[会社法]仮装払込み

会社法

出資の履行

金銭出資の場合、発起人は、株式引受後遅滞なく、設立時発行株式につき全額の払込みをしなければならず、金銭払込みは発起人指定の払込取扱機関においてなされる必要があります(34条1項・2項)。

会社法34条(出資の履行)

1 発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない。

2 前項の規定による払込みは、発起人が定めた銀行等(銀行(銀行法(昭和56年法律第59号)第2条第1項に規定する銀行をいう。第703条第1号において同じ。)、信託会社(信託業法(平成16年法律第154号)第二条第二項に規定する信託会社をいう。以下同じ。)その他これに準ずるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)の払込みの取扱いの場所においてしなければならない。

見せ金:発起人が払込取扱機関以外の第三者から金銭を借り入れて払込みを行った後、会社成立後に取締役に就任して直ちに払込金を引き出して当該借入金の弁済に充てる行為。

預合い:発起人は払込取扱機関の役職員と通謀して、払込取扱機関から借入れをし、これを払込金として会社の預金口座に振り替え、当該借入金を返済するまでは預金を引き出さないことを払込取扱機関の役職員と約束する行為。

払込みの効力

Q.見せ金や預合いは、「払い込み」(34条1項)として有効でしょうか。
注意:「設立」の効力とは別の問題です)

見せ金
見せ金による払込みの場合、形式的には金銭の移動があります。しかし、実質的には、借入れ・払込み・引出し・返済を全体として考察すると、払込みを仮装するための一連の行為であり、会社財産が確保されていないため、資本充実の原則に反し、払込みとしての効力を有しません(最判昭和38.12.6百選4版7事件)。

見せ金に該当するか否かは、以下の点を総合考慮します(最判昭和38.12.6百選4版7事件)。

❶ 会社成立後、借入金を返済するまでの期間の長短
❷ 払込金が会社の資本として運用された事実の有無
❸ 借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無

預合い
預合いによる払込みの効力については、争いがあります。

払込取扱機関の帳簿上の操作がなされるのみで会社にとって実質的には財産は確保されていないこと、刑事罰も科せられる行為であることから、預合いによる払込みを無効と解するのが通説です。

発起人等の責任

払込みの仮装をした発起人の責任

払込みの仮装をした発起人には、会社に対する支払義務が生じます(52条の2第1項1号)。この支払義務を履行しない限り、株主としての権利を行使できません(52条の2第4項)。払込みの仮装をした発起人の会社に対する支払義務は、総株主の同意があれば免除できます(55条)。

会社法52条の2(出資の履行を仮装した場合の責任等)

1 発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う。

一 第34条第1項の規定による払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払

会社法55条(責任の免除)

第52条第1項の規定により発起人又は設立時取締役の負う義務、第52条の2第1項の規定により発起人の負う義務、同条第2項の規定により発起人又は設立時取締役の負う義務及び第53条第1項の規定により発起人、設立時取締役又は設立時監査役の負う責任は、総株主の同意がなければ、免除することができない

関与した発起人・設立時取締役の責任

仮装払込みに関与した発起人・設立時取締役は、払込みを仮装した発起人と連帯して、会社に対し、支払義務を負います(52条の2第2項本文・第3項)。

仮装払込みに関与した発起人・設立時取締役とは、以下の者をいいます(規則7条の2)

❶ 出資の履行の仮装に関する職務を行った発起人・設立時取締役
❷ 出資の履行の仮装が創立総会の決議に基づいて行われたときは
①仮装に関する議案を提案した発起人
②その議案の提案の決定に同意した発起人
③当該創立総会において仮装に関する事項について説明をした発起人・設立時取締役

払込みの仮装をした発起人は無過失の証明による免責は認められませんが(52条の2第2項但書の括弧書き)、関与した発起人・設立時取締役は無過失の証明による免責が認められます(52条の2第2項但書)。

関与した発起人・設立時取締役の会社に対する支払義務は、総株主の同意があれば免除できます(55条)。

会社法52条の2(出資の履行を仮装した場合の責任等)

2 前項各号に掲げる場合には、発起人がその出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない。

3 発起人が第1項各号に規定する支払をする義務を負う場合において、前項に規定する者が同項の義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする。

会社法施行規則7条の2(出資の履行の仮装に関して責任をとるべき発起人等)

法第52条の2第2項に規定する法務省令で定める者は、次に掲げる者とする。

一 出資の履行(法第35条に規定する出資の履行をいう。次号において同じ。)の仮装に関する職務を行った発起人及び設立時取締役

二 出資の履行の仮装が創立総会の決議に基づいて行われたときは、次に掲げる者

 イ 当該創立総会に当該出資の履行の仮装に関する議案を提案した発起人
 ロ イの議案の提案の決定に同意した発起人
 ハ 当該創立総会において当該出資の履行の仮装に関する事項について説明をした発起人及び設立時取締役

発起人等の任務懈怠責任

払込みの仮装は任務懈怠に当たります。払込みの仮装をした発起人や、それに関与した発起人・設立時取締役は、会社に損害が生じたときは会社に対し損害賠償義務を負い(53条1項)、悪意・重過失によって第三者に損害が生じたときは第三者に対し損害賠償義務を負います(53条2項)。

会社法53条(発起人等の損害賠償責任)

1 発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

2 発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。

株式の発行

Q.仮装払い込みにより発行された株式は有効でしょうか。

株式は有効です。

会社法は、仮装払込みをした発起人に支払義務を課し、支払義務を履行するまでは株主の権利を行使することができないとしたり(52条の2第1項・第4項)、仮装払込みにつき善意・無重過失の第三者に仮装払込みにより発行された株式が譲渡された場合に、当該第三者に株主の権利の行使を認めています(52条の2第5項)。これらの規定は、株式が有効に成立していることを前提にしていると考えられます(百選3版21頁参照)。

議決権の行使の可否

Q.では、仮装払い込みにより発行された株式の議決権を行使することはできるでしょうか。

仮装払込みをした発起人は、支払義務(52条の2第1項・2項)を履行しない限り、会社から剰余金の配当を受け取ったり、株主総会での議決権を行使したりするなどの株主としての権利を行使できません(52条の2第4項)。

もっとも、仮装払込みによって発行された株式を、仮装払込みにつき善意・無重過失で譲り受けた者は、株主の権利を行使することができます(52条の2第5項)。

会社法52条の2(出資の履行を仮装した場合の責任等)

4 発起人は、第1項各号に掲げる場合には、当該各号に定める支払若しくは給付又は第2項の規定による支払がされた後でなければ、出資の履行を仮装した設立時発行株式について、設立時株主(第65条第1項に規定する設立時株主をいう。次項において同じ。)及び株主の権利を行使することができない

5 前項の設立時発行株式又はその株主となる権利を譲り受けた者は、当該設立時発行株式についての設立時株主及び株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない

設立の効力

Q.「払込み」が無効であるとして、「設立」は無効となるでしょうか。

設立の無効は、多くの利害関係人が存在するため設立無効の訴え(会社法828条1項1号)によらなければ、無効とすることはできません。

この会社の設立の無効は、会社の成立の日から2年以内に、訴えをもってのみ主張することができます(828条1項1号)。

Q.では、仮装払込みは無効事由に当たるのでしょうか。無効事由について明文の規定がないため問題になります。

何が無効事由になるか
すでに設立の効力が生じ一定の法律関係が生じているため、設立が無効になると利害関係人に多大なる影響が及びます。そのため、無効事由は限定的に解すべきです。具体的には、設立手続の瑕疵が重大である場合に限られます。

何が無効事由に該当するか(瑕疵が重大か)は、設立の無効によって得られる発起人や株式引受人の救済の利益が、設立の無効によって生じる会社の利害関係人の不利益と比較して大きいか否か、という利益衡量によります(辰巳『Newえんしゅう本』27頁)。

無効事由に該当する例

  • 定款の絶対的記載事項(27条)の記載がない
  • 定款所定の最低出資額(27条4号)を満たさない
  • 公証人による定款認証(30条1項)がない
  • 設立時発行株式を1株も引き受けない発起人がいる(25条2項)
  • 創立総会が開催されていない

仮装払込みは無効事由か
払込みが無効となる結果、「設立に際して出資される財産の価額又はその最低額」(27条4号)を満たさない場合、予定された事業を遂行できないおそれがあるため、設立手続について重大な瑕疵があるといえます。もっとも、仮装払込みに関する発起人等の支払義務(52条の2)の履行によって最低財産が確保されるなど瑕疵が治癒されれば無効事由は消滅します。

出資の履行をしなかったことによって失権手続を経た場合、設立時発行株式の株主となる権利を失います(36条3項)。しかし、失権手続を経たからといって発起人が発起人でなくなるわけではありません。発起人は1株以上引き受けなければならないとされており(25条2項)、1株も引き受けない発起人がいた場合、無効事由になります。仮装払込みによって発行された株式も有効だとすると、仮装払込みをした発起人も株式を引き受けていることになるため、25条2項違反はないことになると考えられます。

会社法828条(会社の組織に関する行為の無効の訴え)

1 次の各号に掲げる行為の無効は、当該各号に定める期間に、訴えをもってのみ主張することができる。

一 会社の設立 会社の成立の日から二年以内
二 ……

設立無効の確定判決の効力

  • 訴訟当事者間だけでなく(民訴法115条1項参照)、第三者に対しても及ぶ(対世効、838条)←法律関係を画一的に確定する要請から
  • 無効判決の効果は遡及せず、将来に向かってのみ効力を生じる(遡及効、839条)←会社・株主間、会社・債権者間で既に生じている法律関係が混乱しないように

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