[刑訴法]秘密録音の適法性

刑事訴訟法

問題の所在

通信や会話を両当事者に内密に聴取・録音する行為は、通信の秘密プライバシーという重要な権利・利益を侵害するため、強制処分となります。最高裁も、電話の傍受について、「通信の秘密を侵害し、ひいては、個人のプライバシーを侵害する強制処分である」としています(最決平成11.12.16)。

強制処分は、法律の定めがない限り許されません(197条1項但書)。この点、222条の2が通信傍受法が、通信傍受の法律の根拠となります。
 通信傍受とは、(1)他人間の通信について、(2)当該通信の当事者のいずれの同意もないで、その内容を受けることをいいます(通信傍受法2条2項:←e-Gov法令検索)。

では、通信傍受に該当しない場合は、どのように判断することなるでしょうか。

秘密録音には、一方当事者の同意のある「当事者録音」や、会話当事者のいずれの同意もない「会話傍受かつ秘密録音」があります。これらについては、直接の根拠規定がないため、許容されるのかが問題になります。

当事者録音

強制処分該当性

強制処分の意義について、以下を前提とします。
「強制の処分」(197条1項但書)とは、個人の意思を制圧して、憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものをいい、ここにいう「意思を制圧」するとは、個人の明示の意思に反する場合はもとより、合理的に推認される個人の意思に反する場合も含みます(最判平成29.3.15)。

捜査目的で発言内容を録音されることを知れば、当然これを拒んだであろうと推認できるため、合理的に推認される対象者の意思に反しており、個人の意思を制圧しているといえます。

しかし、会話に伴うプライバシー権の中核をなすのは会話内容の秘密性であり、会話内容の秘密性は会話の相手方に委ねられています。当事者録音は、まさに会話の相手方がそれを処分するものであるため、話者は会話内容の秘密性を主張することができません。
 つまり、会話の相手方との関係では会話内容の秘密性が放棄されていることになります(注:プライバシーが放棄されているわけではありません)。

また、話者の会話内容の秘密性は会話の相手方に委ねられており、その会話が正当な理由なく録音されないことに対する話者の期待を制約することになるとしても、それは強制処分法定主義や令状主義によって保護するほどに重要な権利・利益とは言い難いです。

そのため、当事者録音は、重要な法的利益の侵害はなく、「強制の処分」に該当しないと考えられます。

任意処分の限界

一方当事者の承諾のない当事者録音は、任意処分であったとしても、正当な理由なく会話を録音されないことに対する話者の期待(機械に録音するという形で記録などされていないであろうとの話者のプライバシーへの合理的期待)を侵害するおそれがあります。

そのため、常に許容されるわけではなく、捜査比例の原則を適用すべきであり、録音の必要性、緊急性などを考慮し、具体的状況下で相当と認められる限度においてのみ許容されます。

相当性判断の考慮要素
  • 対象となる犯罪の性質・重大性
  • 捜査対象者に対する嫌疑の程度(合理的嫌疑の存在)
  • 秘密録音の必要性
  • 法益侵害の程度

会話傍受かつ秘密録音

強制処分該当性

捜査目的で発言内容を録音されることを知れば、当然これを拒んだであろうと推認できるため、合理的に推認される対象者の意思に反しており、個人の意思を制圧しているといえます。

では、憲法の保障する重要な法的利益を侵害しているといえるでしょうか。

「憲法の保障する重要な法的利益」に当たるか否かの判断基準は、私的領域に侵入しているか否かが重要な要素となります。
 GPS判決(最判平成29.3.15)は、憲法35条が、「住居、文書及び所持品」に限らず、これらに準ずる私的領域に侵入されない権利も保障していることを指摘し、GPS捜査が私的領域に侵入する捜査であるとして、「憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」としました。

【公道・ベランダなどで会話傍受した場合】

公道やベランダでの会話を録音する行為については、自然と耳に入る話者の音声のみを傍受・録音したにすぎず、話者自身が、発言・会話の秘密性をある程度放棄しているため、高度のプライバシー侵害はありません。また、特殊な機械を用いて室内の会話を傍受・録音しているわけではなく、私的領域への侵入もありません。

したがって、憲法の保障する重要な法的利益の侵害はなく、「強制の処分」に該当しません。

【室内の会話を傍受・録音した場合】

室内の会話は、通常その外からは聞き取れません。室内の会話を特殊な機械(ex.壁の振動を増幅して聞き取りを可能とする機械)を用いて外から聞き取る場合、憲法35条の「私的領域に侵入されない権利」を侵害します。また、特殊な機械を用いて長時間継続的に録音することも、個人の発言を継続的・網羅的に把握することになるため、 憲法の保障する重要な法的利益を侵害しているといえます。

したがって、「強制の処分」に該当し、特別の根拠規定がなければ許容されません。

室内の会話の傍受・録音については、特別の根拠規定がないため、強制処分法定主義(197条1項但書)に反し違法となります。(この点について、検証に該当すると考え、検証許可状(218条1項)がないことを理由に、令状主義違反とすることも可能です。)

任意処分の限界

一方当事者の承諾のない当事者録音は、任意処分であったとしても、機械に録音するという形で記録などされていないであろうとの話者のプライバシーへの合理的期待という法的に保護に値する利益を侵害するおそれがある以上、常に許容されるわけではなく、捜査比例の原則を適用すべきであり、必要性、緊急性などを考慮し、具体的状況下で相当と認められる限度においてのみ許容されます。

相当性判断の考慮要素
  • 対象となる犯罪の性質・重大性
  • 捜査対象者に対する嫌疑の程度(合理的嫌疑の存在)
  • 秘密録音の必要性
  • 法益侵害の程度

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