[刑訴法]縮小認定と訴因変更の要否

刑事訴訟法

問題

検察官が被告人を強盗罪で起訴しているのに対し、裁判所が訴因変更手続を経ずに恐喝罪を認定することができるでしょうか。

縮小認定論とは

訴因と認定事実との間に差異があっても、両者が完全に包摂関係にあり、大きな構成要件該当事実が示されている場合には、訴因変更なしに小さな構成要件該当事実を認定することができるとする考えをいいます。

この理論の根拠としては、以下の2つがあります。

  • 大きな構成要件該当事実が示されれば、そのなかで小さな構成要件該当事実も黙示的・予備的に示されているとみることができる
  • 定型的には被告人の防御に不利益はない

訴因変更の一般論を述べた平成13年判決との関係

考え方1

縮小認定は、検察官が縮小事実について黙示的に予備的主張をしているのであるから、訴因事実と裁判所が認定しようとしている事実との間に食い違いはないと考える見解があります(古江、酒巻)。この見解に立つと、訴因事実と認定事実との間に食い違いがないため、訴因変更手続を採る必要はないことになり、結局のところ、縮小認定は、訴因変更の要否の問題ではないことになります。

とすると、縮小認定は、平成13年判決の第1段階の判断枠組の「例外」ではなく、そもそも第1段階の判断が問題となり得ないことになります。「埒外」と言われています。

そうだとしても、争点明確化による不意打ち防止の要請は、訴因変更の問題に限定されず、訴訟の全過程を通じて要請されるものであるから、縮小認定の場合にも問題になります(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』219頁)。

論証例

訴因には、審判対象の画定及び防御範囲の明示という機能があり、審判対象が画定されればおのずと防御範囲も明確になることから、訴因の第一次的機能は審判対象の画定にある。そうすると、訴因の設定権は検察官にあり、裁判所は訴因に拘束され、訴因と異なる事実を認定できないことから、訴因の記載として不可欠な部分(罪となるべき事実の特定に不可欠な事項)について裁判所が訴因と異なる認定をする場合には、審判対象の画定の見地から、常に訴因変更手続が必要と解すべきである。[第1段階]

しかし、縮小認定の場合、認定事実は検察官により黙示的・予備的に主張されているため、訴因事実と認定事実との間に差異はなく、訴因変更手続は不要である。

★縮小認定が正面から問われている問題では、いきなり縮小認定論に入るのではなく、訴因変更の一般論を述べた平成13年判決の第1段階の判断枠組から書いた方が良いでしょう。

考え方2

縮小認定の場合は、訴因の特定にとって不可欠な事項が変動しているが、縮小事実にも検察官の訴追意思が及んでいるため、審判対象の画定の見地からの訴因変更(平成13年判決の第1段階の訴因変更)は不要であるが、被告人の防御の見地からの訴因変更(平成13年判決の第2段階の訴因変更)が必要になる場合があると考える見解があります(大塚)。

争点顕在化措置

訴因変更が不要であるとしても、裁判所は何らかの措置を採るべきではないでしょうか(争点顕在化措置の要否)。

よど号ハイジャック事件(最判昭和58.12.13)は、争点顕在化措置をとらないと、被告人に不意打ちを与え、被告人の防御権を不当に侵害するとして、訴訟手続の法令違反になるとしました。

論証例

争点明確化による不意打ち防止の要請は訴訟の全過程を通じて要請されるものであるから、争点とされていない事項を認定することが、被告人にとって不意打ちとなり被告人の防御権を侵害する場合には、裁判所が適切に訴訟指揮権を行使し(294条)、釈明を求めたり(規則208条1項)、訴因変更を促すなど争点顕在化措置を採らなければならない。

判例・裁判例

強盗罪で起訴→恐喝罪を認定(最判昭和26.6.15)

訴因・罰条の変更に一定の手続が要請される趣旨は、「裁判所が、勝手に訴因又は罰条を異にした事実を認定することに因って、被告人に不当な不意打ちを与え、その防禦権の行使を徒労に終わらしめることを防止することに在る」から、「かかる虞れのない場合、例えば、強盗の起訴に対し恐喝を認定する場合の如く、裁判所がその態様及び限度において訴因たる事実よりもいわば縮小された事実を認定するについては、敢えて訴因罰条の変更手続を経る必要がない」としました。

殺人罪で起訴→同意殺人罪を認定(最決昭和28.9.30)

上記最判昭和26.6.15と同様の理由により、殺人の起訴に対し、訴因変更手続を経ずに同意殺人を認定することを認めました。

強盗致死罪で起訴→傷害致死罪を認定(最判昭和29.12.17)

上記最判昭和26.6.15と同様の理由により、「強盗致死罪の訴因に対し、財物奪取の点を除きその余りの部分について訴因に包含されている事実を認定し、これを傷害致死罪として処断」するためには、訴因変更手続を経る必要はないとしました。

業務上過失致死で起訴→重過失致死罪を認定(最決昭和40.4.21)

上記最判昭和26.6.15と同様の理由により、業務上過失致死の訴因に対し、重過失致死罪を認定するためには、訴因変更手続を経る必要はないとしました。

酒酔い運転で起訴→酒気帯び運転を認定(最決昭和55.3.4)

厳密には酒酔い運転は酒気帯び運転を包摂しないが(酒酔い運転に該当しても、法定のアルコール濃度に達せず、酒気帯び運転には当たらないことも理論的にはあり得る)、①行為の共通性(どちらも基本的には道路交通法65条1項違反の行為)、②酒酔い運転の訴因に対する防御は、通常の場合は、酒気帯び運転の防御を包摂すること、③法定刑が酒酔い運転より軽いこと、④防御が尽くされていることを理由に、訴因変更を不要としました(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』215頁)。

幇助犯で起訴→共同正犯を認定(最判昭和40.4.28)

幇助の訴因に対して共同正犯の事実を認定するためには、訴因変更手続を要するとしました。

これは、共謀事実を新たに認定することになる上、共同正犯の法が幇助犯より法定刑が重いため、縮小認定ではないからです。

殺人罪の共同正犯で起訴→幇助犯を認定

福岡高判平成20.4.22

「一般に、共同正犯の訴因に対し、訴因変更の手続を経ることなく幇助犯を認定することはいわゆる縮小認定として許容されることがあるとしても」当事者の攻防の対象となっていなかった黙示の無形的・心理的幇助を認定するのは「被告人の防御が尽くされないままなされた不意打ちの認定である」ため、訴訟手段の法令違反に当たるとしました(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』216頁)。

名古屋高判平成18.6.26

作為犯について、「一般に、共同正犯の訴因に対し、幇助犯を認定する場合には、いわゆる縮小認定として、訴因変更の手続を要しないこともある」が、「その認定の変更(ずれ)が、被告人の防御方法につき抜本的な変更を生ぜしめるような場合には、訴因変更手続を経ないまま変更した事実を認定すれば、被告人の防御権に実質的な不利益を生じる」ため、訴因変更手続が必要である。
作為犯の共同正犯の訴因につき不作為犯の幇助犯を認定する場合には、「作為犯と不作為犯の両者の行為態様は基本的に異質であり、被告人の防御の重点も、当然い、共謀の存否、作為犯における作為の存否などから、不作為犯における作為義務の存否、作為義務違反の存否などに移行することになる…。被告人の防御方法が抜本的に修正を余儀なくされることは明白であり、…訴因変更の手続が必要とされる」としました。

最判昭和29.1.21、東京地判平成2.3.19、浦和地判平成3.3.25

共謀事実も幇助事実も訴因の特定にとって不可欠な事実であり、両者の食い違いは構成要件を異にするものであり、本来であれば審判対象の画定の見地からの訴因変更(平成13年判決の第1段階の訴因変更)を要するはずです。しかし、共同正犯事実と幇助事実とは、包摂関係にあるため、両者の間に食い違いはなく、訴因変更手続きを経ることなく幇助事実を認定できるとしました(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』216頁)。

論証例

共同正犯と幇助犯とは、構成要件の修正形式同士の食い違いであり、訴訟物を異にし、審判対象画定の見地から訴因変更手続が必要になるはずであるが、幇助事実が共同正犯事実に包摂されるのであれば、縮小認定が許されることになる。

共同正犯の訴因は、単に「共謀の上」とされるのが検察実務であり、それで訴因の特定の要請は満たされているが、裁判所が認定する幇助の事実は具体的事実であることから、共同正犯の事実が幇助事実を包摂するとはいえないようにも思える。

しかし、幇助行為の具体的内容が訴因中に掲げられていない場合であっても、「共謀の上」実行したという抽象的事実の中に、共謀に至らない幇助により正犯者を通じて実行させたという事実が含まれていると解され、共同正犯の訴因は幇助の事実を包摂しているというべきである。

共謀共同正犯は刑法60条による基本的構成要件の修正形式であるのに対し、幇助は刑法62条による基本的構成要件の修正形式です(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』216頁)。

訴因変更の可否に関する論点は、以下の記事を参照ください。

訴因変更の要否に関する論点は、以下の記事を参照ください。

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