[刑訴法]令状による捜索・差押え

刑事訴訟法
ほくる
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令状による捜索・差押えに関する論点ってなにがあったっけ?

捜索・差押えとは?

差押え:一定の物の保全のため、その物に対する所有者、所持者、保管者の占有を強制的に排除して占有を取得し、これを保持する処分(『リーガルクエスト刑事訴訟法(第2版)』119頁)。

捜索:物の差押えを行うために、一定の場所や物、人の身体について、物又は人の発見を目的として行われる強制処分。

令状による捜索・差押えの要件

手続的な要件としては、以下のように考えられています。

憲法35条は、「住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利」を保障しています。捜索・差押えは、住居、書類、所持品といった財産的権利を侵害するだけでなく、私的領域に侵入されることのない権利を侵害する強制処分であるため、捜査機関のみの判断で行うことはできません。

そのため、捜索・差押えは、原則として、捜査機関からは独立した公平中立な第三者である➀裁判官が「正当な理由」があることを事前に審査したうえで、②「捜索する場所及び押収する物」を明示した、③「各別の令状」を発付しなければすることができません(憲法35条)。

【手続的要件】

  1. 権限を有する司法官憲(裁判官)
  2. 捜索場所等・差押目的物の明示
  3. 各別の令状
  4. 罪名の記載

上記、➀の裁判官は、「正当な理由」があることを審査して、令状を発付するか検討します。そのため、捜索・差押えの実体的要件は、「正当な理由」の具体的内容と同一であるといえます。

Q.そこで、「正当な理由」とはどのようなものを指すでしょうか。

ここでいう「正当な理由」(憲法35条1項)とは、

  • 特定の犯罪事実についての嫌疑の存在
  • 差押えの目的物が捜索場所に存在する蓋然性
  • 差押えの目的物と被疑事実との間の関連性
  • 捜索・差押えの必要性

を意味します(『基本刑事訴訟法Ⅰ』46頁)。

したがって、「捜索・差押え」の実体的要件は、以下のように考えられています。

捜索●●の実体的要件】

1. 嫌疑の存在
2. 差押目的物の存在の蓋然性
3. 捜索の必要性
4. 捜索対象の特定

差押え●●●の実体的要件】

1. 嫌疑の存在
2. 被疑事実との関連性
3. 差押えの必要性
4. 差押え対象の特定

「正当な理由」の具体的な内容

Q.なぜ、実体的要件としてそれぞれが求められるか考えてみましょう。

嫌疑の存在

捜索・差押えに共通するものとして、特定の犯罪事実の嫌疑が存在することが必要です(刑訴規則156条1項)。そもそも捜査は特定の犯罪の嫌疑を前提に行われるものですから、嫌疑の存在は当然の要件です。

差押目的物が存在する蓋然性(捜索の理由)

 捜索については、捜索対象となる人の身体、物、住居、その他の場所に、差押目的物が存在する蓋然性があることが必要です(被疑者以外の者の身体、物、住居、その他の場所については、222条1項が準用する102条2項「押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り」)。

差押目的物が存在しないような場所に対する捜索を認めることは無意味でありかつ相当でもないからです。

被疑事実との関連性(差押えの理由)

 差押えについては、差押目的物が特定の犯罪事実に関連するものであることが必要です(222条1項が準用する99条1項「証拠物又は没収すべき物と思料すもの」)。

もっとも、刑事訴訟は事案の真相を解明し刑罰権の存否及び量を確定することが目的であるため、「証拠物」(222条1項、99条1項)とは、被疑事実自体の証拠(直接証拠間接証拠補助証拠)に限られず、量刑に影響を及ぼす情状事実を立証するための情状証拠背景証拠なども含まれると考えられています。

恐喝事件の令状で、別罪の証拠となる賭博メモを差し押さえた事案があります(最判昭和51.11.18)。
 当該恐喝事件が暴力団に所属しまたは暴力団と親交のある被疑者によって行われたという具体的事実関係に即すると、賭博メモは賭博事件の直接証拠になり得るものであると同時に、暴力団組織の性格や事件の組織的背景を知るうえで必要な証拠であり、恐喝事件の証拠ともなり得ます。

捜索・差押えの必要性

捜索・差押えの必要性については、218条1項が「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」に捜索・差押えをすることができると規定しています。

最決昭和44.3.18は、差押えの必要性につき、「犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅毀損されるおそれの有無、差押によって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情」を考慮して決定すべきであるとしました。
 この判示から、捜索・差押えの必要性とは、単に捜査の必要性だけでなく、比例原則に基づいて、捜索・差押えの対象になる者の不利益の程度等と捜査の必要性とが権衡している状況にあることが求められるといえます(『基本刑事訴訟法Ⅰ』49頁)。その意味で、ここでいう必要性は、相当性(利益衡量)を含みます。

また、最決昭和44.3.18は、捜索差押えの必要性がないことを理由に裁判官が令状を発付するべきでないのは、「明らかに……必要がないと認められる」場合に限定しています。

捜索差押えの対象の特定

憲法35条が、捜索・差押えは、「捜索する場所及び押収する物を明示する令状」によらなければならないとし、これを受けて刑訴法219条1項は、捜索差押許可状に「差し押さえるべき物」「捜索すべき場所、身体若しくは物」を記載しなければならないと規定しています。

状による差押えをするには?

Q.司法警察員が令状に基づき捜索差押えをするには、どのような要件が必要でしょうか。

差し押さえるためには、

① 令状記載の差押目的物の品目に該当すること
② 当該物が差押えの根拠となった被疑事実と関連性を有すること

が必要です。

裁判官が令状審査を適法に行い、令状が適法であることを前提とすると、以上の要件になります。

関連論点一覧

令状の「特定」については、以下の記事を参照ください。

令状効力の及ぶ範囲(捜索の範囲)に関する問題は、以下の記事を参照ください。

令状効力の及ぶ範囲(差押えの範囲)に関する問題は、以下の記事を参照ください。

令状呈示の時期については、以下の記事を参照ください。

電子的記録媒体の捜索・差押えについては、以下の記事を参照ください。

別件捜索・差押えについては、以下の記事を参照ください。

捜索・差押えの際の写真撮影については、以下の記事を参照ください。

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