代理の要件
民法99条(代理行為の要件及び効果)
1 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。
代理が有効に成立するためには、以下の要件が必要です。以下の内容は、代理権授与行為の法的性質について「無名契約説」(通説的見解)であることを前提としています。
①代理人と相手方の法律行為があること
②代理人による顕名
③①の法律行為に先立つ、本人が代理人に①についての代理権を授与したこと
・・・・・・★「代理権授与行為」の法的性質とは??・・・・・・
顕名
「顕名」とは、代理人が法律行為のための意思表示をするに際して、「本人」のために代理行為としてすることを示すことをいいます。
民法99条1項にいう「 代理人が・・・・・・本人のためにすることを示してし」とは、「顕名」のことを指しています。
民法100条(本人のためにすることを示さない意思表示)
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。
顕名がないときの効果(原則)
もしも、顕名がなかったとすると、表意者である代理人自身のために意思表示したと受け取られるはずです。そのため、原則として代理人が顕名をせずに行った意思表示は、代理人の意思表示であるとされます(民法100条)。
代理人の意思表示であるとされるので、意思表示は有効で代理人と相手方との間で契約などの法律行為が成立します。
最初の売買契約の例で「顕名」をしなかったとすると、 代理人と相手方との間で売買契約が成立します。そしてこの売買契約は「他人物売買」(民法561条)です。そうすると、代理人であるBは「A所有の土地を取得してCに移転する義務」が生じ、取引の相手方であるCは「代理人Bに対して5000万円を支払う義務」が生じることになります。
顕名がないときの効果(例外)
ただし、相手方が代理人のした意思表示が本人のためにされていることを「知っていた」または「知ることができた」ときは、代理行為(法律行為)の効果は本人に帰属することになります。
代理権
代理権がなければ、代理人の行った法律行為の効果が本人に帰属することはありません。
代理権の範囲については、下記の「法定代理」「任意代理」の範囲を閲覧ください。
代理の種類
法定代理
「法定代理」とは、法律の規定に基づいて、代理権を付与することをいいます。この法定代理に選ばれた代理人のことを「法定代理人」といいます。
法定代理の範囲は、「法律に規定されているもの」と「規定されていないもの」があります。
法律に法定代理の範囲が規定されているものは、下記に条文を加えてあります。
保佐人・補助人については、代理権付与の審判で具体的な代理権の範囲が決まることになる。
【法定代理人・一覧】
・未成年者の親権者〈民法824条)
・成年後見人(民法859条)
・代理権を付与されている保佐人
・代理権を付与されている補助人
・不在者財産管理人(28条)
・夫婦の日常家事代理(民法761条)
・相続財産管理人(民法953条で民法28条準用)
任意代理
「任意代理」とは、本人が、自分の意思で代理人となる者に対して代理権を付与することをいいます。この任意代理に選ばれた代理人のことを「任意代理人」といいます。
任意代理の範囲は、①まず、代理権授与行為によって任意代理権を与えられることになるので、この代理権授与行為(事務処理契約等)の解釈を行うことになります。
②解釈によっては、代理権の範囲が明らかとならない場合に、「民法103条の規定」に従うことになります。
民法103条(権限の定めのない代理人の権限)
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。
一 保存行為
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
民法103条によると、代理人が行うことができる行為は、①保存行為、②利用行為、③改良行為に限られることになります。
「保存行為」とは、財産を現状維持する行為のことをいいます。
「利用行為」とは、収益を得るための行為をいいます。
「改良行為」とは、価値を増加させる行為のことをいいます。
復代理
意義
「復代理」とは、代理人が代理権を有する事項について、「一定の場合に」本人のために別の代理人(復代理人)を選任する制度のことをいいます。
任意代理人の復代理
民法104条(任意代理人による復代理人の選任)
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。
任意代理人の場合、代理人に代理行為を依頼した本人からすると、代理人がどういう性格の人か、代理人との関係(友人、親子関係等)など様々なことを考慮して、「代理人」としています。
そのため、代理人が身勝手に他の人に代理行為をさせることができると、本人が「代理人」を選任した意味が無くなってしまいます。
そのため、復代理人の選任が許される場合は、以下のように限定されています。
①本人の承諾を得たとき
②やむを得ない事由があるとき
上記の要件のいずれかを充たさない復代理行為は、「無権代理行為」になります。
そのため、本人に効果帰属しません。
法定代理人の復代理
民法105条(法定代理人による復代理人の選任)
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、本人に対してその選任及び監督についての責任のみを負う。
法定代理人は、法律の規定によって選任されることになります。そのため、法定代理人の選任に関しては、本人の意思を通して私的自治を全うするという考えは働らきません。
その上、法定代理人は、代理権の範囲がかなり広く、簡単に辞任することができないことが多いです。
そのため、法定代理人の1人に広範な事務を処理させて、雑な処理になる危険があります。
このような事情があるため、法定代理人にはある程度広範な「復代理の選任権」を認めています。
共同代理
「共同代理」とは、当事者の合意・法律の規定により、数人が「共同して」代理しなければならない代理のことをいいます。
共同代理とされている時に、代理人の1人が勝手に代理行為をすれば、無権代理行為となります。
通常、代理人が数人いる場合には、原則として各々の代理人は単独で代理行為をすることができます。
そのため、共同代理であるといえるためには、代理人が複数いるだけでは足りず、「共同代理の指定」がされている必要があります。
自己契約・双方代理・利益相反行為
民法108条(自己契約及び双方代理等)
1 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
自己契約・双方代理(民法108条1項)
意義
「自己契約」とは、代理人が「本人の法律行為の代理人」をやりつつ、同時に「法律行為の相手方が自分である」という場合をいいます。
「双方代理」とは、代理人が「本人の法律行為の代理人」をやりつつ、同時に「法律行為の相手方の代理人」でもある場合をいいます。
効果
「自己契約」「双方代理」は、原則として無権代理とみなされます。
そのため、無権代理に関する規定が適用されます。
「自己契約」「双方代理」が禁止されているのはなぜ??
たとえば「自己契約」では、「本人の代理人」をした上で、「自分自身」と契約することになります。「本人の代理人」の地位としては、本人の利益を考えて行動することが求められます。
しかし、取引の相手方が「自分自身」であると、どうしても自分の利益のことも考えてしまい、「本人の利益のためだけ」に行動できなくなってしまう危険があります。
このように、一方の利益を図ると他方の利益が損なわれてしまうという関係では、「本人の代理人」の地位からみると「利益相反」の状態となってしまいます。
「自己契約」「双方代理」は、この利益相反行為を禁止しています。
例外的に、「債務の履行」と「本人の承諾がある」のいずれかの場合であれば、「自己契約」「双方代理」に該当したとしても、代理として有効となり本人に効果帰属することになります。
利益相反行為(108条2項)
「利益相反行為」とは、契約の当事者相互間の利益が相反することをいいます。一方が利益を得ると他方が不利益を被るという関係のことです。
「利益相反行為」に該当する代理行為は、無権代理とみなされます(民法108条2項)。
もっとも、本人があらかじめ承諾していた場合には、その後にした代理行為は代理が有効に認められ、本人に効果帰属することになります。
「利益相反行為」に該当するか否かについては、以下の記事を参考にしてください。
民法百選第45事件・・・
代理権の消滅
民法111条(代理権の消滅事由)
1 代理権は、次に掲げる事由によって消滅する。
一 本人の死亡
二 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
2 委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する。
代理権が消滅事由について、図にまとめました。
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