[刑訴法]強制処分・任意処分の限界

刑事訴訟法

強制処分の意義

憲法には、逮捕、捜索、押収などには、原則として裁判官の発する令状が必要であると定められています(憲法33条・35条、令状主義)。刑訴法ではこれを受けて、強制処分は刑訴法に定めがなければできないと規定し(刑訴法197条1項但書、強制処分法定主義)、逮捕・捜査等の強制処分の要件を定めています。

任意捜査であればこのような制限がないため、当該捜査方法が強制捜査か任意捜査かを区別することが重要です。

憲法33条(逮捕の要件)
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない

憲法35条(住居の不可侵)
1 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第33条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない
2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ

刑事訴訟法197条(捜査に必要な取調べ)
1 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。
2 ……

判例説

「強制の処分」(197条1項但書)とは、個人の意思を制圧し、身体、住居、財産に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でないものをいいます(最決昭和51.3.16)。

最大判平成29.3.15百選10版30事件は、「強制の処分」とは、個人の意思を制圧し、憲法の保障する重要な法益を侵害するものをいい、ここにいう「意思を制圧する」とは、個人の明示の意思に反する場合はもとより、合理的に推認される個人の意思に反する場合も含まれるとしました。
 なぜなら、合理的に推認される意思に反し憲法の保障する重要な法益を侵害する場合も現実に表明された意思を制圧し憲法の保障する重要な法益を侵害する場合も価値的には同じでだからです(東京高判平成28.8.23)。

有力説:重要利益侵害説

「強制の処分」とは、相手方の明示又は黙示の意思に反して重要な権利・利益を実質的に侵害するものをいう。

理由
➀意思に反しない場合は侵害があるとはいえない。
➁また、強制処分法定主義による法的効果の重さ、令状主義による統制など現に法定された強制処分の要件・手続の厳格さに照らし、強制処分とは、そのような保護に見合うだけの権利・利益の制約を伴う処分でなければならない。
③判例の指す、「身体、住居、財産等」は憲法33条、35条が保障する重要な権利を示すことで、このような重要な権利の例示をしているに過ぎず、限定してはいないから、「重要な権利・利益」と置き換えできる。

強制処分の種類

刑訴法は、対人的強制処分対物的強制処分を強制処分として規制しています。これを利用してなされる捜査が強制捜査です。

対人的強制処分
  • 被疑者の逮捕(199条、210条、213条)
  • 被疑者の勾留(207条)
  • 証人尋問、証人の勾引(226条、227条)
  • 身体検査(218条)
  • 鑑定留置(224条)
対物的処分
  • 捜索、差押え、検証(218条、220条)
  • 通信傍受(222条の2)

強制処分該当性

Q.強制処分にあたるかは、どうやって判断する?

  1. 「意思の制圧」があるか
  2. 憲法の保障する重要な法益を侵害するか(身体、住居、財産等に対する侵害か)

を検討します。

強制処分該当性の判断は、「当該処分が、その性質上、重要な法益を侵害するものか」という、一般的・類型的判断(個別具体的事案における個別事情を考慮しない)です。捜査機関の行為態様に着目した判断であり、個別事案における必要性・緊急性や当該行為から生じた結果については考慮しません。

たとえば・・・

強制処分該当性を肯定したエックス線検査の判例は、「内容物によっては」「その品目等を相当程度具体的に特定することも可能」であるという判断にとどめており、実際に品目等をどの程度具体的に特定できたのかということは考慮していません(最決平成21.9.28)

「具体的にどの程度対象者の権利・利益を侵害したか」という個別具体的判断は、任意処分の適法性判断のところで行います。

「強制の処分」に該当するからといって、直ちに強制処分法定主義に反するわけではありません。強制処分法定主義違反になるのは、問題となっている捜査機関の行為について刑訴法に「特別の定」がない場合です。刑訴法に「特別の定」がある場合には、捜査機関が令状なく行ったという令状主義違反の問題になります。

任意捜査の限界

任意処分であっても何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるため、常に許容されるわけではありません。

捜査比例の原則を適用し、必要性、緊急性などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ許容されると解すべきです(最決昭和51.3.16)。

  • 実質的理由:法益侵害又はその危険があること
  • 理論的理由:比例原則

この判断にあたっては、比例原則から、(1)特定の捜査手法により対象者に生じる法益侵害の内容・程度と、(2)捜査目的を達成するため当該捜査手法を用いる必要性との間の合理的権衡を吟味することになります(平成27年司法試験出題趣旨参照)。

考慮要素
  • 事案の性質、重大性
  • 嫌疑の存在・程度
  • 当該措置の必要性(証拠保全の必要性、代替手段の不存在)
  • 緊急性(令状取得の暇がない、証拠隠滅の防止・保全の緊急の必要性)
  • 被侵害法益の内容・程度

★任意処分については、裁判所の事後的なケースバイケースの審査が及ぶことになります。

相当性には、方法の相当性(被侵害法益の性質・程度を検討)と結果の相当性(比較衡量した結果相当といえるか)があります。

関連論点

エックス線検査の適法性については、以下の記事を参照ください。

秘密録音の適法性については、以下の記事を参照ください。

ゴミ捜査の適法性・領置については、以下の記事を参照ください。

写真撮影・ビデオ撮影の適法性については、以下の記事を参照ください。

おとり捜査については、以下の記事を参照ください。

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