不動産物権変動の権利取得
「不動産物権変動」の物権変動を学習する前に注意すべきポイントがあります。
それは、「権利取得」の場面と「対抗要件」の場面を分けて考えるという視点です。
以下のように、問題となる場面を区別して考えることが求められます。
基本的には、不動産の権利(所有権)を取得するには、意思表示(売買など)で足ります(民法176条)。
公信の原則
物権変動で第三者を保護する考え方に「公信の原則」というものがあります。
「公信の原則」とは、権利の帰属主体がある者に帰属しているような公示がされている場合には、この外形を信頼して取引に入った者は、外形に対応する権利を取得するという考えです。
しかし、「不動産」の物権変動には、「公信の原則」が認められていません。
「即時取得」の制度が「公信の原則」の現れであるといえます。
これが「登記に公信力がない」という意味です。
つまり・・・
「法務局」にて・・・登記を確認中・・・
「ふむふむ。あのAっていう土地は、「社長」が持ってるんか。」
「わざわざ登記請求してよかったわ」
・・・「社長」宅にて・・・
「登記見てきたぜ!あのAって土地売ってくれよ」
「Aの土地ってたしか、前に『マジメ』に売ったような・・・」
「ま、いっか。」
「いいっすよ。1500万円でいいっすか?」
・・・後日・・・法務局にて・・・
「おお!?Aの土地の登記簿に『マジメ』って書いてあるやんけ!」
ということになり、「親分」は、A土地の登記簿を確認してから土地を購入しても、確定的に「親分」の土地になりません。
公示の原則(不動産物権変動の対抗要件)
物権変動は、契約した「当事者の間」では、民法176条が規定するとおり、原則として「意思表示」のみによって効果を生じます(民法176条)
しかし、上述の通り、登記を信頼して購入したところで、権利を確定的に取得できない場合があります。そのため、「第三者」に対して物権変動の事実を主張するためには、「公示」しておく必要があります(公示の原則)。
民法177条は、「不動産」の物権変動の「第三者」対抗要件について定めています。
「不動産」の詳細については、以下の記事を参照してください。
民法177条(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
民法177条の解釈の問題は、大きく2つあります。その問題は、以下の2つです。
① 民法177条は、不動産に関する「すべての物権変動」を対象にしているのか
② 民法177条の「第三者」として保護されるにはどのような者であればよいか
① 登記を必要とする物権変動
○ 「物権変動の原因が何かを問わず」、登記による公示が必要です(無制限説・判例)
・ 意思表示による物権変動
(例)建物の売買契約の締結
地上権の設定
抵当権の設定
・取得時効を原因とする物権変動
(例)土地を占有し時効期間満了し、時効を援用する
・身分関係を原因とする物権変動
(例)遺贈(民法964条)を受ける
・ 所有権
・ 地上権(用益物権)
・ 永小作権(用益物権)
・ 地役権(用益物権)
・ 先取特権(担保物権)
・ 質権(担保物権)
・ 抵当権(担保物権)
・ 賃借権(債権)
・ 採石権(用益物権類似:採石法4条3項で地上権の規定を準用)
② 民法177条「第三者」の範囲
客観的範囲
「第三者」とは、当事者及び包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張するのに正当な利益を有する者をいいます(制限説)。
「第三者」(民法177条)とは、当事者及び包括承継人以外の者で、登記の欠缺を主張するのに正当な利益を有する者をいう。
「登記の欠缺を主張するのに正当な利益を有する」ということを条件に「第三者」に該当するかどうかを区別している点で第三者を制限しています。
そのため、「第三者」(民法177条)として保護されるかを判断するためには、「正当な利益」を有するかの判断が重要です。
○ 当事者
○ 包括承継人(例:被相続人が建物を第三者に売却した後、その建物を相続した。)
⇒以下、「正当な利益」を有しない者▽▽
○ A⇒B⇒Cと順次譲渡された場合のAとC。Cは登記なくしてAに物権変動を主張できる。
○ 不法行為者
○ 不法占有者
主観的範囲
原則
「第三者」に該当する要件として、「物権変動についての善意・悪意」を求めていません。
たとえば、A(所有者:以下「社長」)とB(買主:以下「マジメ」)でA所有不動産の売買契約を締結した事実を知っている(悪意)C(第2買主:以下「親分」)が、さらにAとの間で当該不動産を売買契約を締結し、この不動産の登記を備えると、「第三者」に該当することになります(下の図を参照ください)。
「誰か、俺の持ってる「家」ほしくないかー?」
「1000万円で買いたいです。」
「OK」「あなたに売った!」
「くそ!もうあいつの家買われたのかよ」
「でも、倍の金額出せばこっちに売ってくれるだろう・・・」
「俺は、2000万円出す!もう売ったかもしれんが、こっちにも売ってくれ」
「それでもって、登記をこっちに先にくれ」
「ええよ♪」
以上のように、「親分」は、「マジメ」がすでに家を購入していることを認識した上で(悪意で)売買契約に入っています。
ですが「第三者」(民法177条)に該当し、登記があれば対抗することができるのです。
「悪意の第三者」が保護されるのは、以下の理由により正当化されるためです。
例外(背信的悪意者)
もっとも、判例は「悪意」であり、かつ「信義則」(民法1条2項)に反するような者である場合には、「第三者」(民法177条)に該当しないと考えています。
「実体法上物権変動があった事実を知る者において右物権変動についての登記の欠缺を主張することが信義に反するものと認められる事情がある場合には、かかる背信的悪意者は、登記の欠缺を主張するについて正当な利益を有しないものであって、民法177条にいう第三者に当たらない」
上記の例でいうと、「親分」が以下のように考えていると背信的悪意者に該当し、「第三者」(民法177条)にあたりません。
「もうあいつの家買われたのかよ」
「買ったのは、『マジメ』か・・・俺あいつ嫌いなんだよなぁ」
「よし、倍額だして『マジメ』が家を手に入れられなくしてやろう」
このように、悪意かつ「信義則」(民法1条2項)に反する場合には、例外的に「第三者」(民法177条)に当たりません。
背信的悪意者の関連問題
Q.背信的悪意者から物権変動を受けた人が背信的悪意者にあたらない場合は、その者は「第三者」(民法177条)にあたるのか?
Q.「第三者」(民法177条)に該当する者が権利を確定的に取得した場合、その「第三者」から物権変動を受けた者は、もはや「背信的悪意者」でないかという検討は不要になるのか?
A.この問題には、説の対立があります。
○ 登記を具備することにより権利を確定的に取得した場合、その者からの転得者は背信的悪意者か否か問題にならないとする考え方(通説)。
○ 確定的に権利が確定的に取得されているか否かに関わらず、転得者も背信的悪意者か否か判断するとという考え方。
コメント