身体に危険を生じさせることをいう。
堕胎罪(刑法212条)
堕胎
自然分娩に先立って人為的に胎児を母体から分離・排出することをいう。
逮捕・監禁罪(刑法220条)
「不法に」の意義
法令行為や被害者の承諾など、一般的な違法性阻却事由がないことをいう。
逮捕
直接的拘束により場所的移動の自由を奪うことをいう。
監禁
一定の場所から脱出できないようにして移動の自由を奪うことをいう。
監禁罪の客体
Q.客体が監禁されていることを認識していない場合、客体たりえるか。
A.本条の趣旨は、身体活動の自由にある。これは潜在的・可能的な自由であるので、被害者が自由侵害を認識している必要はない(可能的自由説)。
脅迫罪(刑法222条)
脅迫
本人またはその親族の生命、身体、自由、名誉または財産に対する一般に人を畏怖させるに足りる害悪の告知をすることをいう。
強要罪(刑法223条)
強要・妨害
暴行または脅迫により、被強要者の意思を制圧し、義務のないことを行わせ(強制)
または権利の行使を妨害することをいう(妨害)
略取、誘拐および人身売買の罪(刑法224条~229条)
略取
暴行・脅迫を手段として、他人を生活環境から離脱させ、自己または第三者の実力支配内に移すことをいう
誘拐
欺罔・誘惑を手段として、他人を生活環境から離脱させ、自己または第三者の実力支配内に移すことをいう
親権者による連れ去り
【主体】
Q.保護監督権者も主体となるか。
A.刑法224条の保護法益は、被略取者の自由の保護と親権者等の監護権の保護にある(折衷説)。とすると、保護監督権者であっても被略取者の自由を侵害しまたは他方の親権者の監護権を侵害しうる以上、主体になる。
【違法性阻却】
Q.親権者による子の連れ去りは正当化されないか。
A.検討においては、❶正当な親権の行使といえるか、❷たとえ正当化されずとも、家族間における行為として社会通念上許容できる枠内にとどまるかという判断枠組みにて判断する。
❶⇒①監護養育上の必要性・緊急性の有無、②家庭裁判所による解決の困難性等の程度を判断する。
❷⇒①行為態様の粗暴性、②子どもの年齢、③監護養育上の必要性、緊急性、などを考慮して違法性が阻却されるか判断する。
安否を憂慮する者
密接な人間関係にあるため、被拐取者の安全について親身になって憂慮するのが社会通念上当然とみられる特別な関係にある者をいう。
強制わいせつ罪(刑法176条)
わいせつな行為
性的な意味を有し、本人の性的羞恥心の対象となる行為をいう。
暴行・脅迫
相手方の反抗を抑圧する程度のものである必要はないものの、反抗を著しく困難にする程度のものであることが必要である。
強制性交等罪(刑法177条)
暴行・脅迫
強制わいせつ罪と同様、 相手方の反抗を抑圧する程度のものである必要はないものの、反抗を著しく困難にする程度のものであることが必要である。
準強制わいせつ及び準強制性交等罪(刑法178条)
心神喪失
睡眠・泥酔等の意識喪失、高度の精神障害等により、自己に対してわいせつな行為・強制性交がおこなわれていることの認識を欠く状態のことをいう。
抗拒不能
物理的・心理的にわいせつ行為・強制性交に対して抵抗することができない又は抵抗することが著しく困難な状況をいう
監護者わいせつ及び監護者性交等罪(刑法179条)
現に監護する
親権者でなくとも生活環境・経済状況等の諸要素により個別に判断して、被害者の同意があったとしても、それが監護者の影響を受けた結果であると評価できる場合には、なお「影響力に……乗じて」行われたにあたる。
強制わいせつ等致死傷罪(刑法181条)
わいせつ等行為後の暴行
時間的及び場所的関係において、それに先立つわいせつ目的の暴行・脅迫等と接着して行われ、逃走のための行為として、通常随伴する行為の関係にあると認められるものは、これを一体として当該強制わいせつ・強制性交の犯罪行為と解すべきである。
住居侵入罪(刑法130条前段)
侵入
管理権者の意思に反する立入りを意味する。積極的に明示していなくても、①建造物の性質・使用目的、②管理者の態度、③立入りの目的等から、管理権者が認容しているか判断する(意思侵害説)
住居
人の起臥寝食等の日常生活に使用される場所をいう。
邸宅
居住用の建造物であって、住居以外のものをいう。
建造物
住居、邸宅以外の建物をいう
人の看守する
人的・物的設備によって、事実上管理・支配することをいう。
名誉毀損罪(刑法230条)
人の名誉
外部的名誉をいう。つまり、人に対して社会が与える評価をいう。
公然
適示された事実を不特定又は多数の人が認識しうる状態をいう。もっとも、特定少数人に対する適示であっても、その者を通して不特定多数人へと伝播する場合をも含む。
事実の適示
具体的な事実を示すことをいい、単なる意見や価値判断では足りない。
人の名誉の毀損
人の社会的評価を低下させるおそれを生じさせること(抽象的危険犯)
確実な資料・根拠
刑法230条の2は違法性阻却事由を定めたものである。とすると、確実な資料・根拠に照らして相当の理由により真実と誤信したときは、違法性を基礎付ける事実の認識がないといえるから責任故意を阻却する。
侮辱罪(刑法231条)
侮辱
事実をてきじせずに、人に対する侮辱的価値判断を表示することをいう。
保護法益
名誉毀損罪と同じく外部的名誉、つまり、人に対して社会が与える評価をいう。
業務妨害罪(刑法233条後段)
人の業務
社会生活上の地位に基づき、継続して従事する事務をいう。
「業務」と「公務」
Q.「業務」に「公務」は含まれるか。
A.公務は業務に含まれないとすると民間類似性のある公務が、威力・偽計によって妨害された場合は不可罰となり民間の業務の場合との不均衡が生じる。また強制力を行使する権力的公務は威力に対しては自力で妨害を排除できるため業務妨害罪で保護する必要は無い。一方強制力を行使する権力的公務であっても偽計による場合には自力で妨害を排除できないため業務妨害罪で保護する必要がある。
したがって、「業務」には強制力を行使する権力的公務以外の公務を含むと解する。妨害する行為態様が偽計である場合には権力的公務であっても「業務」に含まれる。
妨害
業務を妨害する危険性のある行為をすることをいう。
虚偽の風説の流布
虚偽の事項を内容とする噂を不特定または多数の者に知れわたる態様で伝達することをいう。
偽計
人を欺き、誘惑し、または他人の無知・錯誤を利用することをいう。
・キャッシュカードの暗証番号等を盗撮する目的で、ATMが2台設置されている銀行において、その内の1台にカメラを設置し、もう1台に一般客を装い2時間占有する行為(最決平成19年7月2日)
・他人の名義を使って商品の配達を依頼する旨の虚偽の電話をかけて、店員に配達させた行為(大阪高判昭和39年10月5日)
威力業務妨害罪(刑法234条)
威力
暴行・脅迫に至らないものであっても、騒音喧騒等およそ人の意思を制圧するに足りる勢力一切を含む。
・インターネット上の掲示板に、講演会の会場に放火するという書き込みをし、講演会を中止させた場合(東京高判平成20年5月19日)
信用毀損罪(刑法233条前段)
人の信用
支払い能力や支払意思だけでなく商品の品質に対する社会的信用を低下させることも含む
個人的法益に対する罪【財産罪 】
個人的法益に関する罪
【財産罪】
窃盗罪(刑法235条)
窃取
他人の占有する財物を、占有者の意思に反して、目的物を自己または第三者の占有に移すことをいう。
不法領得の意思
権利者を排除して他人の物を自己の所有物として、その経済的用法に従いこれを利用し処分する意思をいう
①権利者を排除して本権者として振る舞う意思(権利者排除意思)
②物の経済的用法に従い、これを利用し処分する意思(利用処分意思)
権利者排除意思の要否
窃盗罪に排除者排除意思が求められるのは使用窃盗と区別するためである。
利用処分意思の要否
領得罪に利用処分意思が求められるのは毀棄罪と区別するためである。窃盗罪の利欲犯としての性質があるために毀棄罪と比べて重罰化されていることから、財物から何らかの効用を享受する意思は直接的な効用の享受に限定される。
財物
有体物(個体、気体、液体)をいう(有体性説)
占有
財物に対する事実上の支配をいう。占有の存否は、財物に対する占有の事実と、支配意思を総合して、社会通念に従い判断する。占有の有無は、領得行為の時点を基準として、財物の特性(物の大小、性質、形状、移動の容易性、価値)、被害者と財物との場所的・時間的近接性、周囲の状況(見通しの善し悪し、人の出入りの程度)、被害者の認識や行動、行為者の認識や目撃状況などを総合的に判断する。
占有補助者
占有関係に上下関係がある場合、下位者は原則として占有補助者にすぎず占有者ではない。ただし、下位者が物の処分権を実質的に有している場合には占有者にあたる。
死者の占有
Q.相手方を殺害したあとに財物奪取意思を生じて財物を奪取している。「他人の財物」といえるか。
A.「他人の財物」とは他人の占有する他人の財物をいい、ここでいう占有とは財物に対する事実的支配である。占有が認められるためには占有の事実と占有の意思が必要であるところ、死者には占有意思がない以上、占有は認められない。
もっとも、全体的に考察し被害者を殺害した犯人との関係では、時間的場所的に近接した範囲内にある限り生前の占有がなお法的保護に値し「他人の財物」といえる。
不動産侵奪罪(刑法235条の2)
侵奪
他人の占有を排除して不動産上に行為者又は第三者の占有を設定することをいう。
・賃貸借期間経過後に立退きしない行為は、賃貸借契約により適法に占有を開始しているから、「占有を排除した」とはいえず、「侵奪」にあたらない。
・境界標を取り除く行為は、未だ「占有を設定」したといえないから、「侵奪」にあたらない。そのため、境界損壊罪(刑法262条の2)が成立する。
強盗罪(刑法236条)
強取
強盗の手段として、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫を手段として、財物・財産上の利益を奪取することをいう
暴行・脅迫
財物奪取のために行われ、相手方の反抗を抑圧するに足りる程度のものである必要がある。
財物取得後の暴行・強迫
Q.財物取得後に暴行・強迫をしているため、1項強盗罪は成立しないのでないか。
A.1項強盗罪は、財物奪取の手段として暴行・脅迫を用いる点にその本質的特徴があるところ、財物取得後であっても、財物の占有を確保するための暴行・脅迫は、財物奪取の手段と評価することができると解する。
強盗利得罪(刑法236条2項)
財産上の利益
財物以外の全ての財産上の利益をいい、財産的価値のある役務の提供も含まれる。
強盗予備(刑法237条)
強盗の罪を犯す目的
238条に規定する準強盗を目的とする場合を含むと解する。
238条が「強盗として論ずる」としており、居直り強盗と事後強盗の差は紙一重であり、事後強盗の目的であっても、その意図が強固である場合には強盗行為に至る可能性が高いためである。
強盗の予備
強盗の実行を決意して強盗の準備をする行為であり、実行の着手以前の段階の行為をいう。
事後強盗罪(刑法238条)
窃盗
窃盗罪の犯人を意味し、未遂犯人も含む。
窃盗の機会
被害者等から逮捕される可能性、追及の危険の継続性の有無を基準に判断する。具体的には、①時間的・場所的近接性、②追跡状況等から判断する。
昏酔強盗罪(刑法239条)
昏睡
薬物などによって、人の意識作用に一時的又は継続的な障害を生じさせることをいい、意識喪失までは不要である。
強盗致死傷罪(刑法240条)
強盗
強盗犯人を意味し、未遂犯人も含む(強盗に着手している必要がある)。
死傷結果
○機会説
刑法240条は、類型的に死傷結果の危険性が高い場面を防止するための規定である。また刑法240条は「よって」という文言が使われてもいない。そのため、死傷結果は強盗の機会に行われた行為によって生ずれば足りる。
○密接関連性説
機会説によると、仲間割れや私的な怨恨等による行為であったとしても強盗の機会に行われたというのみで、重い責任を負わせることになりかねない。そこで、死傷結果は、強盗行為と密接な関連性を有する行為から生ずるものに限る。具体的には、強盗の手段と同時又は事後の行為であり、強盗手段との随伴性、時間的場所的近接性、被害者の同一性、反抗抑圧状態の継続、犯意の継続等を考慮して判断する。
殺意の有無
①本罪は法定刑が極端に重く、②結果的加重犯の根拠である「よって」の文言がない。そのため、殺意のある場合をも含む。
既遂時期
刑法240条の一義的な保護法益は、「生命・身体」である。そのため、既遂時期は、死傷結果の発生の時である。
「占有」の意義(刑法242条)
占有説
占有は、すべての占有を指す。
複雑化した社会では財産を占有するという財産秩序を保護する必要性が高い。一方で、本権説によると自己の財物を取り戻した場合に、移転罪が成立しないことになり自力救済が多発し財産秩序が混乱することになりかねない。さらに、行為時に正当な権限があるか確認することは困難である。
本権説
占有は、正当な権限に基づく適法な占有に限る。
詐欺罪(刑法246条)
「人を欺いて財物を交付させ」の意義
①人を欺く行為による錯誤を惹起させ、②この錯誤に基づいた交付行為、③交付行為による物・利益の移転があり、これらに因果関係が認められることが必要である。
欺罔行為
人を欺く行為(欺罔行為)
財産の交付に向けて人を錯誤に陥らせ、交付の判断の基礎となる重要な事項を偽ることをいう。そして、重要な事項とは、取引の相手方が真実を知っていれば財産的処分行為を行わないような重要な事実を偽ることをいう。
挙動による欺罔
Q.クレジットカードの申込窓口で係員に対し、「クレジットカードを発行して欲しい」と言った行為などの欺罔行為は、挙動による欺罔、不作為による欺罔のいずれの行為となるか問題となる。
A.挙動それ自体に人を錯誤に陥れる実質的危険性が認められる場合には、挙動による欺罔行為として認められる。
具体的には、①日常的に反復される取引や継続的な取引関係であり、契約において当然の前提となる事実関係であるため、あえて表示する必要がないと考えられている場合、②誤った情報を相手方に印象づけるような特別な言動や動作が認められる場合には、当該取引それ自体が秘している事情の表明と同様の社会的意味を認められるため、挙動による欺罔行為と認められるといえる。
交付行為
交付行為(処分行為)
瑕疵ある意思に基づき、物・財産上の利益が直接交付(終局的に移転)されることをいう。
財物占有移転の意思の有無
Q.交付行為に際して、相手方は移転する財物についての認識は必要か。
A.相手方に移転する客体を認識させないという詐欺罪の典型的類型を詐欺罪から排除することになるため、移転する財物についての認識は不要である。
財産上の損害
財産上の損害
Q.財産上の損害は必要か。
A.詐欺罪も財産犯である以上、経済的に評価できる内容を伴った損害、すなわち財産的損害を発生させるような行為である必要がある。
損害(形式的個別財産説)
書き方1.錯誤がなければ交付しなかった場合は、交付自体が損害にあたる(形式的個別財産説)
書き方2.形式的に、個々の財物の占有ないし財産上の利益の喪失を財産的損害とみる(形式的個別財産説)
①詐欺罪は個別財産に対する罪である以上、差し引きとしての残大罪産の増減ではなく、当該個別財産の占有喪失を問題とすればよい。
②被害者にとっては、当該財物を喪失することによって、それを使用、収益、処分する利益を失うのであるから、それが人を欺く行為に基づく以上、損害があるといってよい。
錯誤がなければ交付しなかった場合は、交付自体が損害にあたる(形式的個別財産説)
1.不当に早く受領した場合
⇒「欺罔手段を用いなかった場合に得られたであろう…支払とは社会通念上別個の支払に当たるといい得る程度の機関支払時期を早めたものであることを要する」
2.高価な物であるように偽って適正価格同等で売却した場合
⇒「商品の効能などにつき真実に反する誇大な事実を告知して相手方を誤信させ、金員の交付を受けた」ことによって損害といえる。
電子計算機使用詐欺罪(刑法246条の2)
「財産権の得喪若しくは変更に係る電磁的記録」
財産権の得喪・変更の事実を記載した電磁的記録であり、その作出・更新により、直接事実上当該財産権の得喪・変更が生じることになるものをいう。
「財産上不法の利益」
現金を含まない。
恐喝罪(刑法249条)
恐喝
交付に向けられた、反抗を抑圧するに至らない程度の暴行・脅迫により、畏怖状態を惹起させることをいう
権利行使と恐喝
Q.権利を行使が恐喝として違法となるか。
権利者がその権利を実行することは、①その権利の範囲内で、かつ、②その方法が社会通念上一般に受忍すべきものと認められる程度を越えない限り、違法とならない。
横領罪(刑法252条)
占有
事実上の支配、および法律上の支配をいう。
横領
不法領得の意思を実現するすべての行為をいう。
不法領得の意思
他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに、所有者でなければできないような処分をする意思をいい、必ずしも占有者が自己の利益取得を意図することを必要とするものではない。
肯定例
・占有者において不法に処分したものを後日補填する意思がある場合
否定例
・行為者が委託された物を専ら本人のために処分する意思である場合
業務上横領罪(刑法253条)
業務
社会生活上の地位に基づいて反復継続して行われる事務であって、委託を受けて財物を管理することを内容とする事務をいう。
背任罪(刑法247条)
背任罪の本質
・信義誠実義務に違反して本人に財産上の損害を与えること(背信説・判例)
・代理権を濫用して本人に財産上の損害を与えること(権限濫用説)
「他人のためにその事務を処理する者」
背信説(判例):信任関係により他人の事務を処理する者で足りる
権限濫用説:法的代理権を授与された者に限られる
抵当権者設定者(最判昭和31年12月7日 刑集10巻12号1592頁)
⇒抵当権設定者は抵当権者との関係で抵当権設定者はその登記に関し、登記を完了するまで抵当権者に協力する義務を有し、この任務は主として他人である抵当権者のために負う。
任務違反
信義誠実の原則に従い、社会通念に照らして、通常の事務処理の範囲を逸脱するものをいう。具体的には、法令・通達、組織体の規定、定款、業務内容、委任の趣旨等が基準となる。
銀行員の融資に際しての「任務に背く行為」の判断方法
銀行の取締役が負うべき注意義務の判断には、経営判断の原則が適用される余地がある。しかし、融資業務に際して要求される銀行の取締役の注意義務の程度は一般の株式会社取締役の場合に比べ高い水準のものであるから、経営判断の原則が適用される余地はそれだけ限定的なものにとどまる。
自己の利益を図る目的
身分上の利益その他すべて自己の利益を図る目的であれば足り、必ずしもその財産上の利益を図る目的であることを要しない。そして、その目的は、主として自己または第三者の利益を図る目的であればよい。
財産上の損害
経済的見地において本人の財産状況を評価し、行為者の行為によって、本人の財産の価値が減少したとき又は増加すべかりし価値が増加しなかったときをいう(裁決昭和58年5月24日)
●背任罪は、全体財産に対する罪である。そして、債権があっても事実上財産状況が悪化すれば損害があるといえる(経済的損害概念説)
図利加害目的
「自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加え得る目的」をいい、図利加害の点につき、意欲ないし積極的認容までは要せず、この認識は未必的なもので足りる。
盗品等関与罪(刑法256条)
盗品等関与罪の罪質
①追及権侵害性+②本犯助長性(折衷説)
「盗品その他財産に対する罪に当たる行為によって領得されたもの」
財産罪にあたる行為によって領得された財物であって、被害者が法律上その追及権を行使できるものをいう。
無償譲受け
無償で盗品等の交付を受け、取得することをいう。
運搬
委託を受けて、交付された盗品等の所在を移転させることをいう。
保管
委託を受けて、盗品等の占有を得て管理することをいう。そして、「委託を受けて」とは、保管が一方的な意思から行われたものではなく、依頼を受けて行われたものである必要がある。
有償譲受け
有償で盗品等の交付を受けて、その処分権を取得することをいう。
有償の処分のあっせん
盗品等の有償の処分を仲介することをいい、処分は有償であることが必要であるが、あっせんは有償・無償を問わない。
被害者への返還の「有償の処分のあっせん」該当性
【否定説】本罪の本質が追及権の侵害にある。とすると、被害者に盗品を返還している以上追及権の侵害がない以上、本罪を構成しない。
【肯定説(判例)】本罪の本質は追及権侵害と本犯助長性にある。とすると、被害者は盗品の回復のために負担を強いられ、被害者による盗品等の正常な回復を阻害しているといえ、追及権の侵害があるといえる。また、被害者を相手とする場合でも金銭的な利益が生じる以上、本犯助長性も認められる。したがって、本罪を構成する。
公用文書毀棄罪(刑法258条)
公務所の用に供する文書
作成者、作成の目的等にかかわりなく、現に公務所において使用に供せられ、又は使用の目的をもって保管されている文書をいう。作成途中であっても、それが文書としての意味、内容を備えるに至ったときは、これも含む。
私文書等毀棄罪(刑法259条)
権利又は義務に関する他人の文書
他人の所有に属する、権利または義務の存否・得喪・変更を証明するための文書をいう。
建造物損壊罪(刑法260条)
建造物損壊罪の客体該当性
当該物と建造物との接合の程度のほか、建造物における機能上の重要性をも総合的に考慮する。
玄関ドア ○
⇒外壁と接続し、外界とのしゃ断、防犯、防風、防音等の重要な役割を果たしているから、建造物損壊罪の客体に含まれる。
器物損壊罪(刑法261条)
損壊
物質的に器物の形状を変更・滅失させる行為の他、物の本来の効用を失わせることをいう。
傷害
動物を毀棄することをいう
社会的法益に関する罪
社会的法益に関する罪
騒乱罪(刑法106条)
暴行
人に対する有形力の行使のみならず、物に対する有形力の行使も含む。
首謀者
騒乱行為の主導者となって、騒乱を主唱、画策し、多衆をしてその合同力により暴行・脅迫をさせる者をいう。必ずしも自ら暴行・脅迫を行い、現場で暴行・脅迫を指揮・統率する必要は無い。
指揮者
騒乱に際して集団の全員又は一部の者に対して指図する者をいう。号公。脅迫の現場で指揮する必要は無い。
率先助勢者
集団野中で際立って騒乱の勢いを増す行為をした者をいう。自ら暴行・脅迫を行う必要はない。
付和随行者
自ら暴行・脅迫をなすことを要しないが、多衆が集合して暴行・脅迫を行う事実を認識して共同意思を有して、その合同力に加わる者をいう
放火罪(刑法108条~)
放火
火力により目的物の損傷を惹起せしめる行為
損傷
火が媒介物を離れて目的物が独立に燃焼することをいう(独立燃焼説:判例)
「公共の危険」
不特定または多数の人の生命、身体、財産への危険も含む(無限定説)
公共の危険は、客観的処罰条件であり、構成要件要素ではないから、公共の危険の認識は不要である(不要説)
往来妨害罪(刑法124条)
往来の妨害
陸路などの損壊又は閉塞により、通行が不可能又は著しく困難になったことをいう。そしてこの往来妨害の状態は現実に生じることが必要であるものの、現に人又は車両等が往来を妨害されたことを必要としない。
汽車等転覆等罪(刑法126条)
「人」
必ずしも同条1項2項の車中船中に現在した人に限定すべきでなく汽車又は電車の転覆若しくは破損によって死亡した人も含まれる。
通貨偽造・行使罪(刑法148条)
通用する
法律によって強制通用力を与えられていることをいう。
偽造
通貨の製造・発行権を有しない者が真価に類似した外観の物を作成することをいい、行使の目的は不要である。既遂となるためには、物が一般人をして真正の通貨と誤認させる程度に至らなければならず、これに満たない場合には未遂にとどまる。
変造
通貨の製造・発行権を有しない者が真貨に加工して真貨に類似する物を作成することをいい、行使の目的は不要である。
行使
通貨を真正な通貨として流通に置くことをいう。そして、流通に置くとは、偽造通貨を自己以外の者の占有に移転し、一般人が偽造通貨を真貨と誤信し得る状態に置くことをいう。
偽造通貨等収得罪(刑法150条)
収得
偽貨を偽貨として知りつつ取得する一切の行為をいう。
不正電磁的記録カード貸渡し罪(刑法163条の2)
貸し渡し
相手方に処分権を与えず,貸与する趣旨で者を引渡す行為をいう。
不正電磁気録カード所持罪(刑法163条の3)
文書偽造罪総論(刑法154条~)
文書
文字やその他の可視的・可読的な方法を用い、ある程度持続すべき状態において、特定人の意思または観念を物体上に表示したもので、その表示の内容が法律上または社会生活上重要な事項に関する証拠となるものをいう。作成名義人が認識可能である必要がある。
① 可視性・可読性
② 意思・観念の表示
③ 作成名義人の存在・認識可能性(特定性)
写真コピーの「文書性」
Q.供託官の記名印及び公印押なつ部分を、挙日の供託事実を記入した供託所用紙の下方に接続させて、これをコピーした。
判例:原本と同様の社会的機能と信用性を有するものである限り「文書」にあたる(最判昭和54年5月30日)。
学説:写しそれ自体を原本として行使することが予定されている場合を除き、写しの作成名義人は、写し作成者で、それが認識しえない物は文書にあたらない
有形偽造
a説:作成権限のない者が他人名義の文書を作成すること
b説:名義人と作成者との人格の同一性を偽ることをいう
偽造の程度
●一般人から見て真正な文書であると誤信させる程度の外観を有することが必要である。
●通常想定される行使方法において、真正な文書であると誤信させるに足りる形状を備える必要がある。
「偽造」とは、名義人と作成者の人格の同一性を偽ることを言う。そして、「偽造」といえるためには、一般人から見て真正な文書であると誤信させる程度の外観を有することが必要である。
虚偽文書作成(無形偽造)
文書の作成権限を有する者が内容虚偽の文書を作成すること
変造
真正に作成した文書に変更を加えることをいう。
作成名義人でない者⇒有形変造
作成名義人⇒無形変造
作成者
意思説:文書に意思や観念を表示した者または表示させた者をいう
帰属説:意思・観念の帰属主体をいう
名義人
当該文書から一般人が認識する意思・観念の表示主体をいう。
行使
文書を真正に成立したものとして他人に交付、提示等して、その閲覧に供し、その内容を認識させまたはこれを認識しうる状態におくことをいう
作成権限の有無
作成権限の有無は、法令・内規。規則、社会的地位・職務内容、決裁の態様、職員の保管状況等から判断する。
不実の記載
存在しない事実を存在するものとし、存在する事実をしないものとして記載することをいう。
虚偽の申立て
真実に反することを申立てることをいう。
公文書偽造等罪(刑法155条)
公文書(刑法155条)
公務員により作成された文書であって、その職務権限に基づき、その職務に関し作成されたものをいう。もっとも、本来無効な文書であっても、一般人に権限内で作成された真正な文書と信じさせる形式・外観が備わっている時には公文書といえる。
公文書偽造・虚偽公文書作成の間接正犯の区別
文書を作成することの認識を欠き、又は作成することになる文書の種類・性質についての認識を欠く場合には、「公文書偽造罪」の間接正犯の成否が問題となり、当該種類・性質の公文書を作成することについての認識を有しており、内容が虚偽であることの認識のみを欠く場合には、「虚偽公文書作成罪」の間接正犯の成否が問題となる。
変造(刑法155条)(最判昭和11年11月9日)
真正に成立した公文書の非本質的部分に権限なく変更を加えることをいう
有形偽造と無形偽造の分水嶺(準代決者の作成権限の有無)
公文書の作成権限は、一定の手続を経由するなどの特定の条件のもとにおいて公文書を作成しるうことが許されている補助者(準代決者)も、その内容の正確性を確保するなど、その者への授権を基礎付ける一定の基本的な条件に従う限度において公文書の作成権限を有しているといえる。
そのため、授権に基礎付けられた一定の基本的な条件が通常であれば当然に認められる程度のものであれば、当該準代決者のした文書作成は、無形偽装にあたる。
虚偽公文書作成等罪(刑法156条)
虚偽公文書作成等罪の間接正犯の成否
刑法157条(公正証書原本不実記載罪)が刑法156条よりも著しく軽く罰しているのは、公務員でない者が虚偽公文書作成の間接正犯であるときは、刑法157条のほかこれを罰しない趣旨であるといえる。
● 登記簿
● 戸籍簿
● 権利義務に関する公正証書の原本(公正証書、土地台帳、住民票など)
● 権利義務に関する公正証書の原本として用いる電磁的記録
公正証書原本不実記載罪(刑法157条)
権利又は義務に関する公正証書の原本
公務員が職務上作成し、権利義務に関する事実を証明する効力を有する文書
※謄本は含まれない
● 自動車登録ファイル
● 不動産登記ファイル
● 商業登記ファイル
● 特許原簿ファイル
● 住民基本台帳ファイルなど
虚偽の申立て・不実の記載
申立て・記載の重要な点において客観的真実に反することを申立て・記載させることをいう
偽造公文書行使等罪(刑法158条)
行使
偽造文書・図画を真正な文書・図画として、虚偽文書・図画を内容が真実である文書・図画として使用することをいう。そして、使用とは、人に当該文書・図画の内容を認識させ又はそれを認識可能な状態に置くことをいい、本来の用法に従い使用することを要しない。
また、真正な文書・図画、内容が真実である文書・図画として使用するためには、行使の相手方は当該文書が偽造又は虚偽文書であることの認識を欠いていることが必要である。
私文書偽造等罪(刑法159条)
権利義務に関する文書
私法上・公法上の権利・義務の発生・存続・変更・消滅退こうかを生じさせることを目的とする意思表示を内容とする文書
・借用証書
・催告書 など
事実証明に関する文書
判例:実社会生活に交渉を有する事項を証明する文書
学説:法的に意義のある、社会生活上の重要な利害に関係ある事実を証明しうる文書
・寄附金の賛助員芳名簿(芳名:読.ほうめい)
・私立大学の成績原簿
・私立大学の入試試験の答案
・求職のための履歴書
作成権限の濫用・逸脱
有形偽造の成否の区別は、作成者が実質的に作成権限が与えられていたといえるか否かによって決する。
※私文書無形偽造は、刑法160条の例外を除き、不可罰である。
代理・代表名義の冒用
Q.代理権を持たないAが「○○代理人A」名義の文書を作成
作成者⇒A
作成名義人⇒文書の内容に基づきその効果は「本人」に帰属する形式を備えている。そのため、作成名義人は代理された本人である。(作成名義人○○)
作成名義人の承諾
Q.文書の作成について本人から承諾を得ていたAが文書を作成した。すべて不可罰か。
作成者⇒A
作成名義人⇒文書の性質上、作成名義人以外の者がこれを作成することが許されないものであれば、あらかじめ作成者が作成名義人に承諾を得ていたとしても、その効果は依然として作成名義人に帰属することになる。そのため、作成名義人は本人である。
通称名の使用
原則として、通称名が一般に通用しているときには、作成名義に冒用があるとはいえない。もっとも、文書の性質上、本名の記載が予定されている文書は、通称名の使用は許されないから、仮に一般に通用しているとしても、作成名義人は、本名としての名となる。
肩書の冒用
Q.肩書を偽っても、人格の同一性は認められるため偽造とならないのでないか。
原則として、肩書・資格の冒用は人格の同一性を異にしない。もっとも、一定の肩書・資格を持つ者しか作成できない文書の場合には、肩書の有無によって別の人格を構成するといえ、人格の同一性が認められない。
電磁的記録不正作出罪・不正作出電磁的記録供用罪(刑法161条の2)
電磁的記録
電磁的方式、磁気的方式その他人の近くによっては認識することができない方式で作られる記録であり、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう(刑法7条の2)
・銀行の預金元帳ファイルの残高記録
・プリペイドカードの残高記録
・自動改札機用定期券の磁気記録 など
・キャッシュカードの磁気ストライプ部分の記録
・勝馬投票券の裏面の磁気ストライプ部分の記録
・パソコン通信のホスト・コンピュータ内の顧客データベースファイルの記録
・売掛金その他の会計帳簿ファイルの記録 など
不正に作った
電磁的記録作出権者の意図に反して、権限なしに又は権限を逸脱して、電磁的記録を作り出すことをいう。電磁的記録作出権者とは、コンピュータ・システムを設置し、それによって一定の事務処理を行い、又は行おうとしている者をいう。
人の事務処理を誤らせる目的
不正に作られた電磁的記録を用いて他人の事務処理を誤らせる目的をいう。
供用
不正に作出された電磁的記録を人の事務処理のため、これに使用される電子計算機において用い得る状態に置くことをいう
公然わいせつ罪(刑法174条)
文書の「わいせつ性」の有無
その文書自体について客観的に判断すべきものであり、現実の購読層の状況あるいは著者や出版社としての著述、出版意図など当該文書外に存する事実関係は、文書のわいせつ性の判断の基準外に置かれるべきである。
公然
不特定又は多数の人が認識することのできる状態をいい、現実に不特定又は多数の人が認識する必要はなく、その認識の可能性があれば足りる。
わいせつ物頒布等罪(刑法175条)
頒布
不特定又は多数の者に有償又は無償で交付・譲渡することをいう。
所持
わいせつ物を自己の事実上の支配下に置くことをいい、現に握持している必要はない。
有償で頒布する目的
日本国内において販売する目的をいう。
死体遺棄罪(刑法190条)
遺棄
社会通念上埋葬とは認められないような態様で放棄することをいう。
刑法国家的法益に関する罪
国家的法益に関する罪
公務執行妨害罪(刑法95条)
職務
公務員が取り扱う各種各様の事務のすべてが含まれる。なぜなら、公務執行妨害罪が保護しているのは、公務員の職務行為の円滑な実施であり、公務である以上、保護する必要があるといえるためである。
職務を執行するに当たり
「職務を執行するに当たり」といえるためには、現に職務そのものを執行している場合やその直前の職務に着手しようとしている場合に限られると解する。もっとも、統括的・管理的職務においては、ある程度継続した一連の職務として把握することが相当な範囲も職務執行中にあたる。
暴行・脅迫
公務員の身体に対し直接であると間接であるとを問わず不法な攻撃を加えることをいう。これにより、現実に職務執行妨害の結果が発生したことを必要とするものではなく、妨害となるべきものであれば足りる。
※有形力が直接的には物に対して加えられた場合であっても、その結果、間接的に公務員の身体に物理的な影響を与え、職務執行を妨害するに足りる程度の暴行であれば足りる。
※公務員の指揮に従いその手足となりその職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合もこれに該当する。
暴行・脅迫の相手方
必ずしも直接に公務員の身体に対して加えられる場合に限らず、公務員の指揮に従いその手足となりその職務の執行に密接不可分の関係において関与する補助者に対してなされた場合も含む。
職務の適法性(書かれざる構成要件要素)
刑法95条1項は、単に「職務」とするにすぎず「適法な職務」と規定しているわけではない。しかし、違法な職務の執行は保護に値するとはいえない。したがって、書かれざる構成要件要素として職務の適法性が求められると解する。
そして、職務が適法であるといえるためには、①職務の執行が当該公務員の抽象的職務権限に属すること、②当該公務員がその職務行為を行う具体的職務権限を有すること、③その職務の執行を有効にする法律上の手続または方式の重要な部分を履践していること(要保護性)が満たす必要がある。
手続・方式の違法は、公務の保護と国民の人権保障との調和を図る点が重要であるから、職務行為の相手方の権利を保護するための重要な手続・方式の違法があったか、それとも、軽微な手続・方式の違反にすぎなかったという観点から、保護に値する職務といえるかどうか客観的に判断する。
そして、適法性の判断基準時は、職務行為が行われた時点を基準として判断する。
※適法性の要件を欠く公務員の行為は、公務員職権濫用罪(刑法193条)となる。
※抽象的職務権限とは、公務員に法律上付与されている抽象的・いっぱんてきな意味での職務の範囲のことであり、「職務」にあたるかを検討するファクターにあたる。
※具体的職務権限とは、公務員の具体的な職務行為が法律上の要件を具備していることをいう。
適法性の誤信(二分説)
職務の適法性は構成要件要素である。とすると職務の適法性を基礎づける事実の誤信は構成要件的故意を阻却するから、職務の適法性を基礎づける事実の誤信は故意を阻却する。一方、職務の適法性に関する評価の誤信は誤信に相当の理由がない限り故意を阻却しない。
逃走罪(刑法97条)
「裁判の執行により拘禁された既決又は未決の者」
・確定判決を受け、それにより拘禁されている者(既決の者)
・死刑の執行まで拘置されている者、労役場に留置されている者
・被疑者・被告人として拘禁されている者
・鑑定留置に付されている者
※逮捕された者は含まれない(逮捕された者を除く趣旨)
既決の者
確定判決によって、刑事施設に拘禁されている者をいう。
未決の者
勾留状によって刑事施設に拘禁されている者をいう。
逃走
被拘禁者が拘禁状態から離脱することをいい、離脱するとは看守者の実力的支配を脱することをいい、一時的であっても完全に離脱することによって既遂となる。
加重逃走罪(刑法98条)
「勾引状の執行を受けた者」
・逮捕状により逮捕された被疑者
・勾引された証人など
損壊
逃走罪の加重態様であるという観点から、物理的な損壊に限定されている。
暴行・脅迫
逃走の手段として看守者又は看守者に協力する者に対して行われることを要する。
通謀による逃走
本罪の主体の2人以上が共に逃走することを内容とする意思連絡をし、通謀者と共に逃走しもしくは逃走の実行に着手することを要する。
逃走援助罪(刑法99条、刑法100条、刑法101条)
「法令により拘禁された者」
①裁判の執行により拘禁された既決・未決の者(上述に規範あり)
②勾引状の執行を受けた者(上述に規範あり)
③現行犯として令状によらず逮捕された者
④緊急逮捕されて逮捕状が発付される前の者
⑤保護処分の執行として少年院に収容されている少年など
逃走させた(刑法101条)
逃走を惹起したり容易にしたりする一切の行為・不作為が含まれる。
犯人蔵匿罪(刑法103条)
罪を犯した者
真犯人に限られず、犯罪の嫌疑を受けている者も含む
罰金以上の刑にあたる罪
法定刑に罰金以上の刑を含む罪をいう。
侮辱罪(刑法231条):「勾留又は科料」であるから、含まない。
蔵匿
場所を提供して匿うことをいう
隠避
蔵匿以外の方法で捜査機関による発見・逮捕を免れさせるすべての行為をいう。
証拠隠滅等罪(刑法104条)
証拠
犯罪の成否に関するもののみならず、刑の軽重に関係を及ぼすべき情状証拠も含まれる。また証拠の種類は物的証拠のみならず人的証拠も含む。
参考人の虚偽供述の「証拠」該当性
Q.参考人の虚偽供述は証拠偽造罪を構成するか。
A.刑法104条の「証拠」は、物理的な存在である「証拠方法」に限られ、そこから認識された無形の内容である「証拠資料」も含まない。また刑法169条が宣誓した供述証拠についてのみ偽証罪が成立するとしているのは、宣誓によらない虚偽供述を不可罰とする趣旨である。したがって、虚偽の供述は証拠偽証罪とならない。
不可罰とする趣旨である
刑事事件
被告事件、被疑事件のみでなく捜査開始前の事件をも含まれる。
威迫
不安、困惑の念を生じさせる文言を記載した文書を送付して相手にその内容を了知させる方法による場合も含まれ、直接相手と相対する場合に限定されない。
偽証罪(169条)
虚偽の陳述
証人の記憶に反する陳述をすることをいう(主観説)
・目撃していない事例
⇒そもそも現場におらず、犯行現場を目撃したという事情がないにもかかわらず、これを見た前提で陳述するのも「虚偽の陳述」といえる。
虚偽告訴罪(刑法172条)
虚偽の申告
申告の内容をなすところの刑事、懲戒の処分の原因となる事実が客観的真実に反することをいう
職権濫用罪(刑法193条)
職権濫用行為
公務員が一般的職務権限に属する事項につき、職権の行使に仮託して実質的、具体的に違法、不当な行為をすることを指す。もっとも、一般的職務権限は、必ずしも法律上の強制力を伴うものであることを要せず、それが濫用された場合、職権行使の相手方を事実上義務なきことを行わせ又は行うべき権利を妨害するに足りる権限であれば足りる。
職権
公務員の一般的職務権限のすべてではなく、その内、職権行使の相手方に対し法律上、事実上の負担乃至不利益を生ぜしめるに足りる特別の職務権限をいう。
賄賂罪(刑法197条~)
職務
当該公務員の一般的な職務権限に属するものであれば足り、本人が現に具体的に担当している事務であることを要しない。なぜなら、一般的・抽象的な職務権限に属する行為は、必要に応じて担当することもあり得えるので、当該公務員が実際上公務を左右することもあり、職務の公正に対する社会一般の信頼が害されるといえるためである。
賄賂
公務員の職務行為の対価として授受される不正な利益をいい、職務行為に対するものであれば足り、個々の職務行為と賄賂との間に対価関係は不要である。
賄賂の目的物
有形無形を問わず、人の需要・欲望を満たすに足りる一切の利益をいう
収受
供与された賄賂を自己のものとする意思で現実に取得することをいう
要求
賄賂の供与を求める意思表示をいい、相手方が認識しうる程度になされれば足り、現実にそれが認識されたことは要しない。
約束
賄賂の授受についての意思の合致をいう。
請託を受けた
請託とは、公務員に対し、職務に関して一定の行為を行うことを依頼することをいい、不正な職務行為か正当な職務行為かのいずれの依頼かを問わない。そして、この依頼を承諾することによって、請託を受けたといえる。
コメント