生存権とは
憲法25条
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
生存権の法的性質について、大きく3つの説の対立があります。
プログラム規定説
憲法25条は、国民の生存を確保すべき政治的・道義的義務を国に課したにとどまり、個々の国民に対して具体的権利を保障したものではない、と考える立場です(芦部『憲法』第7版279頁)。
この見解は、生存権の内容が抽象的で不明確であることから憲法25条に基づいて生存のための具体的請求権を導き出すことは難しい、という前提があることが根拠となっているといえます。
抽象的権利説
憲法25条は、予算を前提とした立法を通して、国に対して生存権を実現すべき法的義務を課している、と考える立場です(芦部『憲法』第7版279頁)。
憲法25条1項は、法律制定の基準となるので立法権を有する国会を拘束し、法律がすでに制定されている場合には、裁判所の法律解釈の基準となり、裁判所が当該法律は「最低限度の生活」(1項)を保障していないと判断した場合には、違憲審査権を行使し、違憲と判断できることになります(百選Ⅱ7版287頁)。
この見解は、憲法25条1項が「権利」と規定していることから、生存権に法的権利性が認められることを根拠としています。
具体的権利説
憲法25条は国民に具体的請求権を保障したものであり、国民は生存権を具体化する法律が制定されていなくても憲法25条だけを直接の根拠として権利の実現を裁判所に請求することができる、と考える立場です。
この見解も、憲法25条1項が「権利」と規定していることから、生存権に法的権利性が認められることを根拠としています。
論文での書き方
どの説を採用するか
抽象的権利説を採用するべきです。
【朝日訴訟】の最高裁判決は、傍論ではあるものの、具体的権利性を否定しています。
具体的権利説を答案で書くとなると、まず最高裁判決を知っていることをアピールするために最高裁が具体的権利説を否定していることを書き、その上で最高裁の見解を否定する理由を書き、自身が具体的権利説を採る理由を書かなければならなくなるため、時間が限られている試験ではオススメできません。
では、プログラム規定説か抽象的権利説のどちらで書くのかということになりますが、最高裁判決は具体的権利説を否定しているだけでどちらに立っているのか明確にしていません。
ですが、プログラム規定説を採用すると書くことが相対的に少なくなってしまい、点数獲得にとって損です。なので、抽象的権利説で書くことをオススメします。
なぜなら、プログラム規定説を採用すると、憲法を用いて「請求する」ということができなくなるためです。つまり、プログラム規定説は、具体化された法律によって、はじめて権利として認められることになるので、具体的な法律の解釈のみを展開することになります。
そのため、憲法の解釈を挟めないという点で「損」だと感じます。
「感じる」ってお前の意見なんけ?
私がもし採点するなら、ここに点を振ります・・・もん・・・。
抽象的権利説で書く手順(法令は、生活保護が出題されたとします)
抽象的権利説を前提とすると、以下のような制度設計になります。
➀まず、生活保護法を中心とした立法措置を通じて国民は、生存権の権利行使が具体化される。
②次に、これを実施する行政庁の措置によって個別・具体的な権利保障が図られる。
そのため、憲法25条の問題は
➀立法措置がそもそも合憲かという観点から、行政立法に関する裁量の問題
②立法があることを前提に、その法の解釈・適用の場面で行政裁量の統制が問題となります。
行政立法に関する裁量が問題となる場合
抽象的権利説を前提として、憲法25条1項の特徴を説明し、審査基準を立てます。
書き方としては、判例に基づいて検討しましょう。
第1.憲法25条の特徴
【憲法25条の特徴:朝日訴訟参照】
憲法25条1項は、国民に対する国家の責務として、生活困窮者の生存権を保障する趣旨である。もっとも、「最低限の生活」(憲法25条)の保障は、文言上・実質的にも抽象的・相対的な概念である。そのため、具体化する立法など国家の施策があって初めて具体的な権利として主張し得ると解する。
第2.審査基準
【堀木訴訟参照】
立法府の広い裁量にゆだねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量権の逸脱・濫用がある場合を除き、生存権を侵害するといえず合憲である。
※この基準を立てる前提として、裁量が広範であるであることを示す必要があります。
【老年加算廃止事件判決】
判断過程審査を採用しました。
➀判断過程の合理性を審査する
②判断するための考慮要素に着目して、
ⅰ考慮すべき事情を考慮し、考慮すべきでない事情を考慮しなかったかに着目する判断方法
ⅱそれぞれの考慮要素に重み付けを行い、その評価を誤ったか否かを検討する方法
行政裁量の統制が問題となる場合
抽象的権利説を前提として、憲法25条1項と生活保護法との関係を説明しましょう
書き方は、色々あると思いますが、今回は、書きやすそうな2つを紹介します
- 憲法適合的解釈をつかう方法
- 判例の文言をそのままつかう方法
では、見ていきましょう。
【憲法適合的解釈をつかう方法】
憲法25条1項が条文上「権利」とする以上、生存権には法的権利性が認められると解される。もっとも、憲法法規が抽象的であるから、憲法25条1項から直接に給付請求権を導くことはできない。そのため、立法による具体化が必要である。生活保護法は、憲法25条1項を具体化させた法と解されるから、生活保護法の解釈は、憲法適合的になされる必要がある。
「憲法適合的解釈」ってなんや
・法令の規定に違憲的適用部分が含まれていなくて、違憲の瑕疵が存在しない場合
・当該規定(生活保護法など)に、憲法上の要請を考慮した解釈の余地がある場合
・解釈によって憲法上の要請を考慮しない通常の解釈とは異なる、適用・帰結が導かれる場合
このような場合に使うことができる憲法解釈の方法です(この要件を答案に書くことはないと思います。書くのは上の黄色の枠だけです。)
この解釈方法が使えるのは、こういう場面です。
この法令の問題点はここか・・・。
この問題点なら、憲法の趣旨を踏まえて解釈すれば、合憲な法令って言えそう。
憲法25条1項は国民全員に最低生活を保障する趣旨である。
この趣旨を通して、今回問題となっている法令の条文を手直ししてあげます。
判例を使う方法
参考にすることができる判例は、2つあります。
【朝日訴訟(原告が死亡につき傍論)】:本文ままではありません。試験用に加筆・訂正しています。
・憲法25条1項は、すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るように国政を運営すべきことを国の責務として宣言したにとどまり、直接個々の国民に対して具体的権利を付与したものではなく(具体的権利説を否定)、具体的権利としては、憲法の規定の趣旨を実現するために制定された生活保護法によって、はじめて与えられている。
・この権利は、厚生大臣が設定した保護基準による保護を受けるものであり、この保護基準は憲法の定める健康で文化的な最低限度の生活を維持するに足りるものでなければならない。
しかし、健康で文化的な最低限度の生活なるものは、抽象的な相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達、国民経済の発展に伴って向上するのはもとより、多数の不確定的要素を総合考慮してはじめて決される。
したがって、何が健康で文化的な最低限度の生活であるかの認定判断は、厚生大臣の合目的的な裁量に委ねられており、その判断は直ちに違法の問題を生ずることはない。
ただ、現実の生活条件を無視して著しく低い基準を設定する等憲法及び生活保護法の趣旨・目的に反し、法律によって与えられた裁量権を逸脱・濫用した場合は、違法な行為として司法審査の対象となる。
【堀木訴訟】:本文ままではありません。試験用に加筆・訂正しています。
「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法25条1項)は、きわめて抽象的・相対的な概念であり、その具体的内容は、その時々における文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定される。
同条の趣旨を現実の立法として具体化するにあたっては、国の財政事情を無視することができず、多方面にわたる複雑多様かつ高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とする。
したがって、係争法令の合憲性判断は、立法府の広い裁量にゆだねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量権の逸脱・濫用がある場合を除き、司法審査が及ばない(合憲である)。
【朝日】【堀木】は、共通して「裁量権がある」ことを認めて、「裁量権の逸脱・濫用がないかを検討する」としています。
加えて、【堀木】は「国の経済的事情」を考慮するとした点でも重要な判例です。
規範としては以上を用いて、問題に応じて柔軟に対応しましょう。あてはめは、行政法の「裁量権の逸脱・濫用」と類似の方法であてはめることになりますね!
・・・いや、わからん。
裁量権の逸脱・濫用については、また別の機会にしましょう。
○ 25条1項2項分離論や制度後退禁止原則については、以下の記事を参照してください。
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