[会社法]名板貸の責任(会社法9条)

会社法

条文

会社法9条(自己の商号の使用を他人に許諾した会社の責任)

自己の商号を使用して事業又は営業を行うことを他人に許諾した会社は、当該会社が当該事業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

商法14条(自己の商号の使用を他人に許諾した商人の責任)

自己の商号を使用して営業又は事業を行うことを他人に許諾した商人は、当該商人が当該営業を行うものと誤認して当該他人と取引をした者に対し、当該他人と連帯して、当該取引によって生じた債務を弁済する責任を負う。

名板貸人が会社である場合は会社法9条、会社以外の商人である場合は商法14条が適用されます。

名板貸の責任の要件

【要件】

  1. 名板借人が名板貸人の「商号」を使用して「事業又は営業」を行うこと(外観の存在)
  2. 名板貸人の「許諾」(帰責性)
  3. 第三者の「誤認」(相手方の信頼)

要件①:外観の存在

 商号は社会的には特定の事業・営業の同一性を表示し、その信用を担保するものであるから、名板借人の「事業又は営業」は、特段の事情がない限り、名板貸人の事業・営業と同種であることを要します(最判昭和43.6.13)。
 もっとも、異種の事業・営業であっても、取引の相手方が名板貸人の事業・営業であると誤認するおそれが十分にあったといえる特段の事情がある場合は、名板貸の責任が生じます(田中亘『会社法(第2版)』40頁)。

要件②:帰責性

商号使用についての名板貸人の「許諾」は、明示であることを要せず、黙示の場合も含みます。

他人に商号使用を「許諾」してはいないものの、取引の相手方に事業・営業主体を誤認させるような外観を作出し、または作出に関与した者の責任を認めるために9条が類推適用される場合があります(田中亘『会社法(第2版)』41頁、最判平成7.11.30)。

【類推適用の要件】

  1. 事業・営業主体の誤認を生じさせるような外観の存在
  2. 名板貸人の帰責性
  3. 取引の相手方の誤認

要件③:相手方の信頼

誤認したことについて相手方に過失がある場合であっても、名板貸人の責任は生じます。ただし、相手方に重過失がある場合は、悪意と同視し、名板貸人の責任は生じません(最判昭和41.1.27)。

名板貸人の責任の範囲

名板貸人は「当該取引によって生じた債務」について弁済する責任を負います(9条)。
Q.そこで、「当該取引によって生じた債務」の意義が問題になります。

「当該取引によって生じた債務」には、取引上の債務に加えて、名板借人の債務不履行に基づく損害賠償債務、契約解除の原状回復義務、手形債務なども含まれます。
 これに対し、事実上の不法行為に基づく債務については、不法行為の相手方が名板貸人を事業・営業主体と誤認したわけではないため、名板貸人は責任を負いません(最判昭和52.12.23)。

最判昭和52.12.23

9条の趣旨は、「第三者が名義貸与者を真実の営業主であると誤認して名義貸与を受けた者との間で取引をした場合に、名義貸与者が営業主であるとの外観を信頼した第三者の受けるべき不測の損害を防止するため、第三者を保護し取引の安全を期することにある」から、9条の『当該取引によって生じた債務』とは、「第三者において右の外観を信じて取引関係に入ったため、名義貸与を受けた者がその取引をしたことによって負担することとなった債務」をいうとしました。そして、「名義貸与を受けた者が交通事故その他の事実行為たる不法行為に起因して負担するに至った損害賠償債務は、右交通事故その他の不法行為が名義貸与者と同種の営業活動を行うにつき惹起されたものであっても右にいう債務には当たらない」としました。

最判昭和58.1.25

9条の趣旨について、「第三者が名義貸与者を真実の営業主であると誤認して名義貸与を受けた者との間で取引をした場合に、名義貸与者が営業主であるとの外観を信頼した第三者を保護し、もって取引の安全を期することにあるというべきであるから、名義貸与を受けた者がした取引行為の外形をもつ不法行為により負担することになった損害賠償債務も、」9条にいう『当該取引によって生じた債務』に含まれるとしました。

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