[刑訴法]捜査手続総論

刑事訴訟法

捜査から刑の執行までの流れ

(犯罪発生→)捜査 → 起訴 → 公判審理・裁判 →(上訴→再審→) 刑の執行

捜査は、捜査機関(司法警察職員、検察官、検察事務官)によって行われる、公訴のための準備活動であり、起訴し裁判で有罪にするのに必要な証拠を収集・保全するとともに、犯罪を犯した疑いのある者(被疑者)を探索したり、必要があればその身柄を確保したりする活動のことです。

警察の職務

警察の職務は大きく分けて2つあり、司法警察活動行政警察活動があります。

司法警察活動
⇒特定の犯罪の犯人を訴追するための準備活動として行われる活動。
刑訴法でいう「捜査」とは、司法警察活動のことを指します。

行政警察活動
⇒公共の安全と秩序の維持を目的として、犯罪の予防・鎮圧や交通取締り等をすること。

捜査

捜査は、捜査機関が「犯罪があると思料するとき」に行われます(189条2項参照)。

刑事訴訟法189条(一般司法警察職員と捜査)

1 警察官は、それぞれ、他の法律又は国家公安委員会若しくは都道府県公安委員会のただめるところにより、司法警察職員として職務を行う。

2 司法警察職員は、犯罪があると思料するときは、犯人及び証拠を捜査するものとする。

捜査を行うためには、特定の犯罪に該当する事実(構成要件に該当する具体的事実)があると思える「理由」がなければなりません。

 ここにいう「理由」とは、犯罪に該当する事実があると合理的にうかがわせる事情・資料をいいます。この事情・資料は、捜査を行うに先立って存在していなければならず、この事情・資料がないのに、特定の個人をターゲットにして何らかの犯罪に関する事情・資料がないかを探すという方法での捜査は許されません(リークエ2版34頁、35頁)。

捜査の端緒

捜査の端緒:捜査機関が特定の犯罪が発生したとの疑いを抱くきっかけ捜査を開始するきっかけ

前述のとおり、捜査は、捜査機関が「犯罪があると思料」したとき、すなわち、特定の犯罪が発生したとの疑いを抱いたときに開始されます(189条2項参照)。

被害者からの届出(被害届)をきっかけに、捜査が開始されることが多いです。

【捜査の端緒となり得る行為の例】

  • 申告
  • 検視
  • 告訴・告発・請求
  • 自首
  • 職務質問
  • 現行犯逮捕

申告

申告:被害者や目撃者等が、警察に対して、犯罪があったことを知らせること。

ex.110番通報

検視

検視:変死者又は変死の疑いのある死体がある場合に、その死亡が犯罪によって生じたものかどうかを判断するために死体の状況を見分すること(229条1項参照)。

検視は、犯罪によって生じたものかどうかを判断するために行われるものであり、捜査ではありません。検視の結果、犯罪によって生じたものである疑いがあるとされれば、捜査の端緒になります。

告訴・告発

告訴:被害者等が、検察官又は司法警察員に対して、犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示(230条)。

被害届は単なる犯罪事実の申告であるのに対し、告訴は犯人の処罰を求める意思表示を含んでいます。

告発は誰でもできるのに対し、告訴は告訴権者のみ(被害者とその法定代理人、一定の場合の被害者の親族等)ができます。

告発:告訴権者及び犯人以外の者が、捜査機関に対して、犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求める意思表示(239条)。

自首

自首:犯罪事実又は犯人が誰であるかが捜査機関に発覚する前に、犯人が自ら進んで捜査機関に自己の犯罪事実を申告し、その処分に服する意思表示(刑法42条)。

刑法上は刑の減免事由とされますが、刑訴法上は捜査の端緒になるにすぎません。

職務質問

職務質問:「警察官が、挙動不審者等に対し、停止を求めて質問すること」(『基本刑事訴訟法Ⅰ』36頁)。根拠規定は警職法2条1項です。

職務質問は、犯罪の予防・鎮圧等を目的とする行政警察活動の一環です。

警察官職務執行法2条(質問)

1 警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。

2 その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。

3 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。

4 警察官は、刑事訴訟に関する法律により逮捕されている者については、その身体について凶器を所持しているかどうかを調べることができる。

職務質問の結果、犯罪の疑いがあるとされれば、捜査の端緒になります。

職務質問は、あくまで任意のものとして行われなければなりません。

捜査に関する基本原則

任意捜査の原則

捜査には、任意捜査強制捜査があります。

  • 強制捜査:強制処分を用いて行う捜査。
  • 任意捜査:強制捜査以外の、任意処分を用いて行う捜査。

任意捜査の原則とは、捜査はなるべく任意捜査の方法によって行わなければならないことをいいます。

強制処分法定主義

強制処分法定主義:強制の処分は、刑訴法に特別の定めのある場合にしかすることができない(197条1項但書)。

したがって、捜査機関は、刑訴法に定められていない強制捜査をすることができません。

刑事訴訟法197条(捜査に必要な取調べ)

1 捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し、強制の処分は、この法律に特別の定のある場合でなければ、これをすることができない。

2 ……

強制処分法定主義(197条1項但書)は、憲法31条に基づくものです。強制処分は、相手方の同意・承諾がないまま重要な権利・利益を侵害・制約するものであるから、その内容は国民の代表である国会が法律で定めます(民主主義的要請)。また、国民の行動の自由を保障するため、その内容が事前に明らかにされなければなりません(自由主義的要請)(『基本刑事訴訟法Ⅰ』34頁)。

憲法31条(法定の手続の保障)

何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。

令状主義

令状主義:強制処分は、対象者の重要な権利・利益を侵害・制約するものであることから、捜査機関のみの判断で行うことはできず、裁判官の発する令状が必要であるという原則。

令状主義の根拠規定は、憲法33条・35条です。

憲法33条

何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない

憲法35条

1 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない

2 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

【令状主義の例外】

  • 現行犯逮捕
  • 緊急逮捕
  • 逮捕に伴う捜索・差押え

捜査比例の原則

捜査比例の原則:捜査は、個人の権利・利益に対し弊害を生じさせるため、捜査の正当な目的を達成する必要性があり、かつ、その必要性に応じた相当なものでなければならないとする原則。

捜査の必要性個人の権利・利益の侵害・制約の程度とが均衡していることが求められています。

任意捜査であっても、強制捜査であっても、比例原則が適用されます。

必要性

「必要性の程度は、事件の性質・重大性、嫌疑の程度、当該行為によって得られることが見込まれる情報や証拠の価値・重要性、当該行為に至るまでの捜査の進展状況等、事件に関する具体的事情を考慮して判断される。」(リークエ2版37頁)

相当性

同一の捜査目的を達成するために有効な手段が複数考えられるときは、できるだけ弊害の少ない手段が選ばれるべきです。

また、犯罪が軽微である場合や、犯罪が軽微でなくとも捜査によって得られる証拠や情報がそれほど重要なものではない場合には、個人の権利・利益への制約が大きい手段は採るべきではありません。

行政警察活動を規制する一般規範

行政警察活動も、比例原則が適用され、その正当な目的を達成するために必要かつ相当な範囲で行われなければなりません(警察比例の原則)。

また、行政警察活動には、法律留保の原則も妥当し、(侵害留保説からは)私人の財産・自由の侵害を伴う行為には法律の根拠が必要とされます。

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