[刑訴法]捜索・差押えの際の写真撮影

刑事訴訟法

問題の所在

捜索・差押えの実施の際に、写真撮影が行われる場合があります。この場合に検証許可状が必要でしょうか。

捜索差押えは、物の発見および目的物の占有取得のための処分であるのに対し、写真撮影は物・人・場所の形状等を客観的に認識する処分であり、性質が異なります。検証許可状を得ることなく、捜索差押許可状だけで、捜索場所において写真撮影をすることは許されるでしょうか。

付随的処分説(最決平成2.6.27百選10版32事件[藤島昭]裁判官の補足意見)

捜索・差押えの際に現場において写真撮影を行うことは、五官の作用によって物・人・場所の形状等を認識するものであるから、検証に当たるため、原則として検証許可状が必要です。

もっとも、令状執行の適法性を担保するために執行状況を撮影したり、あるいは、差押物件の証拠価値を保存するために発見された状況等を撮影することも、検証に当たりますが、このような捜索・差押えの際の写真撮影は、写真撮影により侵害されるプライバシーが捜索・差押えにより侵害されるプライバシーにもともと包摂されていると評価し得るため、捜索・差押えの付随的処分として適法と解されます。

捜索差押許可状に明記されている物件以外の物を撮影した場合には、捜索差押許可状に付随した検証行為とはいえないため、検証許可状が必要であり、検証許可状なく写真撮影した場合は、違法な検証行為になります。

問題となる撮影行為検証許可状の要否
差し押さえるべき物として許可状に記載されて範囲に含まれ、証拠物の証拠価値を保存するため、あるいは証拠物の被疑事実との関連性を評価するために、証拠物を発見した場所、発見された状態において撮影する場合不要
捜索・差押え手続の適法性を担保するためにその執行状況を撮影する場合不要
差押許可状に記載されていない物件やその内容をことさら撮影する場合必要
捜索現場をくまなく撮影し、その結果捜索場所を検証したのと変わらなくなる場合必要

「捜索差押えに付随する処分として許されるとする見解からは、証拠物の証拠価値を保存するため、あるいは手続の適法性の担保のため写真撮影が許されるとの規範を定立することになろう。」(平成21年司法試験出題趣旨)

事例への法適用の部分では、まず、写真撮影の対象が本件捜索差押許可状の捜索対象物に該当するかを検討し、その上で、当該写真撮影が証拠物の証拠価値を保存するためなどに必要であるか否かを検討してその適法性を論ずることになろう(平成21年司法試験出題趣旨)。

「必要な処分」説

令状執行の適法性の証明のために撮影する場合や、差し押さえることができる物についてその証拠価値を保全するために撮影する場合は、捜索・差押えの結果や適法性を担保するために「必要な処分」(222条1項、111条1項)として検証許可状なく行うことができ、捜索・差押えの対象たる場所や物以外に被写体が拡大することも、それが避けられないものである限り、「必要な処分」の範囲内であり、適法であるとする見解です。

しかし、111条1項が「差押状、記録命令付差押状又は捜索状の執行については、錠をはずし、封を開き、その他必要な処分をすることができる」と定めていることから、「必要な処分」とは、令状の執行に接着し、かつ、令状を執行するのに不可欠な行動を意味するものと考えられるため、捜索・差押えの過程での写真撮影をそのような意味での「必要な処分」として理解することには無理があります(「法学セミナー2009」111頁)。

準抗告できるか

Q.捜索・差押えの際の写真撮影が違法な場合に、準抗告できるでしょうか。

検証は準抗告の対象になっていません(430条1項・2項)。

捜索・差押えの際の写真撮影が「押収…に関する処分」(430条1項・2項)に当たるかが問題になります。

刑事訴訟法430条(準抗告)
1 検察官又は検察事務官のした第三十九条第三項の処分又は押収若しくは押収物の還付に関する処分に不服がある者は、その検察官又は検察事務官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。
2 司法警察職員のした前項の処分に不服がある者は、司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にその処分の取消又は変更を請求することができる。
3 ……

否定説

捜索・差押えの際の写真撮影は検証としての性質を有するため「押収…に関する処分」に当たらず、準抗告できない。

一部肯定説

捜索・差押えの際の写真撮影は検証としての性質を有するため原則として準抗告できないが、対象物をくまなく撮影するなど、当該写真撮影が証拠物の占有取得と機能的に同価値である場合には、実質的には対象物を差し押さえたものと評価し、「押収…に関する処分」として準抗告の対象になる(最決平成2.6.27参照)。

最決平成2.6.27の補足意見は、「物の外形のみの写真撮影に止まらず、捜索差押許可状に明記された物件以外の日記帳の内容を逐一……撮影するなど、捜査の帰すうに重大な影響を及ぼす可能性のある、あるいは重大事件の捜査の端緒となるような文書の内容等について、検証許可状なくして写真撮影が行われたような場合」は、「実質的にみれば、捜査機関が日記帳……を差し押さえてその内容を自由に検討できる状態に置いているのと同じであるから、写真撮影という手段によって実質的に日記帳……が差し押さえられたものと観念し、これを『押収に関する処分』として刑訴法430条の準抗告の対象」とすることも考えられるとしています。

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