即時取得
民法192条(即時取得)
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
不動産と異なり、動産には「公信力」が認められます。
▽「不動産物権変動」は、以下の記事を参照ください。
この「公信力」が現れているのが、この「即時取得」の規定です。
つまり、所有者としての外観を持っている人から、「動産」を購入すれば、その通りの権利が認められます。
即時取得が認められるには、以下の要件が必要です。
「即時取得」の要件
要件①:「動産」の範囲
【原則】
「動産」とは、不動産以外の物をいいます(民法86条2項)。
そのため、原則として、「不動産」以外は、即時取得の対象となります。
▽▽「不動産」「動産」の定義などについては、以下の記事を参照ください。
【例外】
[例外①]
⇒「登録された自動車」など一部の動産は、即時取得の対象となりません。
なぜなら、登録されている自動車などは、「占有」という外観を信頼して取引に入るということはなく、登録情報を見て購入するはずだからです。したがって、「占有の信頼」という事情を基礎とすることができないため、即時取得の趣旨に合致しません(最判昭和62年4月24日)。
要件②:「取引行為」
「取引行為」と「事実行為」
「取引行為」でなければ即時取得は成立しません。
「取引行為」に該当しない行為を「事実行為」といいます。
「事実行為」によって動産の占有を取得すれば、取得時効の規定(民法162条~)によって処理されることになります。
たとえば・・・(事実行為の例)
「父親の時計、勝手に使ってるけど最高の時計だな」
「この最高の時計を押し入れにしまってっと・・・」
「明日も早いから、寝るとするか!!」
・・・ ・・・ ・・・
「Zzz」「Zzz」・・・
「この家、鍵もしめんと不用心やな・・・」
「お!!高そうな時計ミッケ!」
「ありがたくもらっとくわ・・・クックク」
上記の例で盗人は、無権利の者から「時計」の占有を取得していますが、取得した方法は「盗取」です。
この「盗取」による取得方法は、「事実行為」に分類されます。盗人には即時取得は成立しません。
この場合に、盗人が「時計」の権利(所有権)を取得するためには、取得時効を用いる他ありません。
・売買
・贈与
・質権設定
・弁済としての給付
・代物弁済
・消費貸借成立に基づく給付 など
「取引行為」の有効性
「取引行為」は、有効である必要があります。
「取引行為」に、行為能力の制限を理由に取消事由があったり、意思表示の瑕疵を理由とする無効・取消事由があると、この「取引行為」は、無効になりますから(「取消」につき:民法121条)、即時取得は成立しません。
このことを指して、「即時取得は、信頼を保護する規定であり、取引の瑕疵を治癒しない」と説明します。
[関連論点]
Q.取消し前の転得者は動産を即時取得できるでしょうか。
A.瑕疵ある意思表示を理由に契約を取り消された者は、取消しの遡及効(民法121条)によって無権利者となる。この無権利者から動産を取得した者(転得者)は、無権利者から動産を引き受けたことに違いないから即時取得の規定によって保護される。そして、取消しの時点では、前持ち主は無権利者でないので、善意無過失の対象は、取消原因の有無についての善意無過失となる。
「取引行為」の有償性
「取引行為」とは、一般の取引市場において対価性の認められる行為をいうと考えられています。
Q.では、贈与契約などの無償行為は「取引行為」に該当しないのでしょうか。
肯定説
贈与契約などの行為も、完全な一方的財貨の付与行為ではなく、受贈者への恩義・感謝等の対価性が行為の背景に存在するといえるから、有償性が認められ無償行為と思われる贈与契約などでも「取引行為」に該当する。
否定説
無償行為には「対価性」が認められない以上、即時取得として保護する必要性はなく「取引行為」に該当しない。
要件③:「無権利者」の範囲
即時取得は、取引の相手方(無権利者)が占有しているという外観を信頼して、取引をした者を保護する規定です。
そのため、「無権利者」との間で取引行為がある必要があります。
「即時取得」は信頼を保護する規定であって、「取引の瑕疵」を治癒することはできません(「取引行為」の要件をご参照ください)。
「無権利者」といっても、「取引行為」が制限行為能力(民法5条2項など)、意思表示の瑕疵(民法93条以下)を理由に無効・取消しとなり権利を取得できないからといって、「即時取得」を主張することはできません。
一方で、制限行為能力(民法5条2項など)、意思表示の瑕疵(民法93条以下)を理由に無効・取消しとなり無権利者となった者と「取引行為」をした者は、即時取得が可能です。
【問題】
・Aは、甲[カメラ]をBに売却したが、その売買契約当時、Aは意思能力を有していなかった。その後、Bが甲をCに売却し、Cは、甲がBの所有物であると過失なく信じて、現実の引渡しを受けた。この場合、Aの法定代理人は、Cに対し、甲の返還を求めることができる[予備H28第5問イ]。
⇒×
[解説]
Aの法定代理人は、Cに対して動産[甲]の所有権に基づく返還請求としての引渡請求をします。この請求の要件は、①Aに所有権があること、②Cが占有していることです。
(①について)
動産[甲]は A⇒B⇒C と譲渡されています。Aは、契約当時意思能力を有してませんから、民法3条の2によりA・B間の売買契約は無効となります。Bが即時取得(民法192条)を主張するためには、A・B間の取引行為が有効である必要があるため、Bは即時取得を主張できません。
Bは、動産[甲]の所有権を持っていませんから「無権利者」にあたります。このBの選言いしていた動産[甲]を「過失なく」「現実の引き渡し」を受けているCは、即時取得(民法192条)を主張することができます。
よって、動産[甲]の所有権は、Cにありますから、上記要件を充たさずAの主張は認められません。
④ 「引渡し」(民法192条)とは
動産の「引渡し」には、以下の4つの方法があります。
しかし、「引渡し」(民法192条)に、④占有改定は含まれないと考えられています(最判昭和35年2月11日民集14巻2号168頁)。
なぜなら、「即時取得」の趣旨が「取引行為をした前主が動産を占有しており、この外観を信頼したこと」を保護することにあるため、現実的支配の移転が存在しない占有改定には、この保護すべき外観が存在しないと考えられているためです。
⑤ 平穏、公然、善意、無過失
「即時取得」(民法192条)が成立するためには、「平穏、公然、善意、無過失」の要件を充たす必要があります。
ここにいう「善意」の意味は、取引の相手方が真の権利者であると信じたという意味です(最判昭和41年6月9日、最判昭和26年11月27日民集5巻13号775頁)。
もっとも、即時取得を主張する者が、全ての要件を主張・立証する必要があるわけではありません。
平穏、公然、善意
民法186条(占有の態様等に関する推定)
1 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ、公然と占有をするものと推定する。
2 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する。
上記のように民法186条1項は、占有者の「善意、平穏、公然」を推定しています。
即時取得を主張する者は、動産の引渡しを受け占有者であることを前提としています。
そのため、「善意、平穏、公然」を主張・立証する必要はありません。
無過失
民法188条(占有物について行使する権利の適法の推定)
占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定する。
「無過失」については、直接推定しているわけではありません。
① 占有者(前主)の行使する権利は適法に有すると推定する(民法188条)
▽
② 前主(動産を占有する者)と取引をする者は、「適法な権利行使」であることを前提に取引に参加することになります。
▽
③ 前主を真の権利者であると信じたとしても過失がない(無過失)と推定されます。
上記の過程を経て、即時取得の「無過失」要件が推定されるので、即時取得を主張する者は、「無過失」について主張・立証責任を負いません。
参考文献
【民法・全般】
【要件事実】
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