[刑訴法]一罪一逮捕一勾留の原則

刑事訴訟法

一罪一逮捕一勾留の原則の意義

一罪一逮捕一勾留の原則とは、同一の被疑事実については1つの逮捕・勾留を1回のみ行うことができるという原則をいいます。

この原則について、明文の根拠規定はありませんが、同一の被疑事実について複数回の逮捕・勾留を許せば、法が身柄拘束期間について厳格な制限を置いている(203条~208条)趣旨が没却されることから導かれます。

一罪一逮捕一勾留の原則は、重複逮捕重複勾留禁止の原則再逮捕再勾留禁止の原則の両方を含んでいます(三井、川出)。

重複逮捕重複勾留禁止の原則逮捕・勾留は被疑事実を単位として行われるから、同一の被疑事実については、同時に複数の逮捕・勾留を行うことはできない
再逮捕再勾留禁止の原則刑訴法上、逮捕・勾留期間が厳格に制限されていることから(203条~208条)、同一の被疑事実につき時を異にして逮捕・勾留を繰り返すことはできない

「一罪」の意義(実体法上一罪説VS単位事実説)

Q.一罪一逮捕一勾留の原則にいう「一罪」は、どの範囲を指すでしょうか。

実体法上一罪説(通説)

「一罪」とは実体法上の一罪をいうと考える見解です。

★根拠には、複数の考え方があります。
考え方➀
⇒刑事訴訟は国家の刑罰権を実現する手続であり、実体法上の一罪については1個の刑罰権しか発生しない以上、その範囲内にある事実は訴訟法上も1個のものとして扱うべきであるから、実体法上の罪数を基準に判断すべき。

考え方②
⇒勾留の手続は、判決に直結しないため、1個の刑罰権の対象となる事実に対応する勾留が複数なされたとしても、複数の刑罰の言渡しがされるわけではないことを考慮すると、実体法上の一罪について刑罰権が発生するからといって、勾留についてまで1回でなければならないとする論理的必然性はないとの私的があります。
 そこで、(1)実体法上の一罪を構成する事実は相互に密接な関係があるため、それを分割してそれぞれに逮捕・勾留を許すと、捜査の重複を招き、実質的には逮捕・勾留の蒸し返しとなる可能性が高いため、あらかじめ防止すること、(2)実体法上の一罪ではなく、個々の犯罪事実を基準とすると、基準が不明確になってしまうから、実体法上の罪数を基準に判断すべき。

単位事実説

実体法上の罪数を考慮せずに、(包括)一罪を構成する個々の単位事実(現実に犯された個々の犯罪事実)ごとに身柄拘束が可能であるとの見解です(福岡高決昭和42.3.24)。

根拠
捜査段階の流動性・発展性からして、捜査手続が刑罰権の個数に縛られるべきではなく、事実的側面を重視すべき。

批判
包括一罪の場合のほか、科刑上一罪の場合や結合犯の場合はどうかなど、逮捕・勾留の個数の判断基準が不明確で、恣意的なものになるおそれがある。

一罪一逮捕一勾留の原則の適用の有無

以下では、通説である実体法上一罪説に立つことを前提に検討していきます。

厳格適用説

一罪一逮捕一勾留の原則の不適用を一切認めない見解です(岐阜地決昭和45.2.16)。

例外許容説(通説)

原則として一罪一逮捕一勾留の原則を適用するが、例外的に同原則が適用されない場合があることを認める見解です(福岡高決昭和49.10.31)。

一罪一逮捕一勾留の原則は、実体法上一罪の関係にある被疑事実については1つの逮捕・勾留を1回のみ行うことができるという原則です。

言い換えれば、この原則は、捜査機関に対して、逮捕・勾留の蒸し返しを防ぐため1回の身柄拘束の中で一罪の関係にある被疑事実の全部について同時に捜査することを求めています。そうだとすると、(法は不能を強いるものではないから)同時処理が不可能であった場合は、逮捕・勾留の蒸し返しとはいえず、同原則は妥当しないことになります。
 つまり、実体法上一罪の関係にある事実であっても、同時処理が不可能であった場合は、同原則は適用されず、異なる被疑事実として扱われ、逮捕・勾留が可能になります(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』79頁)。

*「同時処理の可能性」とは、「当初の逮捕・勾留中に同時に捜査を遂げうる可能性」(仙台地決昭和49.5.16)のことであり、同時に起訴する可能性ではありません。

★「同時処理の可能性」について、観念的可能性なのか、現実的可能性なのかで対立があります。

観念的可能性説(多数説)
 捜査機関側の捜査能力の欠如を被疑者・被告人に転嫁すべきではないとして、当初の逮捕・勾留より前に行われていた犯罪については、たとえそれが捜査機関に発覚していなくても、「同時処理の可能性」を肯定し、再度の逮捕・勾留は許されないとする見解。

現実的可能性説
 当初の逮捕・勾留より前に犯罪が行われていただけでは足りず、当初の逮捕・勾留前に、犯罪が捜査機関に発覚していることを要する見解
(現実的可能性説には、犯罪の発覚がなくても捜査機関に予測可能であればよいとする見解や、犯罪の発覚や予測可能であったことだけでは足りず被疑者が犯人であることまで捜査機関に発覚していることを要する見解等いろいろあります)。

もっとも、現実的可能性説に対しては、捜査機関が捜査を懈怠したり、捜査能力に欠ける方が、かえって犯罪が発覚しないことになって再度の身柄拘束が許されるというおかしな結果になるとの批判、基準が不明確であるとの批判があります。

原則実体法上一罪関係にある被疑事実については、原則として、一罪一逮捕一勾留の原則が適用される。
例外同時処理が不可能な場合は、一罪一逮捕一勾留の原則は適用されない。
まとめ

1.まず、一罪一逮捕一勾留の原則が適用されるか検討する。
 (1)実体法上一罪を構成するか→YESなら(2)へ
                NOなら同原則は適用されず、再逮捕再勾留ではないことになる
 (2)同時処理が可能か→YESなら同原則が適用される→2へ
            NOならNOなら同原則は適用されず、再逮捕再勾留ではないことになる
2.重複逮捕重複勾留(ないし再逮捕再勾留)が例外的に認められる場合に当たるかを検討する。
(重複逮捕重複勾留禁止の原則の例外を認める基準と再逮捕再勾留禁止の原則の例外を認める基準は同じ)

再逮捕再勾留禁止の原則については、以下の記事を参照ください。

併合罪関係にある余罪の逮捕勾留の可否

実体法上一罪説を採ると、当初の逮捕・勾留と異なる実体法上併合罪関係にある被疑事実で被疑者を逮捕・勾留することは、一罪一逮捕一勾留の原則に反せず、許されることになります。

この点について、実体法上併合罪関係にある被疑事実であっても、両事実が実質的に重なっている場合には、①両事実の間に密接関連性があり、かつ、②同時処理の可能性があれば、逮捕・勾留の不当な蒸し返しを許さないとする一罪一逮捕一勾留の原則に実質的に反し、逮捕・勾留は許されないとする見解もあります(大阪地決平成21.6.11)。

もっとも、同時処理義務を併合罪関係にある事実に容易に及ぼすべきではないとする判例が出ました(最決平成30.10.31)。

最決平成30.10.31は、両事実の実質的同一性や、両事実が一罪関係に立つ場合との均衡等のみから、捜査機関に同時処理が義務付けられていたと解することはできないとしました。

当該事案における捜査経緯、新たに捜査すべき事項や収集すべき証拠の存在等の具体的事情を考慮して、新たな逮捕・勾留が不当な蒸し返しに当たるかどうかを実質的に判断すべきです。例えば、先行する逮捕・勾留の被疑事実よりも、併合罪関係にある余罪の方が相当幅広い捜査を行う必要がある場合には、同時処理義務は否定されるでしょう。

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