没収とは
没収とは、犯罪と関連性のある物の所有権を剥奪し、国庫に帰属させる処分をいいます。
没収には、大きく分けて以下の2種類あります。
・ 任意的没収
・ 必要的没収
● 任意的没収は、「次に掲げる物は、没収することができる」(刑法19条1項柱書)の通り、「する」ことも「しない」こともできるという意味です。裁判官の裁量によって、没収するかを決定することができるものです。
● 必要的没収は、例えば、刑法197条の5前段に記載の通り「賄賂は、没収する」としているもので、必ず没収しなければなりません。
刑法19条1項各号(任意的没収)
- 組成物件(刑法19条1項1号)
- 犯罪供用物権(同項2号)
- 報酬物件(同項3号)
- 対価物件(同項4号)
組成物件(刑法19条1項1号)
刑法19条1項1号
犯罪行為を組成した物
「組成物件」とは、構成要件上不可欠の物件をいいます。
賭博罪⇒「賭金」
賄賂罪⇒「賄賂」(※刑法197条の5前段の必要的没収にも該当します)
犯罪供用物権(刑法19条1項2号)
刑法19条1項2号
犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
殺人罪⇒人を殺すために携帯していたが、使わなかった「ナイフ」
住居侵入・窃盗⇒侵入時に使った「鍵」
※没収のためには必ずしもすべての犯罪について起訴されていることを必要としません(最判昭25.9.14)。そのため、窃盗罪のみ起訴されていても、「鍵」を窃盗の手段としてその用に供した物といえますから、犯罪供用物件として没収できます。
報酬物件(刑法19条1項3号)
刑法19条1項3号
犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
賭博罪⇒賭博場とするために貸した部屋の賃料
「犯罪行為」とは、従犯も含みます。賭博場として部屋を貸す行為は、賭博罪の幇助行為に該当します。この幇助行為の対価として得た金銭ですので、報酬物件に該当します。
対価物件(刑法19条1項4号)
刑法19条1項4号
前号に掲げる物の対価として得た物
賭博罪⇒賭博で得た金銭で購入した「腕時計」
盗品等有償譲受罪⇒盗品を売り得た「金銭」
没収の例外(刑法19条2項)(刑法20条)
例外1. 刑法19条2項(犯人以外の者に属する物)
刑法19条2項 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。
【効果】
原則として、犯人に属する物に限り没収することができます。
もっとも、第三者にその物が属する時でも、犯罪行為に関与することを知って取得したのであれば、没収することができます。
※「犯人」には、共犯者も含む。
⇒「犯罪行為に供した物でそれが犯人以外の者に属しないときは没収され得るのであって、『犯罪行為』とは、単に被告人自身の犯罪行為だけでなく共犯者の行為をも含む」(最判昭25.5.9)
例外2. 刑法20条(比較的軽微な事件の没収)
刑法20条 拘留又は科料のみに当たる罪については、特別の規定がなければ、没収を科することができない。ただし、第19条第1項1号に掲げる物の没収についてはこの限りでない。
【効果】
原則として、拘留・科料のみを刑罰としている罪については、没収することはできません。
もっとも・・・
①特別の規定がある場合には、没収することができます
②特別の規定がなくても、刑法19条1項1号の「組成物件」に該当する場合
には、没収することができます。
● 侮辱罪(刑法231条)
● 軽犯罪法違反の罪
● 酒に酔つて公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律(同法4条1項)
必要的没収(刑法197条の5前段)
刑法197条の5
犯人又は情を知った第三者が収受した賄賂は、没収する。……
【解釈一覧】
「収受した賄賂」とは、有体物をいい、債権その他の無形の財産ないし利益は没収の対象となりません(大判大4.6.2等参照)。
【上記解釈の具体例】Q.賄賂として関係業者から借金をした場合
●実は金銭の贈与を受ける趣旨⇒贈与を受けた金員(有体物)が賄賂に該当するから、刑法197条の5前段に該当するので、没収できる。
●本当に借金をしていた⇒借金という金融上の利益(債権)が賄賂に該当するから、刑法197条の5前段の没収をすることはできない。もっとも、19条1項の没収の対象とはなります。
追徴
追徴とは、没収することができないときに、その価格を金銭で回収する処分をいいます。
追徴には、大きく分けて以下の2種類あります。
・ 任意的追徴
・ 必要的追徴
刑法19条の2(任意的追徴)
刑法19条の2
前条第1項第3号又は第4号に掲げる物の全部又は一部を没収することができないときは、その価額を追徴することができる。
【要件】
- 刑法19条1項3号の「報酬物件」、刑法19条1項4号の「対価物件」のいずれかに該当する
- 没収することができない
【効果】
追徴することができます。
その価額は、その物の「授受当時の価格によるべき」(最大判昭443.9.25)です。
なぜなら、収受者は賄賂たる物を収受することによって、その物のその当時の価格に相当する利益を得たといえ、その後のその物の価格の増減は収受とは別個の原因に基づくものにすぎないからです。
刑法197条の5(必要的追徴)
刑法197条の5後段
……。その全部又は一部を没収することができないときは、その価格を追徴する。
【解釈】
「没収することができない」とは、性質上没収できない場合、没収不能の場合をいいます。
まとめ
- 任意的に没収することができるのは、「組成物件」「犯罪供用物件」「報酬物件」「対価物件」に該当する物。
- 没収することができるのは「犯人」が持っているもの。例外的に、知っている人からは没収できる。
- 軽微な事件については没収できないが、「組成物件」なら没収できる。
- 追徴をするのは、「報酬物件」と「対価物件」だけ。
- 絶対に没収するのは、「賄賂」に該当するとき。「追徴」も絶対する。
関連問題
・犯罪行為の用に供した物(刑法第19条第1項第2号)の没収は,物の危険性に着目した処分であるため,行為者が責任無能力を理由に無罪の言渡しをされたときであっても科すことができる。(令和3年第11問)
⇒×(「没収」も刑の一種であるため)
・犯罪行為の報酬として得た貴金属を売却して得た現金は,追徴ではなく,没収の対象となる。(令和3年第11問)
⇒○(貴金属が「報酬物件」に該当し、その売却代金は「対価物件」にあたる。そのため、「没収」の対象となる)
・強制性交の犯人が,被害者に犯行の様子を撮影録画したことを知らせて捜査機関に対し処罰を求めることを断念させる目的で,ひそかに撮影録画したデジタルビデオカセットは,犯罪行為の用に供した物ではないため,没収の対象とならない。(令和3年第11問)
⇒×(「犯罪の用に供した物」にあたる:最決平成30年6月26日)
・犯罪行為によって得た物(刑法第19条第1項第3号)は,犯罪により不当に得た利益を犯人から剥奪する必要があるため,任意的没収ではなく,必要的没収の対象となる。(令和3年第11問)
⇒×(報酬物件は、任意的没収である)
・没収の対象は,刑罰の一身専属性の見地から,犯人の所有物に限られる。(令和3年第11問)
⇒×(刑法19条2項但書、197条の5)
コメント