意義
「無権代理」とは、①代理権を持たないで代理行為をする場合、②代理権を授与されているが、代理権の範囲を超えた代理行為をした場合をいいます。
また、「無権代理とみなされる場合」もあります。これらも無権代理と同様の規定を用いることになります。
【「無権代理」とみなされる場合】
・代理権の濫用(民法107条)
・自己契約・双方代理(民法108条1項)
・利益相反行為にあたる代理行為(民法108条2項)
無権代理の効果
民法113条(無権代理)
1 代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。
2 追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。
無権代理行為は、原則として本人に効果帰属しません(民法113条1項)。
無権代理の効果の特徴は、民法113条1項で「本人がその追認をしなければ 」という留保が付いている点です。
この留保がついているため、「本人が追認をすれば」無権代理行為は、代理をしたのと同様の効果を生じることになり、代理行為の効果が本人に帰属します。
このように、無権代理行為であるからすぐに効果が生ずるのでなく、「本人の追認があるか」によって、無権代理行為の効果帰属の対象が異なります。
追認権
意義
民法113条1項で、本人が追認することが認められています。
無権代理行為であったとしても、代理行為の効果が帰属する本人が、その法律効果を引き受けることを認めているのであれば、本人に効果帰属させても問題ありません。
そのため、本人に追認権が認められています。
追認の効果
民法116条(無権代理行為の追認)
追認は、別段の意思表示がないときは、契約の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
本人によって追認がされると、代理人が無権代理行為を行った時点から代理権があったものと同様の扱いを受けることになります。
有権代理と同様の効果を得るということです。
もっとも、追認をすることによって、「第三者」の権利を害することはできません。
「第三者」とは、追認がされるまでに新たに法律関係に入った第三者のことをいいます。
追認の相手
本人は、追認を「取引の相手方」にすることはもちろん、「代理人」に対してすることもできます。
「代理人」に対して追認しても良いのですが、この追認をしたことを「取引の相手方」が知っている必要があります。
取引の相手方が知らなかった場合、「追認の効果」を対抗することができません。つまり、有効な代理行為となったことを相手方に対抗することはできません(民法113条2項)。
追認拒絶権
意義
無権代理行為の効果は、「本人が追認をするか」によって、代理人の代理行為のゆくえが変ってしまいます。
本人が追認するかしないかを決定しないと、法律関係が不安定な状態となってしまします。
この不安定な状態を解決するために、本人には、追認権のみならず「追認拒絶権」も認めています(民法113条2項)。この追認拒絶権を行使することで、本人は早期に法律関係を解決することができます。
追認拒絶の効果
本人が無権代理行為を追認拒絶すると、無権代理行為の効果が本人に帰属しないことが確定します。
もっとも、表見代理が成立する場合には、本人に効果帰属することがあります(後掲図を参照ください)。
本人が無権代理行為を追認拒絶した後は、「本人も」追認することができません(最判平成10年7月17日 民集52巻5号1296頁)。
追認拒絶の相手方
追認拒絶はの相手方は、追認の場合と同様 「取引の相手方」にすることはもちろん、「代理人」に対してすることもできます。
「代理人」に対して追認しても良いのですが、この追認拒絶をしたことを「取引の相手方」が知っている必要があります。
取引の相手方が知らなかった場合、「追認拒絶の効果」を対抗することができません。つまり、本人に無権代理行為の効果が帰属するかしないかが未だ未確定の状態であることになります。
催告権・取消権
無権代理の相手方は、本人が催告するか決定するまでの間は、法律関係が不安定になります。
そのため、その不安定な法律関係を解消するために、無権代理の相手方にもこの状態を解消するための手段があります。
それは、「催告権」と「取消権」です。
催告権
民法114条(無権代理の相手方の催告権)
前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。
相手方は、本人に対して追認するかどうかを決めるように「催告権」を行使することができます。
相手方が代理人が代理権を有しないことについて悪意でも善意でも「催告権」を行使できます。
催告をすると本人は、追認をするかどうかについて、相手方に返答することになります。
原則として、本人が返答した通りになります。
「○○日までに返答ください」と記載して催告権を行使することになりますが、この期間を過ぎた場合には、「追認を拒絶したものとみなされる」ことになります。
取消権
民法115条(無権代理の相手方の取消権)
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。
相手方は、本人が追認するまでの間、無権代理行為に基づく法律行為を取り消すことができます(民法115条本文)。
もっとも、相手方が代理人が代理権を有しないことを知っている(悪意)ときは、取り消すことはできません。
無権代理人の責任
民法116条(無権代理人の責任)
1 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
責任の内容
無権代理行為について、本人から追認がなかった場合には、その無権代理行為の効果は本人に帰属しません。このような無権代理が生じたのは、基本的には代理権がないのに代理人が代理行為をしたためです。
そのため、相手方が無権代理人に責任追及をすることが認められています。
相手方は、無権代理人に対して「履行」または「損害賠償」を自分で選択して請求することができます(民法116条1項)。この責任は、無過失責任です。つまり、無権代理人が自分に代理権があると過失なく信じていたとしてもこの責任を免れることはできません。
無権代理責任を免れる場合
①自己の代理権を証明したとき(民法113条1項)
②本人の追認を得たとき(民法113条1項)
③相手方が代理権を有しないことを知っていたとき(民法113条2項1号)
④相手方が代理権を有しないことを過失によって知ず、代理人も自分に代理権がないことを知らなかったとき (民法113条2項2号)
⑤代理人が行為能力の制限を受けていたこと (民法113条2項3号)
「①②」と「③④⑤」は、結果として無権代理責任を負いませんが、その理由が異なります。
「①②」は、この事情があれば代理人は、有権代理であったことになります。つまり無権代理人に該当しない場面です。
「③④⑤」は、代理権がないので無権代理です。その上で、代理人と取引の相手方との利益考量をした結果、「取引の相手方」よりも「無権代理人」を保護すべきである場合です。
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