[刑訴法] 起訴状一本主義 [余事記載の可否]

刑事訴訟法

問題の所在

Q.文書が脅迫や名誉棄損等の犯罪の手段として用いられた場合、起訴状に脅迫文書や名誉棄損文書の内容を引用してもいいのでしょうか。

また、起訴状に被告人の前科や悪性格等を記載してもいいのでしょうか。

256条6項は有罪の予断を抱かせるおそれのある事項を起訴状に記載してはならないとしているのに対し、256条3項はできる限り日時、場所、方法等を具体的に記載して訴因を特定することを要求しているため、問題になります。

刑事訴訟法256条(起訴状、訴因、罰条)
3 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
6 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。

予断排除と訴因の特定

256条6項は、起訴状に裁判官に事件について予断を生ぜしめるおそれのある書類その他の物を添付することや内容を引用することを禁止しています(起訴状一本主義)。

 その趣旨は、裁判官が、あらかじめ事件について何らかの先入的心証を抱くことなく、白紙の状態において、第1回の公判期日に臨み、その後の審理の進行に従い、証拠によって事案の真相を明らかにし、もって公正な判決に到達することを担保する点にあります(予断排除の原則、最判昭和27.3.5)。

他方で、法は、起訴状において訴因を特定・明示することを要求しています(256条3項)。その趣旨は、裁判所に対して審判対象を画定するとともに、被告人に防御範囲を示す点にあります。

そのため、予断排除の要請と訴因特定の要請の調和を図る必要があります。

判例

訴因の特定に必要な限度で、詳細な引用も許される。

【脅迫文書の引用】
要約適示することが難しい場合には、脅迫状のほぼ全文を引用することが許される(最判昭和33.5.20)。

【名誉棄損文書の引用】
文書のうち、名誉棄損罪の構成要件に該当すると思料する部分を抽出して引用することは、犯罪の方法に関する部分をできる限り具体的に特定しようとしたものであって、予断を生ぜしめるおそれのある書類の引用に当たらない(最決昭和44.10.2)。

【前科・悪性格等】
原則として記載は許されないが、前科や悪性格であっても、公訴犯罪事実の構成要件になっている場合(例えば常習累犯窃盗)や公訴犯罪事実の内容になっている場合(例えば前科の事実を手段方法として恐喝)などは、公訴犯罪事実を示すのに必要であるから、記載は適法である(最判昭和27.3.5、最決昭和27.7.18)。

学説

一度裁判官に予断を生ぜしめた場合、それを解消することはほぼ不可能であるから、公訴棄却して再訴するしかない。
 他方、訴因の特定については、検察官に求釈明することで不十分さを解消することができる。したがって、原則として予断排除の要請が訴因の特定に優先すると解すべきである。
【脅迫文書・名誉棄損文書の引用】
原則として要約を記載すべきである。

訴因の特定については、以下の記事を参照ください。

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