問題の所在
補強法則について規定する憲法38条3項、刑訴法319条2項の解釈として
- 共犯者の自白だけで被告人を有罪にできるか(補強証拠の要否)
- 被告人本人と共犯者が共に自白している場合に、共犯者の自白は被告人の自白の補強証拠となり得るか(補強証拠適格の問題)
- 被告人本人が否認している場合に、共犯者2名以上の自白のみで被告人を有罪にできるか(補強証拠適格の問題)
が問題になります(百選10版180頁)。
補強法則については、以下の記事を参照ください。
論点1.共犯者の自白だけで被告人を有罪にできるか
「共犯者の自白」とは、被告人も一緒に犯行を実行した、あるいは被告人と共謀したという供述であって、共犯者自身にとっては「自白」であっても(共犯者自身を有罪とするには補強証拠が必要)、被告人にとっては自己の犯罪事実を認める供述ではなく、憲法38条3項の「本人の自白」、刑訴法319条2項の「その自白」には当たらないため、同項を直接適用することはできません。ここでの問題は、共犯者の自白は「自白」ではないが、補強法則の趣旨にかんがみて319条2項を準用できないかということです(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』318頁)。
補強証拠必要説(準用肯定説)
319条2項を共犯者の自白にも準用する。
∵①補強法則の目的は自白偏重による誤判の防止にあり、この危険の点では、本人の自白と共犯者の自白に差異はない(団藤反対意見)。
②共犯者の自白には責任転嫁・引張り込みの危険があり、虚偽の危険が大きい(リークエ2版455頁)。
③補強証拠不要説に立つと、証拠が共犯者の自白しかなく、被告人が犯行を否認している場合に、自白した共犯者は無罪、否認した被告人は有罪という非常識な結果になり、共犯の合一的確定の要請に反する(団藤反対意見)。
補強証拠不要説(準用否定説)
319条2項を共犯者の自白に準用することはできない。
∵①共犯者の自白には責任転嫁・引張り込みの危険があり、裁判所は警戒の目をもって慎重にその証明力を検討するであろうから、本人の自白と同様に考えることはできない。
②反対尋問を経ない本人の自白よりも反対尋問を経た共犯者の自白の方が証明力が高いため、反対尋問を経た共犯者の自白を証拠として被告人が有罪、補強証拠がない共犯者が無罪になっても不合理ではない。
③補強証拠必要説に立っても、補強を要する範囲に被告人と犯人の同一性を含めなければ、責任転嫁・引張り込みの危険を回避できないが、補強法則はこれらの危険を防止することを趣旨とするものではない。
(①②③古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』318頁)
判例は、補強証拠不要説(準用否定説)を採っています(最判昭和33.5.28、最判昭和51.2.19)。
論点2.被告人本人と共犯者が共に自白している場合に、共犯者の自白は被告人の自白の補強証拠となり得るか
補強証拠となるためには、自白を偏重することによる誤判を防止するということが補強法則の趣旨であるから、自白から実質的に独立した証拠でなければなりません。
補強証拠不要説から
共犯者であっても、被告人との関係では、被告人以外の者であるという前提に立つから、共犯者の自白は被告人の自白から独立したものとして、補強証拠になり得ます(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』354頁)。
補強証拠必要説から
被告人本人が自白しているため、共犯者による責任転嫁・引張り込みという問題は生じず、補強証拠となり得るとの見解が多数です(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』354頁)。
論点3.被告人本人が否認している場合に、共犯者2名以上の自白のみで被告人を有罪にできるか
補強証拠不要説から
1名の共犯者の自白によっても有罪にできるのであるから、2名以上の共犯者の自白がある場合にも有罪にできます(最判昭和51.10.28)。
補強証拠必要説から
共犯者の自白が、他の共犯者の自白の補強証拠となり得るかが問題になります。
被告人は犯行を否認しているため、責任転嫁・引張り込みの危険はなお存在するが、複数の共犯者の供述が一致しているときには、共犯者1名の自白があるのみである場合と比較して、誤判の危険が類型的に弱まるため、共犯者の自白が相互に補強証拠になり、被告人を有罪にできます(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』355頁、最判昭和51.10.28の団藤補足意見)。
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