制度趣旨
憲法33条は「現行犯として逮捕される場合を除いては、……令状によらなければ、逮捕されない」と定めており、これを受けて刑訴法が逮捕状による逮捕手続き(通常逮捕)を定めています(199条1項)。
逮捕は、被逮捕者の身体の自由・行動の自由という重大な権利・利益を侵害する強制処分です。
通常逮捕の趣旨は、捜査機関から独立した第三者である裁判官が事前に特定の対象者を逮捕するだけの「理由」があるか否かを中立公正な立場から審査し、令状により逮捕の根拠と対象を捜査機関(逮捕者)に明確に認識させることによって、捜査機関の権限濫用を防ぎ、もって正当な理由に基づかない身柄拘束を防止することにあります。
逮捕には、通常逮捕、現行犯逮捕、緊急逮捕の3種類があります。
通常逮捕が逮捕の原則型です。
憲法33条(逮捕の要件)
何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
刑事訴訟法199条(逮捕状による逮捕の要件)
1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。ただし、三十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる罪については、被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定による出頭の求めに応じない場合に限る。
2 裁判官は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると認めるときは、検察官又は司法警察員(警察官たる司法警察員については、国家公安委員会又は都道府県公安委員会が指定する警部以上の者に限る。以下本条において同じ。)の請求により、前項の逮捕状を発する。但し、明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない。
3 ……
通常逮捕の要件
【実体的要件】
- 逮捕の理由:(特定の犯罪事実について)「罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がある」こと(199条1項)
- 逮捕の必要性:「明らかに逮捕の必要がない」場合に該当しないこと(199条2項但書)
[要件①] 逮捕の理由
通常逮捕の要件は、まず、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」ことです(199条1項)。ここでは、特定の犯罪の存在と、被逮捕者がその犯罪を犯したことについて相当程度の蓋然性があることが要求されています。
[要件②] 逮捕の必要性
199条2項但書は、「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、この限りでない」とし、逮捕の必要があることも通常逮捕の要件としています。刑訴規則143条の3は、被疑者が逃亡するおそれがあるか、罪証を隠滅するおそれがある場合に、逮捕の必要性を認めています。
逮捕の必要性は、逮捕によって得られる捜査上の利益の程度(逃亡・罪証隠滅の防止)と逮捕によって生じる権利利益侵害の程度とが明らかに均衡を欠く場合には否定されるべきであり、その意味で相当性(利益衡量)を含む概念であるとされています(堀江慎司『リーガルクエスト刑事訴訟法(第2版)』69頁)。
刑事訴訟規則143条の3(明らかに逮捕の必要がない場合)
逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。
【手続的要件】
- あらかじめ裁判官が発付した令状(逮捕状、200条)に基づくこと(199条1項・2項)
- 逮捕主体が捜査機関であること
- 令状の呈示(201条1項)
逮捕するには、原則として被疑者に逮捕状を呈示しなければなりません(201条1項)。
もっとも、逮捕状を所持しないため呈示できない場合で、急速を要するときは、被疑者に対し被疑事実の要旨および逮捕状が発せられている旨を告げて逮捕することができます(緊急執行。201条2項、73条3項)。
刑事訴訟法201条(逮捕状による逮捕の手続)
1 逮捕状により被疑者を逮捕するには、逮捕状を被疑者に示さなければならない。
2 第73条3項の規定は、逮捕状により被疑者を逮捕する場合にこれを準用する。
刑事訴訟法73条(勾引状・勾留状執行の手続)
3 勾引状又は勾留状を所持しないためこれを示すことができない場合において、急速を要するときは、前二項の規定にかかわらず、被告人に対し公訴事実の要旨及び令状が発せられている旨を告げて、その執行をすることができる。但し、令状は、できる限り速やかにこれを示さなければならない。
出頭拒否と逮捕の必要性
Q.刑訴規則143条の3の「被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等」の「等」には何が含まれるでしょうか。度重なる出頭拒否が逮捕の必要性を基礎付けるでしょうか。
A.正当な理由のない不出頭が、逃走のおそれ・罪証隠滅のおそれと並ぶ逮捕を必要とする事由として当然に認められるわけではありません。
しかし、正当な理由のない不出頭は、一般的には逃亡ないし罪証隠滅のおそれの1つの徴表であると考えられるため、それが1回、2回に止まらず、数回に及ぶならば、それは上記徴表と見られる事実の反復を意味し、そのこと自体から、又は、他の事情と相まって、逮捕の必要が推認されることがあり得ます(大コンメンタール第4巻(第2版)205頁)。
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