[刑訴法]訴因変更の許否

刑事訴訟法

前提

訴因については、

  1. 訴因の特定
  2. 訴因変更の要否
  3. 訴因変更の可否
  4. 訴因変更の許否

の4つの論点があります。

上記2~4は、順に、訴因変更が必要なのか(要否)、必要だとしてそれが可能か(可否)、可能だとして裁判所はそれを許すべきか(許否)ということです。

事例問題を解く際、何が問題になっているのか間違えないよう注意してください。

ここでは、訴因変更の許否について検討していきます。

論点

訴因変更に対する制約は「公訴事実の同一性」(312条1項)のほかに、解釈論上のものがあり、後者を「訴因変更の許否」といいます。「訴因変更の可否」とは区別されます。

訴因変更の許否には、

  1. 不適法訴因・無罪訴因への訴因変更の可否
  2. 訴因変更の時的限界
  3. 公判前整理手続を経た後の訴因変更の可否
  4. 控訴審における訴因変更の可否

といった論点があります。

論点1.不適法訴因・無罪訴因への訴因変更の可否

不適法訴因への変更

肯定説

「公訴事実の同一性」が認められる限り、不適法訴因への訴因変更も許されるとする見解です。

根拠:

  • 当事者主義の下、訴因の設定は検察官の専権である。
  • 形式裁判となれば再起訴が可能となる場合があり、有罪判決獲得に向けられた制度であるとされる訴因変更制度の立法趣旨には反しない。
  • 訴因変更制度は、審判対象の設定・変更を検察官に許容する制度であり、訴因変更の結果、実体審理ができなくなるかどうかは別問題である。

この見解からは、特定訴因から不特定訴因への訴因変更、訴訟条件を欠く訴因への訴因変更が可能になります。

否定説

「公訴事実の同一性」が認められたとしても、不適法訴因への訴因変更は許されないとする見解です。

根拠:

  • 本来、訴因変更制度は有罪判決獲得のための制度であり、形式裁判のための訴因変更は立法趣旨を超える。
  • 形式裁判の結果、検察官の再訴が可能になり、実質的には同一事件について被告人を2度も審理の場に置くことになる。

この見解からは、特定訴因から不特定訴因への訴因変更、訴訟条件を欠く訴因への訴因変更は許されないことになります。

無罪訴因への変更

原則

検察官の訴因変更請求がある場合、「公訴事実の同一性」を害しないならば、裁判所は訴因変更を許さなければなりません(312条1項)。これは、審判対象の設定権限が検察官に付与されるとする弾劾主義・当事者主義によるものです。したがって、裁判所は、起訴状記載の訴因について有罪の心証を抱いても、検察官から訴因変更請求があれば、訴因変更を許さなければなりません(最判昭和42.8.31)。

例外

もっとも、新訴因では無罪となるような場合には、訴因変更を認めることは真実発見の見地(1条)から考えて不当であり、裁判所としては、訴因変更を認める前に、検察官にその趣旨について釈明を求め、あるいは訴因維持を勧告するなどして、認識の相違を解消しておく必要があります(大阪高判昭和56.11.24)。

裁判例

最判昭和42.8.31は、「わが刑訴法が起訴便宜主義を採用し(刑訴法248条)、検察官に公訴の取消を認めている(同257条)ことにかんがみれば、仮に起訴状記載の訴因について有罪の判決が得られる場合であっても、第1審において検察官から、訴因、罰条の追加、撤回または変更の請求があれば、公訴事実の同一性を害しない限り、これを許可しなければならない」としました。

大阪高判昭和56.11.24は、「原則的には、当初の訴因について有罪の判断が得られるような場合であっても、検察官から訴因変更の請求があれば公訴事実の同一性を害しない限りこれを許可しなければならない」が(最判昭和42.8.31参照)、「変更後の訴因では無罪となるような場合には、これを単純に許可すべきではない」としました。

論点2.時的限界

原則

訴因変更の時期については明文の規定はありません。検察官は、原則として起訴後いつでも訴因を変更することができます。その際、被告人の防御に実質的な不利益があるときは、公判手続の停止(312条4項)で対処すべきです。

刑事訴訟法312条(起訴状の変更)

4 裁判所は、訴因又は罰条の追加又は変更により被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があると認めるときは、被告人又は弁護人の請求により、決定で、被告人に充分な防禦の準備をさせるため必要な期間公判手続を停止しなければならない。

例外

しかし、訴因変更が検察官の専権であるとしても、312条4項の存在等に鑑み、訴因変更は被告人の防御の利益その他訴訟法上の基本理念との均衡の下で認められるべきものであると解すべきです。

したがって、単に時期が遅いというだけではなく、訴因変更に至る審理の全過程・経緯や、変更の態様、変更後の訴因の内容、訴因変更後の審理の見通し等を総合考慮し、訴因変更が訴訟上の信義則(規則1条2項)、迅速・公正な裁判の要請(憲法37条1項、刑訴法1条、規則1条1項)に著しく反するなど公判手続の停止という法の予定した措置では、被告人に生ずる防御上の実質的不利益に対処できない特段の事情がある場合には、裁判所は訴因変更を許すべきではありません。

裁判例

福岡高那覇支判昭和51.4.5は「検察権の権限といえども、被告人の防禦に実質的な不利益を生ぜしめないこととの適正な釣合いの上に成り立っていることが明らかであって、もし、被告人の右不利益を生ずるおそれが著しく、延いて当事者主義の基本原理であり、かつ、裁判の生命ともいうべき公平を損なうおそれが顕著な場合には、裁判所は、公判手続の停止措置にとどまらず、検察官の請求そのものを許さないことが、例外として認められる…。…ここにいう被告人の防禦に実質的な不利益のなかには、憲法上の要請でもある迅速な裁判を受け得ないことからくる被告人の不安定な地位の継続による精神的物質的な消耗をも考慮に入れるべきである。」としました。

論点3.公判前整理手続を経た後の訴因変更の可否

公判前整理手続とは、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うために、第1回公判期日前に行われる、事件の争点や証拠の整理を行う公判準備手続のことです(316条の2)。

東京高判平成20.11.18は、「公判前整理手続は、当事者双方が公判においてする予定の主張を明らかにし、その証明に用いる証拠の取調べを請求し、証拠を開示し、必要に応じて主張を追加、変更するなどして、事件の争点を明らかにし、証拠を整理することによって、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるようにするための制度である。このような公判前整理手続の制度趣旨に照らすと、公判前整理手続を経た後の公判においては、充実した争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却するような訴因変更請求は許されない」とした上で、「公判前整理手続では争点とされていなかった事項に関し、公判で証人尋問等を行った結果明らかとなった事実関係に基づいて、訴因を変更する必要が生じたものであり、仮に検察官の訴因変更請求を許可したとしても、必要となる追加的証拠調べはかなり限定されていて、審理計画を大幅に変更しなければならなくなるようなものではな」く、「公判前整理手続における充実した争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却するようなものとはいえないし、権利濫用にも当たらない」としました。

論点4.控訴審における訴因変更の可否

控訴審が事後審としての性格を有するとしても、控訴審でも事実の取調べ(393条)を行うことができ、第1審とは異なった心証を抱くこともあり得ます。その場合には、検察官が訴因変更請求する必要性があります。

最判昭和30.12.26は、「控訴審が1審判決の当否を判断するため事実の取調べを進めるにつれ、検察官から訴因変更の申出がある場合に、控訴裁判所は審理の経過に鑑み、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって原判決を破棄し自判しても被告人の実質的利益を害しないと認められるような場合においては、訴因変更を許すべき」であるとしました。

関連論点

訴因の特定については、以下の記事を参照ください。

訴因変更の要否については、以下の記事を参照ください。

訴因変更の可否については、以下の記事を参照ください。

訴因変更命令については、以下の記事を参照ください。

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