[刑訴法]嚥下物の採取

刑事訴訟法

嚥下物の採取の可否

レントゲン撮影により嚥下物の有無を確認し、下剤の投与により嚥下物を差し押さえることができるでしょうか。

  • 強制採尿はカテーテルが用いられるため身体への侵襲の程度が大きいのに対し、嚥下物の押収は薬剤の利用により排泄が促されるにとどまるため身体への侵襲の程度は強制採尿の場合よりも小さい
  • 嚥下物の押収を強制採尿と同視することはできないが、嚥下物の押収の場合も、自然排泄を待っていては体内で袋が破ける危険があるなど、事態の切迫性が認められ、犯罪捜査の必要上強制排泄を認めざるを得ない場合がある

以上のことから、自然排泄を待てないほどの事態の切迫性、事案の重大性、手段の相当性、押収の必要性が認められる場合には、嚥下物の強制押収が認められます。

必要となる令状の種類

レントゲン撮影および下剤の投与は、身体の損傷を伴い、また、健康状態に障害を及ぼすおそれもあるため、これを相手方の同意なく行うことは、個人の意思を制圧して、身体に実質的に制約を加えることになり、「強制の処分」(197条1項但書)に当たります。

では、嚥下物を採取するために必要な令状はどれでしょうか。嚥下物の採取について定めた明文規定がないため問題になります。

A説

レントゲン撮影により嚥下物の有無を確認する行為は、捜索というよりもむしろ嚥下物の状態を確認する作用である点で検証に類似していることから、検証としての身体検査令状(218条1項後段)によるべきである。218条6項により、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が必要である。薬剤投与については専門的知見が不可欠であることから鑑定処分許可状(225条1項、168条1項)も併用して運用すべきである。

B説(実務)

嚥下物は、血液とは異なり、人体の構成要素ではなく、いずれ体外に排出される異物であるため、「物」としての性格を有する。したがって、嚥下物の採取は捜索・差押えの性質を有するため、捜索差押許可状(218条1項前段)によるべきである。ただし、218条6項の準用により、医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が必要である。薬剤投与については専門的知見が不可欠であることから鑑定処分許可状(225条1項、168条1項)も併用して運用すべきである。

実務の運用

採取の対象必要な令状の種類
尿捜索差押許可状
血液鑑定処分許可状+身体検査令状
嚥下物捜索差押許可状+鑑定処分許可状
毛髪鑑定処分許可状+身体検査令状

強制採尿については、以下の記事を参照ください。

強制採血については、以下の記事を参照ください。

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