[刑訴法]ゴミ捜査の適法性、領置

刑事訴訟法

問題の所在

ゴミ捜査では、

  1. 捜査目的でのゴミの持ち帰り行為(占有取得行為)の適法性(①)
  2. 復元・分析等の行為の適法性(②)

が問題になります。

①については、捜査目的で令状も排出者の承諾もなくゴミ袋を持ち帰ることが、排出者のプライバシー権を侵害しないか(そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待がプライバシー権として権利性・要保護性が認められるか )、また、占有が放棄されたゴミは領置し得るとしてそこに限界はないのか、が問題になります。

領置(221条)

領置とは、被疑者その他の者が遺留した物、又は、所有者・所持者・保管者が任意に提出した物の占有を取得する処分です(221条)。

領置の対象となるのは、「遺留した物」(遺留物)「任意に提出した物」であり(221条)、差押えと異なり、「証拠物又は没収すべき物と思料するもの」(99条1項)には限定されません。

また、領置は、差押えと異なり、占有の取得について強制を伴わないため、憲法35条の「押収」には含まれず、令状を必要としません

しかし、いったん領置されれば、捜査機関は返還を拒めるという(占有の保持には強制力を伴うという)差押えと同じ効果が生じるため、刑訴法上の「押収」と位置付けられます(222条1項参照)。

つまり、領置は、占有を取得する時点では任意の処分ですが、占有を継続する時点では強制の処分であるということになります。

刑事訴訟法221条(領置)

検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者その他の者が遺留した物又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物は、これを領置することができる。

刑事訴訟法99条(差押え、提出命令)

1 裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押さえることができる。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。

憲法35条(住居の不可侵)

1 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。

2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

「遺留した物」とは

そもそも領置(法221条)が、差押えと異なり令状主義の統制(法218条)に置かれていないのは、対象物の占有取得過程に強制力が用いられていないため捜査の端緒となり得るものである限り広く対象とする趣旨であると解されます。そうだとすれば、領置の対象たる「遺留した物」について、その語義から厳格に遺失物に限定する必要はなく、それより広義で、占有者の意思に基づかないでその所持を離れた物のほか、占有者が自ら置き去りにした物も含まれると解すべきです(『条解刑事訴訟法(第4版増補版)』211頁、池上政幸=河村博・大コンメンタール刑事訴訟法(第2版)4巻579頁)。

所持者との客観的な物理的支配関係が失われれば「遺留した物」といってよいと考えられます(鹿野伸二・平成20年度判例解説(刑事)312頁)。

論証例

領置が無令状で行われるのは、領置が占有を取得する過程で強制力を伴わないため憲法35条の「押収」には含まれないからである。したがって、「遺留した物」とは、遺失物よりも広い概念であり、自己の意思によらず占有を喪失した物に限られず、自己の意思によって占有を放棄し、離脱させた物を含むと解すべきである(平成22年司法試験出題趣旨参照)。

例えば、不要物として公道上のゴミ集積所に排出し占有を放棄した場合、捨てられた物は「遺留した物」にあたり、捜査機関はそれを領置することができます。

「領置」の限界

占有が放棄されたゴミは領置し得るとしても、そこに限界はないのでしょうか。

「遺留した物」に該当するとしても、排出されたゴミについては、 通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があります。そして、ゴミの内容を把握することにより排出者の生活実態等に関する情報が収集され、プライバシーの利益が侵害され得る以上、上記期待は保護に値します

そこで、事案の性質、嫌疑の程度等を考慮し、捜査の必要性が認められる場合には、具体的状況の下で相当と認められる範囲内でのみ、221条により領置することができます。

領置の適法性が問題なった判例として、最決平成20.4.15があります。事案は、強盗殺人事件の犯人と思われる人物の同一性を立証するために、犯人と思われる人物が自宅付近の公道上にあるゴミ集積所に捨てたゴミ袋を回収し、中身を確認し、犯人が着用していたものと類似するダウンベスト、腕時計等を見つけ、これらを領置したというものです。最高裁は、公道上のゴミ集積所に排出されたゴミ袋につき、排出者は「その占有を放棄していたものであって、排出されたごみについては、通常、そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待があるとしても、捜査の必要性がある場合には、刑訴法221条により、これを遺留物として領置することができる……。また、市区町村がその処理のためにこれを収集することが予定されているからといっても、それは廃棄物の適正な処理のためのものであるから、これを遺留物として領置することが妨げられるものではない。」としました。

考慮要素
  • 重大犯罪か
  • 対象者に対する嫌疑が高まっていたか
  • 証拠物が混ざっている可能性があったか
  • 通常の捜査方法では摘発が困難か(例えば、「組織的かつ巧妙な手段により行われていた」等)
  • ゴミ袋が投棄された場所が誰もが通行するところであったか(他者が拾うことも予想される公道上の集積所か)
  • 対象者がゴミ袋を置いたのを現認した上で当該ゴミ袋だけを持ち帰り、領置して開封するゴミ袋を極力少なくする配慮をしていたか

等を考慮して、比例原則の観点から適法性を検討します。

なお、公道上のゴミ集積所ではなく、マンションのゴミ置き場に捨てられたゴミについては、排出者との関係では「遺留した物」であるが、管理者(マンション管理会社や清掃会社)の同意がなければマンションの管理権を侵害するため領置はできません。管理者の同意・協力があれば「所持者が…任意に提出した物」として領置できます(東京高判平成30.9.5参照)。

復元・分析等の行為の適法性

222条1項により111条が準用され、司法警察員は押収物について111条2項により111条1項の処分をすることができます。つまり、捜査機関は、領置した物について、証拠物としての留置の継続の必要性ないしその証拠価値を判断するために、押収物に関する「必要な処分」として、領置した物を検査・復元・費消することができます(222条1項・111条2項)。

222条1項・111条2項の趣旨が、押収の目的を達成するため押収物が証拠物であるかどうかの判断をする前提として必要な処分を認めた点にあること、及び、 そのまま収集されて他人にその内容が見られることはないという期待(プライバシーの利益)を制約していることは否定できないことから、「必要な処分」とは、押収の目的を達成するため必要かつ合理的な範囲の処分を指します(比例原則)。

とすると、例えば、ゴミ袋の中にあった裁断された紙を検証令状(218条1項)なく復元する行為も、押収物に関する「必要な処分」に当たれば許容されることになります。

刑事訴訟法222条(押収・捜索・検証に関する準用規定、検証の時刻の制限、被疑者の立会い、身体検査を拒否した者に対する制裁)

1 第99条第1項、第100条、第102条から第105条まで、第110条から第112条まで、第114条、第115条及び第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条、第220条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第110条、第111条の2、第112条、第114条、第118条、第129条、第131条及び第137条から第140条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条又は第220条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。

2 ……

刑事訴訟法111条(押収捜索と必要な処分)

1 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。

2 前項の処分は、押収物についても、これをすることができる。

強制捜査・任意捜査の限界については、以下の記事を参照ください。

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