[刑訴法]被告人の取調べ

刑事訴訟法

種類

被告人を対象とする取調べは3種類あります。

  1. 被告人が自身の公訴事実について取調べを受ける場合(197条1項に基づく任意捜査としての被告人取調べ)
  2. 被告人が、他の被疑者の被疑事件の参考人として取調べを受ける場合(223条に基づく参考人取調べ)
  3. 被告人が、自身の未だ起訴されていない余罪について取調べを受ける場合(198条1項に基づく被疑者取調べ)

上記も1と3は根拠条文が異なるため注意が必要です。

起訴後の被告人取調べ(上記1)

被疑者の取調べについては198条1項がありますが、被告人の取調べについては刑訴法に直接の規定がありません。起訴された被告人を捜査機関が取り調べることができるでしょうか。

公判中心主義の要請・当事者主義の要請
捜査機関が被告人を被告事件について取り調べれば、公判廷外で真相解明に向けた証拠取集活動が行われることになるという点で、公判中心主義に抵触するのではないか、また、検察官と訴訟上対等な地位にある被告人を取調べの対象とする点で当事者主義に反するのではないか、ということが問題になります(司法試験H26年出題趣旨参照)。

公訴維持のために被告人を取り調べる必要性
他方で、起訴後、公訴維持のために被告人の取調べを含む捜査が必要になることもあります(司法試験H26年出題趣旨参照)。

積極説

198条1項は取調べの対象として「被告人」を含めていないものの、取調べは任意処分であるから、任意処分に関する一般規定である197条1項本文に基づいて被告人の取調べを行える(リークエ2版208頁)。

判例は、「起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならない」としつつ、「刑訴法197条は、…捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、同法198条の被疑者という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができる」として、積極説に立ちます(最決昭和36.11.21)。

消極説

起訴後は、被告人自身の公訴事実について被告人を取り調べることは、任意取調べを含め許されない

∵①被告人は訴訟の当事者であり、被告人が捜査機関(検察官を含む)による取調べの客体とされるのは、当事者主義的訴訟構造を採る現行法の下では許されない。
②現行法は公判中心主義を採用している。公判中心主義の理念から、被告人は、たとえ任意であっても捜査機関の取調べの対象にはならない。

折衷説

起訴後、被告人自身の公訴事実について被告人を取り調べることは、一定の条件の下でのみ許される。

∵①被告人が任意に供述する場合にまで許容しない理由がない。
②起訴前の勾留期間は限られており、起訴後に公訴事実の共犯者が逮捕された場合など、事後の事情変更からなるべく早い時期に被告人から聴取することが必要な場合もある。

裁判例には以下のものがあります。

  • 被告人が自ら申し出たか、取調べを拒否できることを十分承していた場合に限るとしたもの(大阪高判昭和43.7.25)
  • 原則として弁護人の立会いを要するとしたもの(東京地決昭和50.1.29)
  • 公判での被告人質問後弁護人の立会いなしに行われた被告人取調べを当事者主義・公判中心主義に反するとしたもの(福岡地判平成15.6.24)
  • 被告人の防御権を実質的に侵害しないよう必要最小限度にとどめるべきであり、被告人が現実に検察官と対等の当事者としての活動を開始する第1回公判期日後は許されないとしたもの(大阪高判昭和50.9.11)
  • 特段の事情のない限り、第1回公判期日前に、起訴前の捜査の過程で窺える事項について明確にし、あるいは、補正、補充するための取調べに限って許されるとしたもの(千葉地判昭和55.6.24)

*第1回公判期日を経て当事者が顕在化します。第1回公判期日後は被告人質問で供述を得ることができます。

オススメ

折衷説を採ると色々な事情を拾えるため、試験ではオススメです。

折衷説を採る場合、

  • 任意取調べの厳守の有無(受忍義務のないことの告知)
  • 取調べの必要性の有無(新証拠の発見、事情変更)
  • 取調べの対象事項
  • 取調べの時期(第1回公判期日前か後か)

等を考慮し、「被告人の当事者たる地位を侵害しないか」、「公判中心主義の趣旨を没却しないか」を検討することになります。

第1回公判期日前であれば、刑訴法上も公判廷外での証拠収集活動(第1回公判期日前の証人尋問〔226条、227条〕、証拠保全〔179条〕など)が認められています。

起訴後の、他の被疑者の参考人としての取調べ(上記2)

共犯者との関係で行う参考人取調べ(223条1項)は、第1回公判期日後であっても、被告人の当事者たる地位を侵害したり、公判中心主義に反したりするとは言い難く、また、共犯者については起訴前捜査が行われているため弁護人への通知・了解を求めることもできません。

被告人の余罪取調べ(上記3)

起訴されて被告人になっているとしても、公訴事実以外の犯罪事実(余罪)との関係ではいまだに被疑者です。そのため、この余罪取調べは、198条1項に基づく被疑者取調べであって、同条項の解釈問題であるということになります。

判断枠組は以下のようになります。

(第1段階)
(取調受忍義務肯定説に立ったとしても、)余罪については逮捕・勾留されていないため、あくまで198条1項に基づき任意取調べのみが許される(取調受忍義務を課した取調べはできない)。

起訴前から身柄拘束が継続している者にとっては、自分が取調べ受忍義務を負うのか分からないため、特段の事情がない限り、取調べ開始前に、黙秘権があることや取調受忍義務がないことについて告知がなされるべきです。

(第2段階)
取調受忍義務を課した取調べではない任意の取調べに当たるとしても、身柄拘束による強制的な雰囲気からの精神的苦痛・肉体的疲労等の不利益・負担があるため、無制限に許容されるわけではなく、比例原則に従い、余罪の性質、余罪の嫌疑の程度、被疑者の態度等諸般の事情を考慮し、社会通念上相当と認められる方法・態様及び限度において許容される。

198条1項の任意取調べの問題である以上、その適法性判断に関する一般理論である高輪グリーンマンション殺人事件(最決昭和59.2.29)の規律が及びます(第2段階のところ)。

東京高判平成30.8.3は、起訴後勾留中の余罪取調べの許容性について、
「起訴後勾留中の被告人すなわち別件容疑者……についても,起訴に係る事件の審理に支障を及ぼさない範囲において,任意捜査として余罪取調べを行うことが許容されるのは,検察官の主張するとおりである。
 しかし,その余罪取調べはあくまでも任意捜査として許容されるものであるから,起訴後勾留で身柄を拘束された状態を利用して,余罪で逮捕,勾留した場合と実質的に同様の取調べを行うことは許されず,そのようなことが行われた場合には,起訴後勾留の趣旨や刑訴法198条1項ただし書の趣旨に反し違法となる。すなわち,起訴後勾留中の別件容疑者は,当該余罪について逮捕又は勾留されているのではないから,在宅の被疑者の場合(刑訴法198条1項ただし書)と同様に,取調べに任意に応じたものと認められること,換言すれば,捜査官による取調べの求めに対し,出頭を拒み,又は出頭後,いつでも退去することができる状態にあったと認められなければならない。しかも,任意捜査である以上,別件容疑者が取調べに応じる姿勢であっても,取調べは,事案の性質,別件容疑者に対する容疑の程度,別件容疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において,許容される(最高裁昭和57年(あ)第301号同59年2月29日第二小法廷決定・刑集38巻3号479頁参照)。」
と述べています。

高輪グリーンマンション殺人事件(最決昭和59.2.29)は、「在宅被疑者の取調べ」だけでなく、「別の事件で起訴勾留中の被告人の余罪取調べ(被疑者取調べ)」にも妥当します。

被疑者の取調べについては、以下の記事を参照ください。

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