再逮捕・再勾留禁止の原則とその例外
再逮捕・再勾留禁止の原則
いったん逮捕ないし勾留が終了して身柄拘束を解かれた被疑者を、(時を異にして)同一の事実で再び逮捕・勾留することは許されないとする原則をいいます。
根拠
もし同一事実で逮捕・勾留を繰り返すことを認めれば、法が逮捕・勾留について定めた厳格な時間制限(203条以下)が無意味になったり、一度目的を果たし終えたはずの処分を蒸し返すことになり不当であるためです。
ここでの「同一の事実」とは、(先行する)逮捕・勾留の基礎となった被疑事実だけではなく、これと実体法上一罪の関係にある事実を含むと解されています。これは、一罪一逮捕一勾留の原則が実体法上一罪の関係にある事実について複数の逮捕・勾留を禁止している(通説)ことから導かれます。
再逮捕・再勾留禁止の原則 | いったん逮捕ないし勾留が終了して身柄拘束を解かれた被疑者を、(時を異にして)同一の事実で再び逮捕・勾留することは許されないとする原則 |
根拠 | もし同一事実で逮捕・勾留を繰り返すことを認めれば、法が逮捕・勾留について定めた厳格な時間制限(203条以下)が無意味になったり、一度目的を果たし終えたはずの処分を蒸し返すことになり不当 |
Q.再逮捕・再勾留禁止の原則には、例外は認められないのでしょうか。
一定の場合には例外が認められると考えられています。
その根拠は・・・
・捜査の流動性にかんがみ、再度の身柄拘束は一切許されないとするのは現実的ではなく、再度の身柄拘束をして捜査を行う必要性が生じる場合があることを否定できないこと(必要性)
・原則として再逮捕・再勾留が禁止される趣旨が身柄拘束の不当な蒸し返しを禁止することにあるとすると、それに当たらなければ再度の拘束を認めてもよい(許容性)
・同一被疑事実について再逮捕があり得ることを前提とする199条3項(刑訴規則142条1項8号)がある
例外の有無 | 一定の場合には例外が認められる |
根拠 | ・捜査の流動性にかんがみ、再度の身柄拘束は一切許されないとするのは現実的ではなく、再度の身柄拘束をして捜査を行う必要性が生じる場合があることを否定できない(必要性) ・原則として再逮捕・再勾留が禁止される趣旨が身柄拘束の不当な蒸し返しを禁止することにあるとすると、それに当たらなければ再度の拘束を認めてもよい(許容性) ・同一被疑事実について再逮捕があり得ることを前提とする199条3項(刑訴規則142条1項8号)がある |
刑事訴訟法199条(逮捕状による逮捕の要件)
1 ・・・
2 ・・・
3 検察官又は司法警察員は、第一項の逮捕状を請求する場合において、同一の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨を裁判所に通知しなければならない。刑事訴訟規則142条(逮捕状請求書の記載要件)
1 逮捕状の請求書には、次に掲げる事項その他逮捕状に記載することを要する事項及び逮捕状発付の要件たる事項を記載しなければならない。
1 ……
8 同一の犯罪事実又は現に捜査中である他の犯罪事実についてその被疑者に対し前に逮捕状の請求又はその発付があつたときは、その旨及びその犯罪事実
以下、刑訴法がどのような場合に例外的に再逮捕・再勾留を許容しているのか検討していきましょう。
先行する逮捕が適法であった場合の再逮捕の可否
見解➀
刑訴法には再逮捕を前提とする規定があります(199条3項、刑訴規則142条1項8号)。199条3項が、逮捕と釈放の繰り返しによる不当な自由侵害が生じることを防ぐ趣旨だとすれば、再逮捕が許容されるのは、逮捕と釈放の蒸し返しによる自由侵害を凌駕する合理的な理由がある場合ということになります(酒巻匡「身柄拘束処分に伴う諸問題」法学教室291号101頁)。
そして、合理的な理由がある場合とは、「身柄拘束の不当な蒸し返しとはいえない場合」
すなわち・・・
(1)被逮捕者が引致後勾留中に逃亡した場合や
(2)被疑者をいったん釈放したが、①重要な新証拠の発見、あるいは逃亡・罪証隠滅のおそれの復活などの新事情が出現し(先行する逮捕後の事情の変更)、かつ②事案の重大性、事情変更による再逮捕の必要性、先行逮捕・勾留の身柄拘束期間とその間の捜査状況などの諸事情を勘案して、被逮捕者の利益と対比してみても再逮捕は真にやむを得ない場合
をいうと解すべきです(酒巻匡「身柄拘束処分に伴う諸問題」法学教室291号101頁参照)。
上記①②があれば、「不当な蒸し返しではない」ということになり、「再逮捕に合理的な理由がある」ということになります。①②とは別に、3つ目の要件として「逮捕の不当な蒸し返しとはいえないこと」を加える必要はありません。
見解②
①著しい事情変更があったために、再逮捕を認めても、それが逮捕の蒸し返しとはいえないこと、②再逮捕の必要性とそれにより被疑者が被る不利益とを比較衡量して再逮捕を認めることが相当であることを要件とする見解もあります(川出敏裕・法学教室379号131頁参照)。
先行する逮捕が適法であった場合の再逮捕後の再勾留の可否
Q.勾留については逮捕の場合(199条3項)のような明文規定はありません。では、再勾留は認められないのでしょうか。
見解➀
東京地決昭和47.4.4は、単なる事情変更を理由として再逮捕・再勾留することは許されないとしましたが、刑訴法には再逮捕を認める規定(199条3項)がある一方で再勾留を禁止した規定はないことを前提に、逮捕と勾留が相互に密接不可分の関係にあることに鑑み、現行法は、例外的に同一被疑事実につき再度の勾留をすることも許しているとしました。
そして、どのような場合に再勾留が許されるかについて、「先行の勾留期間の長短、その期間中の捜査経過、身柄釈放後の事情変更の内容、事案の軽重、検察官の意図その他の諸般の事情を考慮し、①社会通念上捜査機関に強制捜査を断念させることが首肯し難く、また、②身柄拘束の不当な蒸し返しでないと認められる場合」に限って、再勾留が許されるとしました(①②は筆者が挿入)。
本決定は、再勾留を認める理由として「逮捕と勾留が相互に密接不可分の関係にあること」をあげています。これは、逮捕と勾留が被疑者の身柄を拘束することにより逃亡と罪証隠滅を阻止した状態で捜査を行い被疑者を起訴するか否かを決定する一連の手続きであるという理解を前提に、その必要性があるとして再逮捕が認められる場合には、その期間だけで被疑者を起訴するか否かを決定するのではなく、それに引き続く再勾留も認められることが予定されているということを意味しています(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』82頁)。
また、前の勾留において法定の勾留期間である20日を使い切って釈放された場合には、いかに事情の変更があろうともそれ以上の期間延長は許されなかったはずであることから(208条2項後段)、再勾留は原則として許されないとの有力な見解もありますが、本決定は、先行する勾留で20日間を使い切ったが釈放後の再勾留(10日間)を認めました。
見解②
①著しい事情変更があったために、再勾留を認めても、勾留の蒸し返しとはいえないこと、②再勾留の必要性とそれにより被疑者が被る不利益とを比較衡量して再勾留を認めることが相当であることを要件とする見解もあります(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』83頁)。
先行する逮捕が違法であった場合の再逮捕・勾留の可否
勾留請求が却下された場合
見解➀
違法逮捕を理由に裁判官が勾留請求を却下し検察官が被疑者を釈放した場合に、再逮捕(勾留)を認めると、
- 再逮捕禁止の原則に反するのではないか
- 逮捕・勾留の期間制限が無意味になるのではないか
- 前逮捕の違法を不問に付すことになり、違法逮捕に引き続く勾留請求を認めない趣旨(司法の廉潔性の保持・将来の違法捜査の抑止)を没却するのではないか
という問題が生じます。
もっとも、再逮捕禁止の原則との関係については、同一被疑事実について再逮捕される場合があることを前提とした規定(199条3項)あることから、一定の場合に例外が認められています。また、逮捕・勾留の期間制限についても、199条3項の趣旨から、合理的な理由がある場合には身柄拘束の不当な蒸し返しではないとして再逮捕が認められています。
以下では、違法逮捕に引き続く勾留請求を認めない趣旨(司法の廉潔性の保持・将来の違法捜査の抑止)との関係について検討します。
【原則論】先行する逮捕が違法である場合に再逮捕を許すことは、司法の廉潔性の保持や将来の違法捜査(逮捕)抑止の見地から妥当でなく、原則として再逮捕は許されません。
【例外論】もっとも、逮捕手続の違法を理由として勾留請求が却下されることによって、当該逮捕について司法による違法宣言がなされたことになります。その結果、司法の廉潔性の保持の要請や将来の違法捜査(逮捕)抑止の要請は相当程度充たされるため、①先行する違法の程度が著しく重大ではなく、②犯罪の重大性、再逮捕を許さないことの捜査に及ぼす影響等を勘案した上で、なお当該被疑者に対する身柄拘束処分の続行がおよそ相当であるときは、再逮捕・勾留は許されるべきです(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』67頁)。
先行する逮捕が適法な場合の再逮捕には「事情の変更」が要求されるのに、先行する逮捕が違法な場合の再逮捕には「事情の変更」が要求されません(浦和地決昭和48.4.21参照)。
これは、先行する逮捕が適法な場合に必要とされる「事情の変更」の対象が、犯罪の嫌疑や罪証隠滅・逃亡のおそれなど逮捕・勾留の必要性についてであるのに対し、先行する逮捕が違法の場合は、先行する逮捕が違法であることだけをもって勾留請求が却下されたのであり、犯罪の嫌疑や罪証隠滅・逃亡のおそれなど逮捕・勾留の理由と必要性がなお存続している限り、この点について事情変更を求めることは無意味だからです (古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』67頁) 。
*違法の程度にはバリエーションがあり、違法の程度を問うことなく一律に再逮捕は許されないとして強制捜査の途を閉ざすのは、実体的真実発見の見地から不適切であるということを理由に、例外的に再逮捕が許される場合があるとする見解もあります(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』67頁)。
見解②
先行する逮捕の違法を理由に勾留請求を認めないかどうかは、それによって将来の違法逮捕を抑止する必要性と、身柄拘束の継続を認めないことによる捜査上の不利益とを比較衡量して決定されることを前提に、その判断に基づき勾留請求が却下された後に再逮捕を認めるかどうかも、同様に、身柄を拘束した状態での捜査を行う必要性と、将来の違法逮捕を抑止する必要性とを比較衡量して決定されるべきであるとの見解もあります(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』86頁)。
勾留請求せずに釈放した場合
勾留請求せずに被疑者を釈放した場合も、検察官による身柄の釈放によって違法宣言がなされていると考え、[勾留請求が却下された場合]と同様の処理になります。
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