[刑訴法]弾劾証拠(328条)

刑事訴訟法

条文の定め

刑事訴訟法328条(証明力を争うための証拠)

第321条乃至第324条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であつても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる

328条は、伝聞例外に当たらない公判外供述でも、公判供述の証明力に関する補助証拠として扱うことは許されるということを示しています。

*補助証拠=補助事実を証明するための証拠(リークエ2版348頁)。

*補助事実=実質証拠の証明力に影響を与える事実。

*実質証拠=主要事実や間接事実の証明に向けられる証拠(リークエ2版348頁)。

[主要事実・間接事実]
    ↑
  [実質証拠]
 証明力・信用性 ← [補助事実]
             ↑
           [補助証拠]

328条により許容される証拠は自己矛盾供述に限られるのか

証明力を争うための「証拠」は自己矛盾供述でなければならないのでしょうか。

限定説(判例・通説)

自己矛盾供述に限る(最判平成18.11.7百選87)。

∵他者(第三者)矛盾供述によって公判供述を弾劾するためには内容の真実性を問題とせざるを得ず、そうすると、実質証拠として機能することとなり、伝聞法則を骨抜きにするおそれがある(古江『事例演習刑事訴訟法(第2版)』375頁)。

非限定説

自己矛盾供述に限定しない。

∵①328条の文言が自己矛盾供述に限定していない。②自己矛盾供述は本来は非伝聞であって、328条の許容する証拠を自己矛盾供述に限定すると、328条の存在意義がなくなる(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』374頁)。

限定説の考え方

自己矛盾供述を弾劾目的で使用する場合、その存在自体で公判廷における証人の証言の信用性を減殺できるため、その内容が真実であるという期待を前提としません。限定説は、328条を伝聞例外の規定ではなく、非伝聞証拠であることを注意的に規定したものであると解します。

厳格な証明が必要か、自由な証明で足りるか

自己矛盾供述の存在について立証するためには、厳格な証明が必要です(最判平成18.11.7百選87)。

自己矛盾供述が存在するとの事実は、公判供述の信用性に係る補助事実です(訴訟法上の事実であるから本来自由な証明で足りるはず)が、厳格な証明を要する実質証拠の証明力に影響を及ぼすことから、厳格な証明を要すると考えます(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』380頁参照)。

最判平成18.11.7百選87は、「刑訴法328条は、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述が、別の機会にしたその者の供述と矛盾する場合に、矛盾する供述をしたこと自体の立証を許すことにより、公判準備又は公判期日におけるその者の供述の信用性の減殺を図ることを許す趣旨のものであり、別の機会に矛盾する供述をしたという事実の立証については、刑訴法が定める厳格な証明を要する趣旨であると解するのが相当である。そうすると、刑訴法328条により許容される証拠は、信用性を争う供述をした者のそれと矛盾する内容の供述が、同人の供述書供述を録取した書面(刑訴法が定める要件を満たすものに限る。)同人の供述を聞いたとする者の公判期日の供述又はこれらと同視し得る証拠の中に現れている部分に限られる」としました。

供述録取書を弾劾証拠として用いる場合、供述者の署名・押印が必要か

厳格な証明が必要である以上、伝聞証拠禁止原則が妥当するから、供述者の署名・押印が必要です。

調査官は、供述録取書は、供述者が供述録取者に対して供述する過程(第1供述過程)と、供述録取者がこれを書面化して伝える過程(第2供述過程)からなるが、いずれについても反対尋問にさらされていないから伝聞性があり、二重の伝聞過程を有するところ、328条によって伝聞法則の制限が外れるのは、第1供述過程のみであって、第2供述過程の伝聞性は残るため、第2供述過程の伝聞性を外すには供述者の署名・押印が必要になる、と説明しています(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』378頁)。

公判供述後の自己矛盾供述を含むか

公判供述よりも後になされた自己矛盾供述であっても、328条の「証拠」に含まれるのでしょうか。

積極説(判例)

公判供述後の自己矛盾供述も弾劾証拠として採用する(最判昭和43.10.25)。

∵①328条は「前の」供述に限定していない。②実質証拠ではなく補助証拠にすぎないため、321条1項2号後段書面のように事後的反対尋問を考慮する必要がない(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』384頁)。

消極説

公判供述後の自己矛盾供述は弾劾証拠として採用できない。

∵①検察官にとって不利な証言後に法廷外で証人を取り調べて有利な供述を引き出し、これを弾劾証拠として利用するのは、公判中心主義や当事者対等の原則に反する(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』384頁)。②証人が公判供述を終えた後で自己矛盾供述の提出を許すと、相手方が矛盾供述の理由について証人に尋問する機会が保障できない(後藤昭『伝聞法則に強くなる』180頁)。

回復証拠としての自己一致供述

「証明力を争うため」(328条)とは、証明力を減殺する場合に限るのでしょうか、一旦減殺された証明力を回復させる場合も含まれるのでしょうか。

・公判供述が利害関係によって弾劾された場合に、利害関係が生じる前の自己一致供述によって証明力を回復することが許されるでしょうか。

この類型は、利害関係が生じる前の自己一致供述の存在が、公判供述と指摘された利害関係との因果関係を否定する証拠となり、内容の真実性を前提としなくてもその存在自体に意味があるため(非伝聞)、328条によって回復証拠として用いることができます。

・公判供述が自己矛盾供述により弾劾された場合に、自己一致供述を回復証拠として使えるでしょうか。

積極説(多数説)

自己矛盾供述による弾劾に対する反対方向での弾劾であるため(弾劾の弾劾)、328条によって回復証拠として採用できる。

消極説

この自己一致供述は、供述者がしばしば話を変える人だという推論によって、供述者の供述の信用性をさらに低める結果になるため、採用できない。

消極説を採る場合でも、その矛盾供述が特別な事情によって生じたのであり、それがなかった状況では一致する供述をしていたことを示せるのであれば、自己一致供述に回復証拠としての意味があり、328条の証拠として採用できる(後藤昭『伝聞法則に強くなる』182頁)。

増強証拠

「証明力を争うため」(328条)とは、証明力を減殺する場合に限るのでしょうか、増強させる場合も含まれるのでしょうか。

(限定説から)328条で許されるのは、公判外供述の存在自体で公判供述の証明力を争う場合、すなわち非伝聞的使用に限られるところ、増強証拠の場合、供述内容たる事実の真実性を推認するために用いることになるため、増強証拠は含まれません(リークエ2版411頁)。

検察官が328条により弾劾証拠として取調べを請求しているときは、320条の伝聞証拠に当たるかどうかや、321条などの伝聞例外規定該当性を検討する必要はなく、答案ではいきなり328条該当性を検討すべきです(平成20年度旧司法試験第二次試験論文式出題趣旨参照、古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』385,386頁参照)。

コメント

タイトルとURLをコピーしました