[刑訴法] 自白の証拠能力・自白法則

自白する男 刑事訴訟法
ほくる
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「自白」とはどのようなものをいうでしょうか。

雰囲気では分かっているけれど、その基準を明確にしたいという方にオススメの記事です。

もちろん、自白の証拠能力を検討する際に重要な「狭義の自白法則」についても掲載しています。

自白とは

まず、「自白」とはどのようなものをいうでしょうか。

自白とは、自己の犯罪事実の全部又は主要部分を認める旨の被告人の供述をいいます(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』301頁)。

このように、定義されます。

注意するポイント

「自白」に該当するかを考えるに時に、注意しなければならないポイントを示します。

[➀ 供述者は誰か]
被告人自身が自己の犯罪事実を認める供述である必要があります。第三者が、被告人の犯罪事実を認めた供述をしても自白とはいえません。通常の供述証拠として扱われます。

[➁ 供述した事実]
自己の犯罪事実、つまり構成要件該当事実を認める供述をいいます。構成要件該当事実を認めながら、違法性阻却事由、責任阻却事由を主張する場合も自白にあたります。

類似の概念

不利益な事実の承認(322条1項本文)

⇒自白よりも広い概念です。犯罪事実を推認させる間接事実の承認なども含みます。

有罪の自認(319条3項)・有罪の陳述(291条の2)

自白に含まれる概念です。犯罪の成立を争わずに罪責を承認する陳述をいいます。

自白に関する規律

「自白」と取り巻く環境から、「自白法則」や「補強法則」などの考え方が出てきます。

では、どのような環境でしょうか。自白のメリット、デメリットから考えてみます。

[自白のメリット]

  • 犯人しか知らない事実がある
  • 自白はあえて被告人自ら不利益な事実を認める供述であるため、信用性が高い

↓しかし

[自白のデメリット]

  • 自白獲得のために、強制や拷問など強引な取調べが行われるおそれがある
  • 自白が過大に評価されると、虚偽の自白の場合に、無実の者を有罪にしてしまうおそれがある

↓そこで

  • 自白の採取に強制が加わらないように、証拠能力を制限する必要がある(自白法則
  • 誤判が生じないように、補強証拠を要求する(補強法則

自白には、証拠能力と証明力の両方から制限が加えられています。

自白法則は証拠能力を制限するものであり、補強法則は証明力を制限するものです。

ここでは自白法則を中心に検討していきます。

補強法則については、以下の記事を参照ください。

自白法則

319条1項は、憲法38条2項を受けて、「任意にされたものでない疑いのある自白」の証拠能力を否定しています(自白法則)。

憲法38条(自己に不利益な供述、自白の証拠能力)
1 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
2 強制、拷問若しくは脅迫による自又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

刑事訴訟法319条(自白の証拠能力・証明力)
1 強制、拷問又は脅迫による自白不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
2 被告人は、公判廷における自白であると否とを問わず、その自白が自己に不利益な唯一の証拠である場合には、有罪とされない。
3 前二項の自白には、起訴された犯罪について有罪であることを自認する場合を含む。

憲法38条2項には「任意にされたものでない疑いのある自白」という文言がありませんが、両規定に実質的な差異はないとするのが判例・通説の立場です(最判昭和45.11.25)。

自白法則の趣旨

Q.では、憲法38条2項、刑訴法319条1項に掲げられた自白の証拠能力が否定されるのは、なぜでしょうか。

この点については、3つの見解が対立しています。

虚偽排除説

憲法38条2項、刑訴法319条1項に掲げられた自白は、類型的に虚偽であるおそれが高く、信用性に乏しいため、証拠能力が否定される。

この見解によると、自白法則は、虚偽の可能性の高い自白を公判審理から排除することで、事実認定の正確性を確保(誤判を防止する)することを目的とするものであることになる。

人権擁護説

憲法38条2項、刑訴法319条1項に掲げられた自白は、憲法38条1項の黙秘権(供述の自由)を侵害して得られたものであるから、証拠能力を否定する。

この見解によると、自白法則は、黙秘権(供述の自由)を侵害する自白を公判審理から排除することで、黙秘権(供述の自由)保障を担保する趣旨であることになる。

違法排除説

憲法38条2項、刑訴法319条1項に掲げられた自白は、違法な手続により得られたものであるため、証拠能力を否定する。

虚偽排除説と人権擁護説は被疑者の心理状態を問題にしているのに対し、違法排除説は捜査機関の自白採取手続の違法に着目します(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』275頁)。

虚偽排除説と人権擁護説は、自白が任意になされたものか否かを自白の証拠能力の包括的判断基準とし(任意性説)、「強制、拷問又は脅迫による自白」、「不当に長く抑留又は拘禁された後の自白」を「任意にされたものでない疑のある自白」の例示と考えます(リークエ2版436頁)。

319条1項は「任意にされたものでない」との文言を用いているため、任意性説(虚偽排除説、人権擁護説)によって理解すべきです。

自白法則の適用場面

「任意にされたものでない」との考えについて任意性説を採用するとして、自白法則が適用される場面には、様々あります。

場合分けして検討してみましょう。

約束による自白・偽計による自白

任意性説によるとしても、約束(利益供与の提示・利益誘導)が被疑者の供述の動機に影響を与えることはあっても、意思決定そのもの(供述の自由)まで制約するものとはいえないため、人権擁護説によることは困難です。

したがって、虚偽排除説によるべきです。偽計による自白も同様です。

虚偽排除説からは、「任意にされたものでない疑いのある自白」とは、取調官等の言動により被疑者が強い心理的影響を受け、その結果、類型的に虚偽の自白が誘発されるおそれがあるというような状況下でなされた自白をいいます。

利益供与の約束や偽計の使用が、被疑者に強い心理的影響を与え、類型的に虚偽の自白を誘発するおそれが大きいものであったかどうかが、任意性の判断基準です。

約束による自白の場合の考慮要素

取調官側の事情として

  • 約束(提示)された利益の内容
  • 利益提示者の権限(被疑者に当該警察官がそのような権限を持っているという認識があったかが重要であり、実際に当該警察官に権限がある場合に限らない)
  • 利益提示の方法・態様

被疑者側の事情として

  • 約束・利益供与の受けとめ方
  • 自白当時の身体的・精神的状況
偽計による自白の場合の考慮要素

取調官側の事情として

  • 偽計の内容
  • 偽計の主体
  • 偽計の方法・態様

被疑者側の事情として

  • 偽計の受けとめ方
  • 自白当時の身体的・精神的状況

最判昭和41.7.1は、約束による自白の事案であり、「本件のように、被疑者が起訴不起訴の決定権を持つ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨の言葉を信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠くものと解する」としました。

最判昭和45.11.25は、偽計による自白の事案であり、「もしも偽計によって被疑者が心理的影響を受け、その結果、虚偽の自白が誘発されるおそれのある場合には、右の自白はその任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を否定すべきであり、このような自白を証拠に採用することは、刑訴法319条1項の規定に反し、ひいては憲法38条2項にも違反するものといわなければならない」としました。

昭和41年判決の3要件は、今日では採られていないため、約束による自白について虚偽排除説に立つならば、昭和45年判決の4要件によるべきです。

[約束による自白 4要件]
① 利益誘導ないし約束があること
② 心理的影響があること
③ 被疑者に心理的影響がある結果、類型的に虚偽の自白が誘発されるおそれがあること
④ そのようなおそれのある状況下で自白がなされたこと。

違法な手続・取調べによる自白

違法な手続や違法な取調べが行われた場合、被疑者への心理的圧迫が強まり、供述の自由が侵害されるおそれがあります。そのため、手続や取調べが違法であったことも、自白の任意性を判断する際の考慮要素になると考えられます。

違法な手続などがあったと思われる判例の考え方をまとめました。

最判昭和38.9.13
両手に手錠をかけたままの取調べにより得られた自白の証拠能力が問題になました。

本判決は、「手錠を施されたままであるときは、その心身になんらかの圧迫を受け、任意の供述は期待できないものと推定」され、「反証のない限りその供述の任性につき一応の疑いをさしはさむべきである」としたうえで、本件では検察官は終始穏やかな雰囲気で取調べを行っており、被告人らの検察官に対する供述は、すべて任意になされたものであることが明らかであるから、被告人らの自白については、任意であることの反証がなされているとして、証拠能力を認めました。

最決平成元.1.23
被告事件のB弁護人の接見の申出に対し、逮捕・勾留がなされていない余罪の捜査を理由に接見が許されなかった間に得られた自白の証拠能力が問題になりました。

本判決は、「右自白は、A弁護人が接見した直後になされたものであるうえ、同日以前には弁護人4名が相前後して同被告人と接見し、B弁護人も前日に接見していたのであるから、接見交通権の制限を含めて検討しても、右自白の任意性に疑いがないとした原判断は相当と認められる」としました。
*逮捕・勾留がなされていない余罪の捜査を理由に接見指定をすることはできません。そのため、B弁護人による接見申出が認められなかったことは違法です。
*自白の証拠能力の判断基準は自白の任意性に疑いがあるか否かであり、自白が違法な手続の下で獲得されたことは自白の任意性判断のための一要素にすぎないことが分かります。

浦和地判平成3.3.25
警察官による黙秘権の告知が、取調べ期間中に一度もなされなかった事案です。

本判決は、取調べの際に被疑者に黙秘権の告知がなかったからといってその供述が直ちに任意性を欠くということにはならないが、「右黙秘権不告知の事実は、取調べにあたる警察官に、被疑者の黙秘権を尊重しようとする基本的態度が無かったことを象徴するものとして、また、黙秘権告知を受けることによる被疑者の心理的圧迫の解放がなかったことを推認させる事情として、供述の任意性判断に重大な影響を及ぼすものといわなければならず、右のような観点からすれば、本件において、被告人が、検察官や裁判官からは黙秘権の告知を受けていることとか、これまでに刑事裁判を受けた経験があり黙秘権の存在を知っていたと認められることなどは、右の結論にさして重大な影響を与えない」としました。

自白法則・関連論点

自白法則と違法収集証拠排除法則の関係

.自白の任意性の判断とは別に、自白にも違法収集証拠排除法則が適用されて証拠能力が否定されることがあるのでしょうか。

自白法則と違法収集証拠排除法則の関係をどのように考えるのかが問題になります。

違法排除一元説

両者は共通する原理に基づくものであって、違法収集証拠排除法則が一般的な法則であり、自白法則は言わば違法収集証拠排除法則の特別規定だとする見解です(R2年出題趣旨)。

任意性一元説

自白の証拠能力は専ら任意性の観点から判断され、自白には違法収集証拠排除法則は適用されないとする見解です(R2年出題趣旨)。

二元説

供述の任意性の観点とは別に、違法収集証拠排除法則を自白にも適用することができるとする見解です(R2年出題趣旨)。

∵違法収集証拠排除法則の趣旨(司法の廉潔性の保持と将来の違法捜査の抑止)は、証拠物のみならず、自白についても妥当するため、自白について違法収集証拠排除法則を採用できない理由はない。

東京高判平成14.9.4は、自白の任意性の判断とは別に、自白にも違法収集証拠排除法則が適用されて証拠能力が否定される場合があることを認めました。また、自白法則と違法収集証拠排除法則の適用の順序については、論理的にどちらが先でなければならないということはなく、両者が問題になる事例では、判断しやすい方を先行させればよいという考えに基づき、本件では違法収集証拠排除法則を適用しました。

もっとも、適用の順序については、明文規定のある任意性の判断を先行すべきであるとの見解も有力です。

違法収集証拠排除法則を自白にも適用する場合、別件逮捕・勾留中の自白や無令状の実質逮捕中の自白などを除き、一般的に取調べは令状主義とは関係がないため、昭和53.9.7の「令状主義の精神を没却するような」重大な違法の有無という基準をそのまま用いるのではなく、「憲法や刑訴法の所期する基本原則を没却するような」重大な違法の有無という基準を用いるべきです。

反復自白の証拠能力

.警察官に対して自白(第1自白)した被疑者が、検察官に対しても同内容の自白(第2自白・反復自白)をした事例で、第1自白の証拠能力が否定された場合、その後になされた第2自白(反復自白)の証拠能力も否定されるのでしょうか。

虚偽排除説に立つ場合、第1自白と同様に、第2自白(反復自白)についても、被疑者が心理的影響を受けるかどうか、虚偽の自白が誘発されるおそれがあるかどうかを検討します。

第2自白(反復自白)の際に不適切な取調べが行われていなかったとしても、第1自白の際の不適切な取調べによる心理的影響が、第2自白(反復自白)の際にも残存していれば、第2自白(反復自白)も、心理的影響を受け、虚偽の自白が誘発される状況下でなされた自白ということになり、証拠能力が否定されます。

考慮要素

強い心理的影響がなおも残存しているか解消されたかは、

  • それぞれの取調べの主体の異同
  • 両者の取調べ等の時間的間隔・場所的同一性(取調べ場所、身柄拘束場所)
  • 反復自白の際の取調官等の言動(積極的な遮断措置の有無)
  • 第1自白後反復自白までの間の弁護人との接見の有無

等を総合的に考慮します。

浦和地判平成3.3.25は、警察官に対する自白について、黙秘権、弁護人選任権の告知がなされていなかったことを理由に、任意性に疑いがあるとして証拠能力を否定し、その後の検察官の取調べにおいては黙秘権、弁護人選任権の告知はなされていたものの、「一般に、被疑者の警察官に対する供述調書の任意性に疑いがあるときは、検察官において、被疑者に対する警察官の取調べの影響を遮断するための特段の措置を講じ、右影響が遮断されたと認められない限り、その後に作成された検察官に対する供述調書の任意性にも、原則として疑いをさしはさむべきである」として、検察官に対する自白についても、警察官が被疑者に与えた心理的影響が遮断されていないことを理由に、任意性に疑いがあるとして証拠能力を否定しました。

不任意自白に基づいて得られた証拠物(派生証拠)の証拠能力

.虚偽排除説(不任意自白には類型的に虚偽のおそれがあり事実認定を誤らせるおそれがあるため排除する)に立つ場合、派生証拠についても、虚偽のおそれがあるかどうかで判断すべきであり、そうだとすると、派生証拠は事実認定を誤らせるおそれがないため、自白法則の趣旨(虚偽排除説)によって派生証拠の証拠能力を否定することはできないのではないか、ということが問題になります。

たとえば、犯人が、不任意に犯行を自白し、犯行に使用したナイフの隠匿場所を供述した結果、当該ナイフが発見された場合に、当該ナイフには虚偽のおそれがないため正しい事実認定ができます。そうだとすると、自白法則の趣旨(虚偽排除説)によって当該ナイフの証拠能力を否定することはできないことになります。

.では、当該ナイフ(派生証拠)の証拠能力を否定する方法は無いのでしょうか。この問題が「不任意自白に基づいて得られた派生証拠の証拠能力の問題です。

この点について、毒樹の果実論を適用するという枠組みを示した東京高判平成25.7.23があります。

東京高判平成25.7.23は、捜査官が利益誘導的かつ虚偽の約束をしたため、被疑者が覚せい剤の隠匿場所を供述した結果、覚せい剤が発見された事案で、控訴審は、取調べが、利益誘導的であり、かつ、虚偽の約束であって、被告人の黙秘権を侵害する違法なものであるから、「捜査官が利益誘導的かつ虚偽の約束をしたこと自体、放置できない重大な違法である」として、こうした「違法な取調べにより直接得られた、第1次的証拠である問題の被告人の供述のみならず、それと密接不可分の関連性を有する、第2次的証拠である本件覚せい剤、鑑定嘱託書、鑑定書及び捜索差押調書をも違法収集証拠として排除しなければ、〔令状主義〕の精神が没却され、将来における違法捜査抑止の見地からも相当ではない」としました。

上記のように「毒樹の果実論」の適用があるようです。ですが、この「毒樹の果実論」と自白法則の関係については、大きく2つの考え方がありえます。

 自白法則の根拠は、あくまで虚偽排除説を採用する。その派生証拠については毒樹の果実の法理を適用するという考え方

 自白法則の根拠である虚偽排除説の理解について、事実誤認の危険を回避するため類型的に虚偽の危険性の高い自白を排除する趣旨、そして、将来の虚偽自白誘発取調べの再発防止という趣旨も含むと考え、毒樹の果実の法理類似の理論によって派生証拠を排除するという考え方

➀の考え方
 毒樹の果実論を適用する場合、その前提として、[第1証拠収集手続の違法性の要件]から、当該自白が違法収集自白であるといえなければならなりません。偽計による自白の派生証拠は排除できても、約束による自白の派生証拠は排除できません。約束による自白の場合、黙秘権の侵害はなく違法とは言い難いからです。

➁の考え方
 第1自白の採取手続の違法性は問題になりません。そのため、不任意自白との因果性の程度、派生証拠の重要性などを考慮しつつ、派生証拠の証拠能力を検討することができるという点で有益です。
 もっとも、この考え方の基礎には、虚偽排除説の理解に「将来の虚偽自白誘発取調べの再発防止という趣旨」を含めるということがあり、従来の自白法則の適用基準自体にもこのような政策的要素が加重されることになりかねないという問題点があげられています。このように取調べの方法自体を規制する点が、虚偽排除説の趣旨に適合するかは疑問があるとの批判がされています。

毒樹の果実論については、以下の記事を参照ください。

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