[会社法]設立中の会社

会社法

前提

Q.設立中の会社のために行った「発起人の行為」の効果が「成立後の会社」に帰属する理由は?

A.設立中の会社は、会社設立の登記(49条、911条)をすると、その実質的同一性を保ったまま、株式会社になります(同一性説)。そのため、何らの移転行為を要することなく、発起人が設立中の会社のために行った行為の効果が成立後の会社に帰属します。

発起人の権限の範囲

Q.発起人は設立中の会社のために、どこまでの行為をすることができるでしょうか。

問題となる行為類型は、以下の4つあります。

❶ 会社の設立自体に必要な行為(会社の成立それ自体を目的とする行為)
❷ 開業準備行為
❸ 設立のために事実上または経済上必要な行為
❹ 事業行為

会社の設立自体に必要な行為(会社の成立それ自体を目的とする行為)

定款の作成や設立時発行株式の割当てのように、設立のために法律上要求されている行為がこれに該当し、発起人が設立中の会社のためにこれらの行為をすることができるのは当然です(田中亘『会社法(第2版)』589頁)。

この行為は、当然に発起人の行為に含まれる。

開業準備行為

開業準備行為とは、会社成立後に予定している事業を円滑に開始するための準備行為をいいます。

・事業の宣伝広告活動
・事業のための従業員の雇用
・財産引受け

原則

原則として、開業準備行為については、発起人は設立中の会社のためにすることができず、成立後の会社に効果帰属しません(最判昭和38.12.24)。

以下で示す財産引受け以外の開業準備行為については、会社法は財産引受けのような厳格な手続を用意していないため、発起人がそのような行為を行いうるとすれば、過剰な債務負担により成立後の会社の財産的基礎が危うくなるおそれがあるからです(田中亘『会社法(第2版)』591頁)。

例外

財産引受けも開業準備行為の一種ですが、例外的な規定です。
⇒財産引受けについては会社法に手続が定められており(28条2号・33条)、これに従って行われる限り、成立後の会社に効果帰属します。

設立のために事実上または経済上必要な行為

設立のために事実上または経済上必要な行為とは、設立事務の遂行のために、法律上ではなく事実上または経済上必要な行為のことです。

・設立事務所を賃借する
・設立事務員を雇用する

これを認めると、開業準備行為を発起人の権限と解する場合と同様に、成立後の会社の財産的基礎が危うくなるおそれがあるため、発起人は、たとえ設立中の会社のため事実上または経済上必要な行為であっても、設立中の会社のために行うことはできません(田中亘『会社法(第2版)』593頁)。

もっとも、発起人が自己の名で(自分が契約の当事者になって)こうした行為をして支出した費用は、設立費用(28条4号)として、定款への記載および検査役の検査(33条)を受けることを条件として、成立後の会社に求償することは可能です(田中亘『会社法(第2版)』593頁)。

事業行為

成立後の会社が予定している事業行為を、発起人が会社の成立前に設立中の会社のために行うことはできません。これを認めると、会社法が、設立手続を経たうえでのみ会社の成立を認めている意味がなくなります。

発起人の権限外の行為の追認の可否

原則
発起人の権限外の行為の効果は、会社には帰属しません。当該行為によって発生した費用は発起人が無権代表行為として負担すべきであるから、行為の相手方は成立後の会社に請求できません。

追認の可否
追認は既成事実に引きずられやすく、追認を認めると簡単に会社の負担に帰してしまうおそれがあり、発起人の権限を会社設立に必要な行為に限っている法の趣旨に反するため、認められません

財産引受け

変態設立事項とは、28条により定款の定めが必要とされる事項のことであり、財産引受け(2号)も変態設立事項です。

会社法28条

株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第26条第1項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない

一 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、設立時発行株式の種類及び種類ごとの数。第三十二条第一項第一号において同じ。)

二 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称

三 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称

四 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)

財産引受けとは、発起人が会社の設立のために、第三者との間で、会社の成立を条件として特定の財産を譲り受ける旨を約する契約をいい、売買、交換、請負等による財産取得契約が広く含まれるほか、賃貸借契約も含まれます(田中亘『会社法(第2版)』576頁)。

定款記載を欠く財産引受けの効力

変態設立事項が定款に記載されなかった場合、当該事項は効力を生じません(28条柱書、最判昭和28.12.3)。

相手方からの無効主張の可否

財産引受けが変態設立事項とされた趣旨は、現物出資を潜脱する方法として財産引受けが用いられる可能性があるため、現物出資と同様に厳格な規制を設けることで株主・債権者等の利害関係人を保護することにあります。したがって、28条2号は単に会社保護の規定であるとは解されないため、財産引受けが無効であることは、成立後の会社だけでなく相手方からも主張可能です(最判昭和28.12.3)。

*信義則に照らし会社からの無効主張が許されない場合があります。最判昭和61.9.11百選4版5事件は、契約から約20年たった後になされた会社からの無効主張を信義則により否定しました。

追認の可否

定款に記載のない財産引受けは無効であり、成立後の会社が追認しても有効になりません(最判昭和28.12.3)。追認を認めると財産引受けを厳格な規制に服せしめた趣旨が没却されてしまうからです。

もっとも、定款に記載のない財産引受けであっても、成立後の会社が当該財産の取得を欲することがあります。その場合は、成立後の会社が、相手方と改めて当該財産の取得の契約を締結することになります。

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