[原則]即時取得
民法192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
「動産」を「無権利者」から「取引行為」によって「引渡し」を受けることで、動産の所有権を取得することができます(民法192条)。
もっとも、即時取得には、占有物が「盗品」又は「遺失物」である場合には、以下のような例外があります。
[例外]盗品・遺失物の回復
[たとえば・・・]
上記の例の場合、Bは原則として即時取得を主張して動産の所有権を得ることができるはずです(民法192条)。
ですが、BはAから盗まれた「盗品」を購入しています。
この場合には、AはBに対して2年間に限り動産[盗品]の回復請求をすることができます(Aの動産回復請求権:民法193条)。
そして・・・
Bが「競売」若しくは「公の市場」において、又はその物と同種の物を販売する「商人」から動産を購入していた場合、AがBに民法193条の回復請求をするには、Bが商人に支払った金額をAがBに支払う必要があります(Bの代価の弁償請求:民法194条)。
民法193条の法的性質
即時取得が、真の権利者としての外観を信頼して取引に入った者を保護することを目的にしているところ、「盗品」などの場合には、被害者または遺失者の意思によらないで占有を離れた物について、「真の権利者を保護する」必要がより高いと考えられています。
そのため、民法193条は、即時取得(民法192条)の例外として動産回復請求権を規定しています。
そして、民法193条は「真の権利者を保護するため」の規定であると考えられています。
「被害者」「遺失者」(民法193条)には、所有権者に限らず、動産の賃借人などの占有権原のある占有者なども含まれます。
「盗品・遺失物」とは?
「盗品・遺失物」には、詐欺、恐喝、横領など元の所有者の意思に基づいて占有が移転した場合は、含まれません(大判明治41年10月8日)
「2年間」の所有権の所在
Q.では、「2年間」に限定されていますが、この間は「誰に」所有権があるのでしょうか。
A.以下の2つの考えがあります。
[有力説]
○2年間は、元の所有者に所有権があると考える説
⇒193条が定めているのは所有権に基づく返還請求権であって、これを「2年間」に制限している規定であると考えることになります。
[反対説]
○占有取得者が所有者であると考える説
⇒193条は元の所有者に対して所有権回復の意思表示をすることを認めるという、「形成権」を認めた規定であると考えることになります。
民法194条の法的性質
民法194条は、民法193条の適用場面を補足する規定です。
「競売」若しくは「公の市場」において、又はその物と同種の物を販売する「商人」から動産を購入していた場合には、動産の返還を求めるには、購入金額分の金銭の支払いを求めています。
これは、民法193条で動産を返還させられた者(上記のB)が購入先(「商人」など)に対して責任追及することで、商業活動などに大きな支障を生じさせることになりかねません。
これを防止するために真の権利者に対して代価を弁償することを求めています。
関連する重要判例
最判平成12年6月27日 民集54巻5号1737頁
↑「バックホー」はこんな感じの重機です。
A(被上告人)は、土木機械(以下「本件バックホー」という。)を所有していたが、平成6年10月末ころ、Dほか一名にこれを盗取された。B(上告人)は、平成6年11月7日、無店舗で中古土木機械の販売業等を営むE(以下「E」という。)から、本件バックホーを300万円で購入し、その代金を支払って引渡しを受けた。
購入の際、Bは、Eが本件バックホーの処分権限があると信じ、かつ、そのように信ずるにつき過失がなかった。平成8年8月8日、Aは、Bに対して本件訴訟を提起し、所有権に基づき本件バックホーの引渡しを求めるとともに、本件バックホーの使用利益相当額として訴状送達の日の翌日である同月21日から右引渡済みまで1箇月45万円の割合による金員の支払を求めた。
Bは、右金員の支払義務を争うとともに、民法194条に基づき、Aが300万円の代価の弁償をしない限り本件バックホーは引き渡さないと主張した。
【原審の判断】
「1 Eは民法一九四条にいう「其物ト同種ノ物ヲ販売スル商人」に当たり、Bは民法一九二条所定の要件を備えているから、Bは、Aの本件バックホーの引渡請求に対して、民法一九四条に基づき代価の弁償がない限りこれを引き渡さない旨の主張をすることができる。
2 占有者が民法一九四条に基づく主張をすることができる場合でも、代価が弁償されると物を返還しなければならないのであるから、本権者から提起された返還請求訴訟において本権者に返還請求権があると判断されたときは、占有者は、民法一八九条二項により本権の訴え提起の時から悪意の占有者とみなされ、民法一九〇条一項に基づき果実を返還しなければならない。したがって、Aは本件バックホーの引渡請求に係る訴えを取り下げてはいるが、Bが本件バックホーをなお占有していれば、Aの右請求が認容される場合に当たるから、Bは、本件訴え提起の時から引渡しの日まで本件バックホーの果実である使用利益の返還義務を負う。
3 Bは、民法一九四条に基づき、Aに対して代価の弁償を請求することができると解すべきであり、右債務は反訴状送達の日の翌日から遅滞に陥る。」
【裁判所の判断】
【要旨1】1 盗品又は遺失物(以下「盗品等」という。)の被害者又は遺失主(以下「被害者等」という。)が盗品等の占有者に対してその物の回復を求めたのに対し、占有者が民法一九四条に基づき支払った代価の弁償があるまで盗品等の引渡しを拒むことができる場合には、占有者は、右弁償の提供があるまで盗品等の使用収益を行う権限を有すると解するのが相当である。けだし、民法一九四条は、盗品等を競売若しくは公の市場において又はその物と同種の物を販売する商人から買い受けた占有者が同法一九二条所定の要件を備えるときは、被害者等は占有者が支払った代価を弁償しなければその物を回復することができないとすることによって、占有者と被害者等との保護の均衡を図った規定であるところ、被害者等の回復請求に対し占有者が民法一九四条に基づき盗品等の引渡しを拒む場合には、被害者等は、代価を弁償して盗品等を回復するか、盗品等の回復をあきらめるかを選択することができるのに対し、占有者は、被害者等が盗品等の回復をあきらめた場合には盗品等の所有者として占有取得後の使用利益を享受し得ると解されるのに、被害者等が代価の弁償を選択した場合には代価弁償以前の使用利益を喪失するというのでは、占有者の地位が不安定になること甚だしく、両者の保護の均衡を図った同条の趣旨に反する結果となるからである。また、弁償される代価には利息は含まれないと解されるところ、それとの均衡上占有者の使用収益を認めることが両者の公平に適うというべきである。
これを本件について見ると、Bは、民法一九四条に基づき代価の弁償があるまで本件バックホーを占有することができ、これを使用収益する権限を有していたものと解される。したがって、不当利得返還請求権又は不法行為による損害賠償請求権に基づくAの本訴請求には理由がない。これと異なり、Bに右権限がないことを前提として、民法一八九条二項等を適用し、使用利益の返還義務を認めた原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は原判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。この点をいう論旨は理由がある。
2 本件において、BがAに対して本件バックホーを返還した経緯は、前記一のとおりであり、Bは、本件バックホーの引渡しを求めるAの本訴請求に対して、代価の弁償がなければこれを引き渡さないとして争い、第一審判決がBの右主張を容れて代価の支払と引換えに本件バックホーの引渡しを命じたものの、右判決が認めた使用利益の返還債務の負担の増大を避けるため、原審係属中に代価の弁償を受けることなく本件バックホーをAに返還し、反訴を提起したというのである。【要旨2】右の一連の経緯からすると、Aは、本件バックホーの回復をあきらめるか、代価の弁償をしてこれを回復するかを選択し得る状況下において、後者を選択し、本件バックホーの引渡しを受けたものと解すべきである。このような事情にかんがみると、Bは、本件バックホーの返還後においても、なお民法一九四条に基づき被上告人に対して代価の弁償を請求することができるものと解するのが相当である。大審院昭和四年(オ)第六三四号同年一二月一一日判決・民集八巻九二三頁は、右と抵触する限度で変更すべきものである。
そして、代価弁償債務は期限の定めのない債務であるから、民法四一二条三項によりAはBから履行の請求を受けた時から遅滞の責を負うべきであり、本件バックホーの引渡しに至る前記の経緯からすると、右引渡しの時に、代価の弁償を求めるとのBの意思がAに対して示され、履行の請求がされたものと解するのが相当である。したがって、Aは代価弁償債務につき本件バックホーの引渡しを受けた時から遅滞の責を負い、引渡しの日の翌日である平成九年九月三日から遅延損害金を支払うべきものである。」
まとめ
☆ 即時取得のには例外があり、それは「盗品または遺失物」の場合
☆ 民法194条の代価の弁償があるまで、占有者はその盗品等の使用収益を行う権限を有する。
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