[刑訴法]捜索差押許可状の効力が及ぶ範囲(捜索の範囲)

刑事訴訟法

前提

刑訴法は、捜索の対象を「身体」、「物」、「住居その他の場所」に分類し(222条1項、102条)、これに従って捜索令状に処分の対象を特定して記載することを要求しています(219条1項)。

「場所」に対する捜索許可状の効力の及ぶ範囲はどこまでか

捜索差押許可状に「場所」(219条1項、218条1項)が記載されている趣旨は、探索的な捜索・差押えを防止して、被処分者のプライバシー及び財産的権利を保護することにあります。そうすると、捜索すべき場所は、その空間的位置を明確にするとともに、管理権の単一性を基準にして特定されなければなりません。したがって、当該令状の効力が及ぶか否かは、令状に明示特定された捜索場所と同一の場所的空間及び同一の管理権内か否かにより判断すべきです。

以下は、上で検討した効力の及ぶ範囲内(場所)にある「物」、「身体」についての論点です。

「場所」に対する捜索差押許可状に基づく「物」の捜索の可否

問題点

被疑者の自宅に対する令状で、自宅にある机、金庫、自動車を捜索できるでしょうか。

「物」の概念について (最決平成6.9.8)

憲法が「各別の令状」を要求し(35条2項)、刑訴法が捜索の対象として「人の身体」、「物」、「住居その他の場所」を書き分けていることから(222条1項、102条1項)、それらを捜索するためには、それぞれについて別個の令状を得なければならないとも思えます。

しかし、「物」についてのプライバシーの利益は、その「物」の所在する「場所」についてのプライバシーの利益に包摂される関係にあるため、裁判官は、「場所」に対する令状を許可する際に、通常その場所において管理されることが想定される「物」についても捜索の対象とすることを予定していると解されます。したがって、「場所」に対する捜索差押許可状により、通常その場所において管理されることが想定される「物」を捜索することも許されます(最決平成6.9.8)。

そのため、被疑者の自宅に対する令状で、自宅にある机、金庫等も捜索でき、被疑者の自宅の敷地内に自動車があれば自動車についても捜索可能です(被疑者の自宅の敷地内ではない場所に自動車がある場合は、自動車に対する令状ば別途必要になります)。

携帯物について

人が携帯することで、その物に、捜索場所に置かれている場合とは別の保護すべき利益が付け加えられるわけではありません(床に置いてあろうと手に持っていようと、その物についてのプライバシーの利益は変わりません)。携帯物が、その場所に存在する備品等と同一視でき、裁判官の事前審査の対象となっていたのであれば、被処分者の携帯物についても捜索可能です(最決平成6.9.8)。

第三者の「物」である場合

捜索場所に存在する「物」であっても、第三者から預かった物で、施錠されていて開けることができない場合には、その物は第三者の排他的支配下にあるといえ、その物についてのプライバシーの利益が、場所についてのプライバシーの利益に包摂される関係にないため、捜索することはできません

そうだとしても、捜索場所にある物について逐一その所有者を確認していたら令状執行上の不都合が大きいため、当該物件が第三者の物であることが明白である場合を除き、当該場所に対する令状に基づいてそこにある物も捜索することができると解すべきです。

捜索場所に居合わせた第三者の所持品

原則

捜索場所にたまたま居合わせた第三者の所持品については、当該場所において通常管理・利用されることが想定されていないため(第三者の物に対するプライバシーの利益は被処分者の場所に対するプライバシーの利益に包摂されない)、原則として捜索できません

例外

もっとも、令状記載の場所に対象者と同居しているなど、通常その場所にいる者であり、かつ、当該所持品が普段は当該場所に置かれている物であるときは、当該場所において通常管理・利用されることが想定されているものとして捜索可能です。

また、捜索場所に居合わせた者がその所持品に差押目的物を隠したことが明らかな場合にまで常にその者の所持品への捜索を許さないとすると、捜索の実効性を確保できず、事案の真相解明の要請(1条)に応えられません。そこで、捜索場所に居合わせた者が捜索中又は捜索開始直前に、捜索場所にあった差押目的物を所持品に隠匿したと疑うに足りる相当な理由があるときは、捜索の目的達成のため「必要な処分」(222条1項、111条1項)として、(捜査比例の原則により)妨害排除・原状回復のため必要かつ相当な処分を行うことができると解すべきです。

「場所」に対する捜索差押許可状に基づく「身体」の捜索の可否

問題点

「場所」に対する令状によって、その場に居合わせた第三者の身体を捜索できるでしょうか。

原則

219条1項の「捜索すべき場所、身体若しくは物」という文言から分かるように、法は、場所に対する捜索と身体に対する捜索とを書き分けています。また、身体の捜索によって侵害されるプライバシーの利益は、場所に対する捜索によって侵害されるプライバシーの利益とは異質であって、人の「身体」が「場所」に包摂されているとみることはできません。

したがって、当該場所と併せて「正当な理由」の審査行われているとはいえず、「場所」に対する令状で「身体」を捜索することは原則として許されません

このことは、たまたま居合わせた第三者の身体であろうと、その場に同居している者の身体であろうと違いはありません。

例外

もっとも、捜索場所に居合わせた者がその身体に差押目的物を隠したことが明らかな場合にまで常にその者の身体への捜索を許さないとすると、捜索の実効性を確保できず、事案の真相解明の要請(1条)に応えられません。

そこで、捜索場所に居合わせた者が捜索中又は捜索開始直前に、捜索場所にあった差押目的物を身体に隠匿したと疑うに足りる相当な理由があるときは、捜索の目的達成のため「必要な処分」(222条1項、111条1項)として、(捜査比例の原則により)妨害排除・原状回復のため必要かつ相当な処分(ex.捜索場所から差押目的物を持ち出した者を追跡・制止し、その身体・所持品を捜索する)を行うことができると解すべきです。

捜索中に配達された荷物の捜索の可否

問題点

「捜索中」に配達された荷物は、令状呈示をした時点では捜索場所に存在しなかった物です。
このように令状呈示の時点で存在しなかった物は、捜索の対象物に含まれるのでしょうか。

考え方①

捜索令状を発付する際の裁判官による事前の審査は、捜索開始時点(令状の呈示時点)における捜索場所を対象としていること、令状が呈示されたことにより、その時点での捜索場所及びそこにある物が捜索の対象となることが被処分者に示されるため、その対象が限定されることから、捜索差押許可状の効力は、令状呈示後に搬入された物には及ばないとも思えます(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』136頁)。

令状呈示の時期については、以下を参照ください。

考え方②

しかし、令状発付後、いつ捜索を行うかは捜査機関の判断に委ねられているから、裁判官が特定の時点を想定して捜索の要件の有無を審査しているとはいえません。裁判官による審査は、令状の有効期間全体を対象に当該捜索場所に差押目的物が存在する蓋然性があるかを判断しています。また、令状の呈示は、その場所が捜索の対象となることを示すものに過ぎず、捜索の対象を時間的に限定づける意味はありません(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』136頁)。したがって、捜索中に搬入された物についても捜索できます(最決平成19.2.8結論判例に同旨)。

*最決平成19.2.8は捜索中に搬入された物についても捜索できるとしましたが、その理由については述べていません。

令状執行の際の「必要な処分」

捜索差押許可状の執行に当たっては、捜索・差押えという本体的処分に伴う付随的処分として「必要な処分」をすることができます(222条1項、111条1項)。

「必要な処分」は、捜索・差押えの実効性を確保するために必要であることを前提に、社会通念上相当な態様で行われなければなりません(比例原則)。

具体的には、当該処分の必要性と被処分者の被る法益侵害との間の合理的権衡が求められ、その判断にあたっては、被疑事実の内容、差押対象物件の重要性、差押対象物件の破棄隠匿のおそれ、被処分者が受ける不利益の内容、被処分者の協力態様などの事情を総合考慮します(永井敏雄・最判解刑事篇平成14年度203頁)。

「必要な処分」に当たるとされた事例

  • 被疑者に来意を告げてドアを開けてもらうのではなく、ホテル客室のドアをマスターキーで開けて入室した行為(最決平成14.10.4)
  • 宅配便の配達を装って玄関扉を開けさせて住居内に立ち入った行為(大阪高判平成6.4.20)
  • 押収物である未現像フィルムを現像した行為(東京高判昭和45.10.21)
  • フロッピーディスクの内容をディスプレーに表示した行為、プリントアウトした行為、コピーした行為

「必要な処分」に当たらないとされた事例

  • 鍵があるにもかかわらず、錠を破壊した行為(東京地判昭和44.12.16)

刑事訴訟法222条(押収・捜索・検証に関する準用規定、検証の時刻の制限、被疑者の立会い、身体検査を拒否した者に対する制裁)

1 第99条1項、第100条、第102条から第105条まで、第110条から第112条まで、第114条、第115条及び第118条から第124条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条、第220条及び前条の規定によつてする押収又は捜索について、第110条、第110条の2、第112条、第114条、第118条、第129条、第131条及び第137条から第140条までの規定は、検察官、検察事務官又は司法警察職員が第218条又は第220条の規定によつてする検証についてこれを準用する。ただし、司法巡査は、第122条から第124条までに規定する処分をすることができない。

刑事訴訟法111条(押収捜索と必要な処分)

1 差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる。公判廷で差押え、記録命令付差押え又は捜索をする場合も、同様である。

令状による捜索・差押えについては、以下の記事を参照ください。

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