[刑訴法]逮捕に伴う無令状捜索・差押え

刑事訴訟法
ほくる
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令状なく捜索・差押えをすることができるのは、どのような場面でしょうか。

また、どの範囲の捜索が許されるのでしょうか?

全体像はこんな感じ

憲法35条は、捜索・差押えは、「33条の場合」(逮捕する場合)を除いて、令状によらなければならないと定め、これを受けて刑訴法220条が、逮捕する場合に無令状で捜索・差押えを行うことを認めています。

220条1項1号が逮捕のための被疑者の捜索の条文であり、捜索令状がなくても、必要があれば人の住居、人の看守する邸宅、建造物、船舶に入って、被疑者の捜索をすることができます(220条1項1号、同条3項)。

220条1項2号が逮捕に伴う捜索・差押えの条文であり、「逮捕の現場」であれば、令状なしで捜索・差押えをすることができます(220条1項2号、同条3項)。

刑事訴訟法220条(令状によらない差押え・捜索・検証)
1 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、第百九十九条の規定により被疑者を逮捕する場合又は現行犯人を逮捕する場合において必要があるときは、左の処分をすることができる。第二百十条の規定により被疑者を逮捕する場合において必要があるときも、同様である。
一 人の住居又は人の看守する邸宅、建造物若しくは船舶内に入り被疑者の捜索をすること。
二 逮捕の現場で差押、捜索又は検証をすること。

2 前項後段の場合において逮捕状が得られなかつたときは、差押物は、直ちにこれを還付しなければならない。第百二十三条第三項の規定は、この場合についてこれを準用する。

3 第一項の処分をするには、令状は、これを必要としない

4 第一項第二号及び前項の規定は、検察事務官又は司法警察職員が勾引状又は勾留状を執行する場合にこれを準用する。被疑者に対して発せられた勾引状又は勾留状を執行する場合には、第一項第一号の規定をも準用する。

無令状で出来る根拠は?

Q.逮捕に伴う捜索・差押え(220条1項2号)が無令状で行いうる根拠は何でしょうか。

これについては2つの見解が対立しています。相当説緊急処分説です。

相当説

逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で行いうる根拠は、逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が一般的に高く、令状を請求すれば当然に発付されるため、裁判官による事前の司法審査を経る必要がないことにある(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』150頁)。

緊急処分説

逮捕に伴う捜索・差押えが無令状で行いうる根拠は、逮捕の際に行われる被逮捕者による抵抗を抑圧し、逃亡を防止するとともに、被逮捕者によって証拠が消滅されることを防止し、証拠を保全する緊急の必要性があることにある(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』150頁)。

どちらの見解も、逮捕現場に証拠が存在する蓋然性が高いことを前提にしています。

要件

【要件】

  1. 被疑者を「逮捕する場合」(199条、213条、210条)であること
  2. (a)人の住居、建造物等に入り被疑者の捜索をすること(220条1項1号)又は
    (b)「逮捕の現場」で差押、捜索又は検証をすること(同項2号)
    ⇒以上、(a)or(b)の必要があること

「捜索」に関連する問題点

場所的限界(捜索の範囲:「逮捕の現場」の意義)

Q.捜索の範囲はどこまででしょうか。220条1項2号の「逮捕の現場」の意義が問題になります。

相当説からの説明

 220条1項2号、3項が、逮捕に際して、逮捕の現場で、無令状で捜索・差押えをすることができるとしている趣旨は、逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が一般的に高く、令状を請求すれば当然に発付されるため、裁判官による事前の司法審査を経る必要がないことにあります。

 とすると、捜索の場所は、仮に令状の発付を請求し令状を得たとすれば捜索が可能な範囲であり、被逮捕者の身体・所持品のほか、「逮捕の現場」すなわち逮捕現場を基点として、同一の管理権が及ぶ範囲内の場所を捜索できると解すべきです。
 また、「逮捕の現場」とは、逮捕行為に着手した場所から逮捕完了までの場所をいい、被疑者が逃走した場合には追跡した場所も含まれます。

例えば、被疑者の住居内の一室で逮捕した場合、証拠存在の蓋然性は住居内でさほど変わらないため、捜索範囲は住居全体ということになります。

※「逮捕の現場」は場所を画する概念であり、人の身体や所持品を「逮捕の現場」に含めて解釈するのは無理があり、証拠物存在の蓋然性が高いことから被逮捕者の身体や所持品が捜索の対象になると解すべきと指摘されています(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』129頁)。

注意点

220条に基づく捜索でも、捜索の要件を定めた102条が準用されるため(222条1項)、被疑者に属する場所や物が逮捕に伴う捜索の対象である場合には「必要性」(102条1項)が要求され、被疑者以外の者に属する場所や物が対象である場合には「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(同2項)の存在が要求されます(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』156頁)。

例えば、Xを第三者Y方で逮捕した場合、「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」(222条1項、102条2項)、Y方の捜索が許されます。

緊急処分説からの説明

220条1項2号、3項が、逮捕に際して、逮捕の現場で、無令状で捜索・差押えをすることができるとしている趣旨は、令状主義を原則とし、被逮捕者による証拠の破壊・消滅を防止することにあります。

とすると、逮捕に伴う捜索・差押えは、事前に令状を取る時間的余裕がない場合に限定され、捜索の範囲も、被逮捕者が証拠隠滅を図ることができる範囲、すなわち、被逮捕者の身体および被逮捕者の直接の支配下にある場所(被逮捕者の手の届く範囲)に限られます。

その具体的範囲は、逮捕の際の被逮捕者の移動可能性に左右されるため、被逮捕者の拘束の態様・程度、被逮捕者と捜査官との位置関係といった事情を考慮して、個々の事案ごとに決定せざるをえません(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』156頁)。

※被逮捕者の身体、所持品を捜索できることは緊急処分説でも同様です。

例えば、住居内の一室で逮捕した場合、捜索範囲は被逮捕者の手の届く範囲に限られます。

「被疑者の連行」と捜索・差押えの可否

Q.無令状で捜索・差押えができるのは「逮捕の現場」(220条1項2号)だけであるため、他の場所に連行した上で捜索・差押えをすることはできないのではないでしょうか。連行した上での捜索・差押えも、「逮捕の現場」における捜索・差押えといえるでしょうか。

(相当説から)「逮捕の現場」とは、逮捕地点を基点として、同一の管理権が及ぶ範囲内の場所をいいます。

もっとも、本来行うことができた「逮捕の現場」における無令状捜索・差押えが、逮捕現場付近の具体的状況の下、その場所で実施するのが不適当又は困難である場合には、本来の処分の目的実現のための付随的処分として速やかに最寄りの捜索・差押えに適した場所に移動した上で(「必要な処分」(222条1項、111条1項))身体・所持品の捜索・差押えを実施することも、220条1項2号にいう「逮捕の現場」における捜索・差押えと同視することができ、適法であると解すべきです(最決平成8.1.29)。

※「同視」することができる、としている点に注意が必要です。

「差押え」に関連する問題点

差押えの対象

差押えが適法とされるためには、差押えの対象が222条1項の準用する99条1項にいう「証拠物」に該当することが必要です。

Q.では、ここでいう「証拠物」とはなにを指すでしょうか。

逮捕に伴う無令状捜索・差押えが許される趣旨が、逮捕現場には証拠が存在する蓋然性が類型的に高いことにあることから、ここでいう「証拠物」とは、逮捕の理由とされた被疑事実と関連する証拠物と思料されるものに限られると解すべきです。そして、被疑事実と関連する証拠物には、直接証拠だけでなく、間接証拠、補助証拠、情状証拠、背景証拠も含まれると解されます。

※差押えの対象が「被疑事実に関連するもの」に限られることは、相当説でも緊急処分説でも変わりません。

捜索・差押えの両方の問題点

時間的限界(「逮捕する場合」の意義)

Q.逮捕に着手する前に捜索・差押えを行うことは可能でしょうか。「逮捕する場合」の意義が問題になります。

相当説から

逮捕の着手の前後で逮捕の現場に証拠が存在する蓋然性に変化はないから、「逮捕する場合」とは、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、逮捕との時間的接着性を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は問わないと解する(最判昭和36.6.7)。

この見解からは、逮捕に失敗し被疑者が逃走したとしても、逮捕が予定されていれば足り、捜索・差押えは適法になる。

緊急処分説から

逮捕に際には被逮捕者が証拠を隠滅するおそれがあることが無令状捜索・差押えが許される根拠であるため、捜索・差押えが許容されるのは、被逮捕者が証拠を隠滅するおそれがある範囲でなければならず、「逮捕する場合」とは、原則として逮捕行為に着手している必要があり、かつ、逮捕とのより厳しい時間的接着性が必要になる
 もっとも、逮捕の着手前でも、被疑者がその場に現在し、かつ着手直前である場合には、証拠隠滅のおそれがあるため、捜査・差押えが許される

被疑者を逮捕した「時点」との関係で「逮捕する場合」に該当するか否かは、以下のような違いがあります。

相当説緊急処分説
逮捕着手前原則×
着手後
逮捕が完了し、被疑者が現場から連れ出された後、あるいは被疑者が完全に身動きできなくなった後×
逮捕が失敗し、被疑者が現場から逃走した後×

先行する逮捕が違法な場合の無令状捜索・差押え

問題の所在

捜索・差押えには令状を要するのが原則です(憲法35条、刑訴法218条、219条)。しかし、逮捕の現場には被疑事実に関連する証拠が存在する蓋然性が高いことから、「逮捕する場合」に「逮捕の現場」でする無令状捜索・差押えは例外的に認められています(220条1項2号、3項)。

Q.では、先行する現行犯逮捕・準現行犯逮捕が違法な場合でも、「逮捕する場合」(220条1項柱書)に当たるのでしょうか。

なお、先行する逮捕が緊急逮捕であり、違法な逮捕であるとして逮捕状が発付されなかったときは、逮捕の現場で差し押さえた物は直ちに還付しなければなりません(220条2項)。

捜索の適法性について

220条1項柱書は適法な逮捕を当然の前提とした規定です。しかし、同条項柱書は「逮捕した●●場合」とは定めていません。したがって、「逮捕する●●場合」とは、単なる時点よりも幅のある逮捕する際をいうのであり、逮捕との時間的接着性を必要とするけれども、逮捕着手時の前後関係は問わないと解すべきです(最判昭和36.6.7)。緊急逮捕の実体的要件を充足し、緊急逮捕に着手しうる状況下でなされた捜索は「逮捕する場合」になされたものとして適法であると解すべきです。

差押えの適法性について

捜索が適法であるとされた場合に、次に、差押えの適法性を検討します。

無令状捜索・差押えが例外的に許容される趣旨が、逮捕の現場には証拠が存在する蓋然性が一般的に高く、令状を請求すれば当然に発付されるため、裁判官による事前の司法審査を経る必要がないことにあること(相当説)や、令状に基づく差押えの場合でさえ被疑事実との関連性が求められていること(219条1項参照)から、無令状捜索・差押えの場合にも、被疑事実と差し押さえる物との間に関連性を要求すべきです。

逮捕の現場に居合わせた第三者の身体、所持品の捜索の可否

問題の所在

Q.無令状捜索・差押えが許される趣旨が逮捕現場には証拠が存在する蓋然性が高いことにあるとすると、逮捕現場にたまたま居合わせた第三者の身体や所持品の中に証拠物が存在する蓋然性が類型的に高いとはいえないため、そのような第三者の身体、所持品については捜索できないのではないでしょうか。

積極説(有力説)

220条1項2号は、捜索・差押えの実施場所を「逮捕の現場」とし、222条1項は、差押えの対象につき99条を、捜索の対象につき102条を準用しているため、「捜索の現場」に居合わせた第三者の身体、所持品の捜索は許される。もっとも、被疑者ではない第三者の身体、所持品の捜索については「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況」(102条2項)が必要である(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』137頁)。

消極説

220条1項2号の捜索は、令状主義の例外であるため、その対象は、一般的・類型的にみて証拠の存在する蓋然性が高い場所・身体・物に限定されるべきである。
 「個別具体的事案で証拠が存在する蓋然性が高いこと」では、第三者の身体、所持品に対する無令状捜索・差押えを正当化できない。102条2項の要件があるかどうかを問題とするまでもなく、第三者の身体、所持品は220条1項2号による捜索の対象にならない。つまり、第三者の身体、所持品に対する捜索については、そもそも220条1項2号が許容していない以上、222条1項で102条2項を準用する余地はない(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』138頁、142頁、143頁)。

※このように解しても、222条1項が102条2項を準用していることが無意味になるわけではありません。被疑者を第三者の家で逮捕した場合には、そこには一般的・類型的にみて逮捕事実に関する証拠が存在する蓋然性が高いため、220条1項2号による捜索の対象になり、222条1項が102条2項を準用していることに意味があります。

消極説を採った場合でも、例外的に居合わせた第三者の身体、所持品を捜索できる場合があります。

居合わせた第三者が逮捕の現場にあった証拠物を隠匿したと疑うに足りる相当な理由があるときは、捜索の目的達成のため「必要な処分」(222条1項、111条1項)として、(捜査比例の原則により)妨害排除・原状回復のため必要かつ相当な処分を行うことができると解します。

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