[刑訴法]強制処分の定義の書き方

刑事訴訟法

論文式試験に実際に使うことができるようにまとめてあります。

強制処分に関わる原理・原則

強制処分に関わる原理・原則は、強制処分法定主義令状主義の2つです。

強制処分法定主義とは、強制処分は、法律に規定された方法でしか行うことができないということをいいます。

令状主義とは、捜査機関が行う強制処分について、あらかじめ裁判官の発する令状を受けて、適正な捜査方法で行うべきであるという考え方をいいます。

強制処分が問題となる場面

規範の確認に入る前に、強制処分がどういう場面で問題となるのか考えてみましょう。

強制処分が問題となるのは、大きく分けて2つのパターンがあります。

  • 法定されていない強制処分をした場合(→強制処分法定主義違反)
  • 法定された強制処分だが、令状を取ることなく行った場合(→令状主義違反)

強制処分の問題を解く際には、「強制処分法定主義」とかかわる問題なのか、「令状主義」とかかわる問題なのかについて、検討する必要があります。

規範

現在(2021.2月)では、大きく分けて2つの規範の書き方があります。

  • GPS判例(最決平29・3・15)を使用する方法
  • 有力学説に従う方法

GPS判例を使用する規範

GPS判例は、「GPS捜査は、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものとして、訴訟法上、特別の根拠規定がなければ許容されない強制の処分に当たる」としています。

GPS判例は、強制の処分とは「個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するもの」であるとしています。

そして、本判決は「意思を強制する」かのあてはめの中で、「個人のプライバシーの侵害を可能とする機器をその所持品に秘かに装着することによって、合理的に推認される個人の意思に反して・・・・・・」としています。

そのため、「意思を制圧する」とは、合理的に推認される意思に反することを含むとされます。これは、合理的に推認される意思に反して権利を侵害する場合も現実に表明された意思を制圧して権利を侵害する場合も、価値的には何ら変わらないと考えられることにあります。

規範は以下のようになります。

「強制処分」とは・・・

「強制の処分」(刑訴法197条1項但書)とは、個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法益を侵害するものをいうと解する。
 ここにいう「意思を制圧する」とは、個人の明示の意思に反する場合はもとより、合理的に推認される個人の意思に反する場合も含むと解する。なぜなら、合理的に推認される意思に反し権利侵害する場合と意思を制圧して権利侵害する場合も価値的には同じであるからである。

学説に従う規範(重要権利利益侵害説)

刑訴法197条1項但書の「強制の処分」の解釈には、重要権利利益侵害説(有力説)があります。

この説は、最決昭和51年3月16日から考えられた1つの考え方であり、多くの受験生が使用してきた説の1つです。

最決昭51・3・16では、「強制手段とは、有形力の行使を伴う手段を意味するものではなく、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特定の根拠規定がなければ許容することができない手段を意味する」としている。

上記黄色の下線部を中核にとらえて「強制の処分」とは、相手方の明示または黙示の意思に反して、重要な権利・利益を実質的に侵害・制約する処分をいうと考えられます。これが重要利益侵害説です。

重要利益侵害説の根拠は、大きく分けて2つあります。

【Point】
  • 「意思に反して」が必要な理由
  • 保護する利益が「重要な権利・利益」に限られる理由

※以下、参照 大澤裕「判批」井上正人=大澤裕=川出敏裕編『刑事訴訟法判例百選〈10版〉』5頁(2017)参照

「意思に反して」が必要な理由:相手方の承諾があれば、そもそも権利・利益の制約が観念できないので、相手方の「意思に反して」いる必要があります。

「重要な権利・利益」に限定している理由:強制処分法定主義による法的効果の重さ、令状主義による統制など現に法定された強制処分の要件・手続の厳格さに照らし、強制処分とはそのような保護に見合うだけの権利・利益の制約を伴う処分でなければなりません。

規範は以下のようになります。

「強制処分」とは・・・

「強制の処分」(刑訴法197条1項但書)とは、相手方の明示または黙示の意思に反して、重要な権利・利益を実質的に侵害・制約する処分をいう。
 なぜなら、(1)意思に反しない場合は、侵害や制約があるとは言えないし、意思に反するという点では明示であろうが黙示であろうが価値的には同じである。(2)現行法上、強制の処分は強制処分法定主義をはじめとして厳格な要件・手続が必要であるとされているため、そのような保護に見合うだけの重要な権利利益の実質的な侵害を伴う処分でなければならないからである。

あてはめの方法

あてはめをする点は、2つです。

  • 「意思」に関する点
  • 「権利侵害」に関する点

「権利侵害」に関するあてはめ

「意思」よりも先に「権利侵害」のあてはめをします。

なぜなら、どの権利・利益を侵害してるのかを特定しなければ、「なに」に対して「同意」「反対」の意思を示してよいか分からないからです。

具体的な権利侵害は、様々なものが存在しますが、今回は、プライバシーに関するものについて検討します。

GPS判例は、プライバシーを侵害する類型について判示しています。この判例では、「合理的に推認される個人の意思に反してその私的領域に侵入する捜査手段であるGPS捜査は、個人の意思を制圧して・・・」と判示しています。

そのため、私的領域に侵入するものであったか、またその私的領域への侵入の程度はどうか、を具体的にあてはめます。

強制処分にあたるかどうかの大部分が、侵害される権利・利益が「重要」であるかによって決まります。

侵害される権利・利益ごとにあてはめも異なります。

様々な判例を読み、十分に検討する必要があります。

「意思」に関するあてはめ

①対象者が、捜査機関による行為に対して意思表示をしているかを確認します。

多くの場合は、意思表示していません。

②そのため、黙示的な意思を確認することになります。

(1)黙示的な意思を検討するには、先に検討していた「権利・利益」の侵害の程度と併せて考えていくのが有効です。

重要な権利・利益であればあるほど、処分を受けることに合意しないはずです。

(2)対象者が処分を受けるに際してどのような行動をとったかも重要です。

→処分を受けているのに、「なにもしない」など

まとめ

  1. 問題提起の時は、「強制処分法定主義」「令状主義」との関係を述べる必要があります。
  2. 規範は、2通り考えられ、現状はどちらを採用してもいいと考えられます。
  3. あてはめは、「重要な」権利・利益であるかをしっかりと検討しましょう。

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