[刑訴法]派生証拠の証拠能力

刑事訴訟法

違法性の承継

問題の所在

証拠を獲得した直接の手続には違法性はないが、その先行手続に違法性がある場合に、先行手続の違法性を加味して、証拠能力を判断できるのでしょうか。

違法性の承継は、違法収集証拠排除法則の土俵に乗せるための議論です。

事案

警察官は、警ら中、覚せい剤中毒者特有の表情で歩いているXを見かけ、Xが覚せい剤を使用しているのではないかとの疑いを抱き、任意同行を求めた。Xが任意同行に応じなかったため、警察官は、Xを無理やりパトカーに押し込め、警察署に連行した。連行後、Xから尿の任意提出を受けて、鑑定した結果、覚せい剤が検出された。尿の鑑定書を作成した。

強制的に連行したことは違法ですが、尿および鑑定書の直接の収集手続である採尿手続自体は適法です。この場合に、尿及び鑑定書の証拠能力を判断する際に、先行手続である連行行為の違法性を加味できるのかが問題になります。

どのような場合に違法性が承継されるか(第1段階)

直接の証拠収集手続に瑕疵がないからといって、それに先行する手続が違法である場合に違法収集証拠排除法則が適用されず、証拠能力が認められるとすると、違法収集証拠排除法則の趣旨(司法の廉潔性の保持、将来の違法捜査の抑止)を全うすることはできません。

したがって、先行手続と後行手続が密接な関連性を有する場合は、先行手続と後行手続を一体と評価することができるため、後行手続が違法か否かは、先行手続の違法の有無・程度をも十分考慮して判断すべきです。

そして、先行手続と後行手続が同一目的に向けられたものであり、先行手続によりもたらされた状態を後行手続が直接利用してなされた場合には、先行手続と後行手続が密接な関連性を有するといえ、後行手続も違法性を帯びうることになります。

違法性の承継論を初めて採用した最判昭和61.4.25は、「任意同行及び警察署への留め置きの一連の手続と採尿手続は、被告人に対する覚せい剤事犯の捜査という同一目的に向けられたものであるうえ、採尿手続は右一連の手続によりもたらされた状態を直接利用してなされていることにかんがみると、右採尿手続の適法違法については、採尿手続前の右一連の手続における違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断するのが相当である」としました。

なぜ違法性が承継されるのか?

それは、「違法収集証拠排除法則の趣旨を貫徹するため」ということです。

「同一目的・直接利用」を充足したからといって必ず後行手続が違法になるわけではありません。「同一目的・直接利用」を充足したら、後行手続が違法か否かの判断の際に、先行手続の違法の有無・程度を十分考慮するというだけです。先行手続の違法の内容・程度によっては、後行手続が違法にならないこともあり得ます。

「同一目的・直接利用」は密接関連性の有無を判断するためのメルクマールの1つです。

論証例

司法の廉潔性の保持・将来の違法捜査の抑止という違法収集証拠排除法則の趣旨を貫徹するためには、直接の収集手続に瑕疵が無くても、①先行手続に違法があり、②両手続に密接な関連性がある場合には、後行手続が違法か否かは、先行手続の違法の有無・程度をも十分考慮して判断すべきである。

両手続に密接な関連性がある場合とは、❶先行手続と後行手続が同一の目的に向けられたものであるうえ、❷先行手続によりもたらされた状態を後行手続が直接利用してなされている場合などをいう。

排除法則の適用(第2段階)

先行手続の違法が後行手続に承継され、後行手続が違法性を帯びる場合には、後行手続について、違法収集証拠排除法則を適用し、①その違法の程度が令状主義の精神を没却するような重大なものであり(違法の重大性)、かつ、②後行手続により得られた証拠を許容することが将来における違法捜査の抑止の見地から相当でないと認められる場合には(排除相当性)、その証拠の証拠能力を否定します。

考慮事由

①「違法の重大性」
⇒(a)手続違反の程度(法規からの逸脱の程度、法益侵害の程度)
 (b)令状主義潜脱の意図の有無
 (c)後行手続における強制の有無その他の事情
を考慮して判断すべきです。

②「排除相当性」
⇒上記(a)(b)(c)等の事情に加えて、
 (d)先行手続と証拠との関連性の有無・程度
 (e)証拠の重要性
 (f)事件の重大性等
を考慮して判断すべきです。

2段階の判断枠組
  1. 先行手続が違法の場合、先行手続と後行手続との間に密接関連性があれば、先行手続の違法の内容・程度を十分考慮して後行手続が違法性を帯びるか否かを判断する。
  2. 後行手続が違法性を帯びる場合には、後行手続について違法収集証拠排除法則を適用し、「違法の重大性」と「排除相当性」を検討する。

毒樹の果実論

違法に収集された証拠能力が否定される証拠(第1次証拠)に基づいて発見・獲得された第2次証拠(派生証拠)に証拠能力が認められるかという問題です。

事案

警察官が、覚せい剤使用の疑いのあるXを強制的にパトカーに乗せ警察署に連行した。連行後Xが任意に提出した尿を鑑定した。尿から覚せい剤の成分が検出された。鑑定書を作成し、それを疎明資料としてX宅の捜索差押許可状を取得した。当該令状に基づきX宅を捜索し、覚せい剤を発見し、当該覚せい剤を差し押さえた。

*尿及び尿の鑑定書が「第1次証拠」、覚せい剤が「第2次証拠・派生証拠」

前提

後行手続により収集された第2次証拠が違法な先行手続により収集された証拠能力のない証拠関連性を有するときは、第2次証拠は「毒樹の果実」として、その証拠能力が問題になります。

ここでは、証拠証拠の関連性を見ます。

判断枠組

第2次証拠の証拠能力については、当該証拠の直接の収集手続について、①違法の重大性と②排除相当性の2要件をともに充足する場合に、証拠能力を否定すべきです。

第2次証拠の収集手続の違法の重大性

第2次証拠の収集手続の違法の重大性については、①第1次証拠の収集手続の違法が重大であって、②第1次証拠と第2次証拠収集手続との間の関連性が密接な場合には、第2次証拠の収集手続に重大な違法があるといえます。第2次証拠の収集手続それ自体に違法があるときにはその程度をも加味します。

ここでは、証拠手続との関連性を見ます。

考慮事由

①「先行手続の違法性の程度」
⇒手続違反の程度(法規からの逸脱の程度、法益侵害の程度)、令状主義潜脱の意図の有無、その余の強制の有無などを考慮して判断すべきです。

②「第1次証拠と第2次証拠収集手続との関連性の密接性」
⇒第2次証拠の収集手続が司法審査を経た令状によるものであり、先行手続により獲得した資料以外の資料が疎明資料として令状裁判官に提出されたかどうか等の事情を考慮して判断すべきです。

将来の違法捜査抑止の観点から見た排除相当性

第2次証拠の排除相当性については、第2次証拠の収集手続の違法の程度を前提にして、手続違反の頻発性、証拠の重要性、事件の重大性等を考慮すべきです。

重要判例

最判平成15.2.14(大津覚せい剤事件)

事案

X(被告人)には窃盗を被疑事実とする逮捕状が発付されていた。警察官は、逮捕状を携帯せずに、Xの身柄を拘束するためX方に行った。そして、その場から逃走したXを追いかけ、逮捕し、警察署に連行した。その後、警察署で逮捕状を呈示した。しかし、逮捕状と捜査報告書には、逮捕現場で逮捕状を呈示した旨の虚偽の記載をした。Xが任意提出した尿を鑑定した結果覚せい剤成分が検出されたため、捜索差押許可状を得て、既に発付されていた窃盗事件についての捜索差押許可状と併せて、X方を捜索し、覚せい剤を差し押さえた。

最高裁は、覚せい剤の証拠能力について、

  1. 当該覚せい剤が、証拠能力が否定される尿の鑑定書を疎明資料として発付された捜索差押許可状に基づく捜索によって発見され差し押さえられたものであることから、証拠能力のない証拠と関連性を有する証拠である
  2. 当該覚せい剤の差押えが、司法審査を経て発付された捜索差押許可状によってされたものであること、及び、逮捕前に適法に発付されていた窃盗事件についての捜索差押許可状の執行と併せて行われたことから、覚せい剤の差押えと証拠能力のない尿の鑑定書との関連性は密接なものではない
  3. 関連性が密接ではないため、覚せい剤の差押え手続には重大な違法はなく、排除の相当性もない

として、証拠能力を肯定しました。

最決平成21.9.28(エックス線検査事件)

事案

A社に、暴力団関係者から宅配便により覚せい剤を仕入れている疑いがあった。警察官は、宅配便業者の承諾を得て、A社に配達される予定の荷物について荷送人・荷受人の承諾なくエックス線検査を行った。エックス線検査の射影写真を一資料として捜索差押許可状を得て、捜索し、覚せい剤を差し押さえた。(第1次証拠であるエックス線検査の射影写真は、公判で証拠調べ請求されなかったため、その証拠能力は問題にならなかった。)

最高裁は、覚せい剤の証拠能力について、

  1. 当該覚せい剤は捜索差押許可状に基づく捜索によって発見され差し押さえられたものであり、捜索差押許可状はエックス線検査の射影写真を一資料として発付されたものであることから、当該覚せい剤は、違法なエックス線検査と関連性を有する証拠であ
  2. エックス線検査を行う実質的必要性があったこと、宅配便業者の承諾を得ていること、エックス線検査の際に検査対象を限定する配慮をしていたこと、当該覚せい剤は司法審査を経て発付された捜索差押許可状に基づく捜索によって発見されたものであること、捜索差押許可状の発付はエックス線検査の射影写真以外の証拠も資料としてされていたことかた、当該覚せい剤は、証拠収集過程に重大な違法があるとまではいえない

として、証拠能力を肯定しました。

違法性の承継論と毒樹の果実論の関係

違法性の承継論は、違法な先行手続と最終的に得られた証拠との関係を問題に問題にしています。当該証拠の直接の収集手続の違法性(先行行為の違法が後行行為(直接の収集手続)に承継されるか)が問題になります。

それに対し、毒樹の果実論は、違法に収集された証拠(第1次証拠)とそれに基づいて発見された証拠(第2次証拠・派生証拠)との関係を問題にしています。必ずしも派生証拠の直接の収集手続の違法性を前提にするわけではありません。

違法収集証拠排除法則については、以下の記事を参照ください。

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