[刑訴法]違法逮捕に引き続く勾留請求の可否

刑事訴訟法

被疑者勾留の要件

逮捕された被疑者について、さらに身柄の拘束を継続する必要があるときは、検察官が裁判官に勾留請求し、裁判官が勾留状を発付すると、被疑者を勾留することができます。

【実体的要件】

  1. 勾留の理由(嫌疑の相当性、住所不定・逃亡のおそれ・罪証隠滅のおそれ、207条1項本文、60条1項)
  2. 勾留の必要性(207条1項本文、87条1項)

60条は被告人の勾留についての条文であって、被疑者勾留の直接の根拠条文ではありません。

被疑者勾留の直接の根拠条文は207条です
 207条1項は、「前三条の規定による勾留の請求を受けた」場合の規定であり、検察官が逮捕した場合の勾留請求(204条)ないし送致を受けた検察官による勾留請求(205条)を受けた裁判の権限について「裁判又は裁判と同一」であることを規定しています。この条文によって裁判所又は裁判長の権限とされている被告人勾留に関する60条~62条・64条・70条・73条・74条・77条~87条・95条が被疑者勾留について準用されます。

憲法34条は「拘禁」につき「正当な理由」の存在を要求しており、これを受けて刑訴法は、60条で、被疑者に「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(嫌疑の相当性、60条1項柱書)があることに加えて、被疑者に住居不定(同項1号)、罪証隠滅のおそれ(同項2号)、逃亡のおそれ(同項3号)のいずれかがあることを求めています。

60条1項柱書と同項各号の要件をあわせて「勾留の理由」といいます。

そして、「勾留の理由又は勾留の必要がなくなったとき」は、裁判所は勾留を取り消さなければならないことから(207条1項本文、87条1項)、当初から勾留の必要がない場合には勾留は認められません。

刑事訴訟法207条(被疑者の勾留)
1 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
2 ……

刑事訴訟法60条(勾留の理由、期間・期間の更新)
1 裁判所は、被告人罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。
 1 被告人が定まつた住居を有しないとき。
 2 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
 3 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
2 ……

刑事訴訟法87条(勾留の取消し)
1 勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。
2 ……

【手続的要件】

  1. 逮捕前置主義の充足(207条1項)
  2. 逮捕手続きの適法性
  3. 制限時間の遵守(203条1項、205条1項・2項)
  4. 検察官による勾留請求(204条1項、205条1項)

207条1項は、「前三条の規定による勾留の請求を受けた」場合の規定であり、「前三条」とは204条~206条のことであり、 被疑者勾留をするためには先に逮捕されていなければならないことになります。これが逮捕前置主義です。

違法逮捕に引き続く勾留の可否

Q.勾留が逮捕を前提とするものであるとすると、逮捕が違法であった場合、その後の勾留は認められるのでしょうか。

逮捕と勾留は時間的に前後関係にあるとはいえ別個の処分であるから、勾留が認められるか否かはあくまで勾留の要件が備わっているかによって決定されるのであって、先行する逮捕が適法か否かは勾留の適否と直接の関係はないとも考えられます(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』75頁)。

しかし、逮捕が違法であった場合は、捜査機関は本来被疑者を釈放しなければならず、204条~206条の勾留請求はできません。その結果、「前三条の規定による勾留の請求を受けた」(207条1項)に該当せず、勾留が認められないことになります。そうだとすると、本来釈放すべきであるにもかかわらず、釈放しないままに勾留請求がなされた場合も、それと同様に扱うべきです(東京地決昭和39.10.15)。

また、現行法上、逮捕に対する直接の不服申立て(準抗告)が認められていないため(429条参照)、逮捕の違法が勾留に何ら影響しないとなると、逮捕の適法性について裁判官による審査がされないままということになります。しかし、これは妥当ではないため、逮捕に対する不服申立てが認められていないのは、勾留の段階で逮捕の適法性を審査することが前提とされているからだと考えられます。

また、逮捕が違法な場合には勾留請求を認めないとすることにより、将来における違法な逮捕を抑止することができるようになります。

これらのことから、勾留請求に至るまでの手続段階の違法性が勾留請求の適否に影響を与えると解すべきです。

しかし、逮捕手続に軽微な瑕疵があるに過ぎない場合まで勾留を一切認めないのは、捜査による事実解明を過度に阻害することになるため妥当ではありません。

そこで、207条5項但書(206条2項)が勾留の理由がある場合であっても正当な理由なく時間制限を超過してなされた勾留請求を却下すべきこととしている理由が、法定の時間制限を超えた身柄拘束を法的根拠のない重大な違法と評価することにあると解されることに鑑み、勾留請求に至るまでの手続段階にこれに匹敵するような重大な違法がある場合に限り、勾留請求も違法性を帯びた無効な手続として却下すべきです(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』63頁、酒巻匡「身柄拘束処分に伴う諸問題」法学教室291号96頁)。

*先行する逮捕の違法を理由として勾留請求を認めないかどうかは、それによって将来の違法逮捕を抑止する必要性と、身柄拘束の継続を認めないことによる捜査上の不利益とを比較衡量して決定されるとの見解もあります(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』86頁)。

刑事訴訟法207条(被疑者の勾留)
5 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

刑事訴訟法206条(制限時間の不遵守と免責)
1 ……
2 前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。

ポイント

先行する逮捕が違法な場合に勾留を認めない実質的な根拠は、司法の廉潔性の保持の要請将来の違法捜査(ここでは逮捕)の抑止の要請にある。

注意点

逮捕前置主義の趣旨を「先行する逮捕は適法でなければならない」ことの根拠とすることはできない(通説)。

逮捕前置主義の趣旨について、被逮捕者に二重の司法審査を受けさせることにより身柄の拘束に慎重を期すことにあると考える二重の審査説があります。
 しかし、二重の審査説は、逮捕の際に司法審査を経ない現行犯逮捕の場合を説明できません。また、逮捕前置主義の趣旨が二重の司法審査を経ることにあるのであれば、最初に短期の拘束、次に長期の拘束である必要はなく、刑訴法が短期の拘束(=逮捕)と長期の拘束(=勾留)とを組み合わせたこと(2つの身柄拘束の期間に大きな差異があること)を説明できていません(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』61頁)。

逮捕前置主義の趣旨については、逮捕・勾留が重大な基本権侵害を伴う処分であることに鑑みて、比較的短期の身柄拘束を先行させて、できる限り捜査を尽くさせたうえで、長期の身柄拘束の必要性を検討することにより、不必要に長期にわたる身柄拘束を避け、被疑者の利益を図る点にあると考えるべきです。
 そうすると、とりあえず短期の身柄拘束が勾留の前になされていればよく、必ずしも適法な逮捕であることを要しないことになります。したがって、先行する逮捕が違法であっても、そのことをもって逮捕前置主義に反するものとはいえないことになります。

逮捕にどのような違法があれば重大な違法と評価されるか

富山地裁昭和54.7.26は、勾留請求が違法な任意同行及び警察署への留め置き(実質的逮捕)に引き続く通常逮捕の手続きを経て行われた事案(実質的逮捕から逮捕令状による通常逮捕まで約5時間、実質的逮捕から検察官送致まで約20時間半、検察官送致から勾留請求までは約1時間45分)です。

本決定は、「約5時間にも及ぶ逮捕状によらない逮捕という令状主義違反の違法は、それ自体重要な瑕疵であって、制限時間遵守によりその違法性が治癒されるものとは解されない」として、勾留請求は認められませんでした。

東京高判昭和54.8.14も、勾留請求が違法な任意同行(実質的逮捕)に引き続く通常逮捕の手続きを経て行われた事案(実質的逮捕から逮捕令状による通常逮捕まで約3時間、実質的逮捕から検察官送致まで約38時間、検察官送致から勾留請求までは3時間以内)です。

本決定は、

  1. 実質的逮捕の時点で緊急逮捕の要件が備わっていたこと
  2. 実質的逮捕の数時間後には令状に基づく逮捕手続が取られていること
  3. 実質的逮捕を起点としても制限時間の違反がなく、勾留請求の時期について違法な点はないこと

を根拠に逮捕の違反は重大ではないとしました。

実質的逮捕の時点で緊急逮捕の要件が備わっていたか否か、及び、それが具備されている場合に、その時点から起算して制限時間の違反があるか否かで勾留請求の適否を判断するのが、裁判例の大勢であると評価されています(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』79頁)。

富山地裁は、逮捕が無令状でなされていること自体によって、勾留請求を違法とするような重大な違法があるとしたのに対し、東京高判は、実質的逮捕の時点で緊急逮捕の要件が備わっていれば、本来、無令状での逮捕が許された場合であり、警察官がいわば手続の形式を誤ったに過ぎないといえるから、単に通常逮捕の要件が備わっていた場合とは異なり、違法性の程度は低いとしました(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』79頁)。

違法逮捕に基づく勾留請求却下後の再逮捕(勾留)の可否

この論点は「再逮捕・再勾留」の記事に書きましたので、そちらを参照ください。

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