[刑訴法]電磁的記録媒体の捜索・差押え(包括差押え)

刑事訴訟法
ほくる
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スマホなどに保存されているデータなどを証拠としたい時、どのように差押えするのでしょうか。データだけを抜き取るの?スマホ本体などの電磁的記録媒体を差押えるの?

電磁的記録の差押えは?

Q.スマホの中にあるデータを証拠として差押えることができるでしょうか。

差押えの対象は「証拠物又は没収すべき物」(222条1項、99条1項)であって、有体物に限られます。捜索も、差押目的物の発見を目的として行われる行為であるため、有体物を対象としているといえます。

したがって、記録媒体に記録された情報自体は有体物ではないため捜索・差押えの対象になりません。

そのため、データを証拠としたいならば、記録媒体(スマホなど)を捜索・差押えの対象にすることになります

記録媒体の捜索・差押えの問題点

記録媒体(スマホなど)を差し押さえるためには、

①令状記載の差押目的物の品目に該当すること
②当該物が差押えの根拠となった被疑事実と関連性を有すること

が必要ですが、USBやパソコンなどの電磁的記録媒体は、可視性・可読性がないため、外部からは被疑事実との関連性は確認できません。

Q.逐一、記録されたデータをディスプレー上に表示したりプリントアウトしたりして、内容を確認しなければならないのでしょうか。ひとまず内容を確認せずに差し押さえた上で、しかるべき場所で記録された内容を確認し、被疑事実との関連性がないと分かった物を返却するという措置を採ることができるのでしょうか。

問題となる場面の例(『リーガルクエスト刑事訴訟法(第2版)』136頁)
  1. 記録媒体が大量に存在するため、または媒体に大量の情報が含まれるため、全内容を確認するのに時間がかかり、被処分者にも著しい不利益が生じる場合
  2. 内容確認をする間に被処分者等が情報を損壊・消去する等の高度の危険性がある場合
  3. 記録媒体に特殊なプロテクトがかけられているなど、技術的にその場での内容確認が不可能・困難である場合

なお、ディスプレー上に表示したりプリントアウトすることは、差押えのための「必要な処分」(222条1項、111条1項)として許されます。

原則の考え方

 差押許可状により差し押さえることができる物は、令状に記載された「差し押さえるべき物」(219条1項)に該当する物に限定されます。
 捜査機関が差し押さえようとする物が令状記載の「差し押さえるべき物」に該当するためには、①当該物が許可状記載の差押目的物の品目(類型)に合致すること(記載物件該当性)②当該物が差押えの根拠となった被疑事実と関連性を有すること(被疑事実との関連性)の2要件を満たさなければなりません。

USBやパソコン等の可視性・可読性のない電磁的記録媒体についても、原則として、書類の場合と同様に、その内容を確認して被疑事実との関連性の有無を確認しなければなりません。

 ただし、ラベルが貼ってあるなど電磁的記録媒体の外形や保管場所から関連性を確認できる場合は、内容を確認しなくてもいい場合があります。
 この場合には、外形から内容を確認せずとも被疑事実との関連性の有無を確認できるためです。

原則

内容を確認して被疑事実と関連性の有無を確認しなければならない。

例外は認められる?その法律構成は?

Q.可視性・可読性のない物について、被疑事実との関連性が確認できない場合でも差し押えることはできるのでしょうか。

見解①関連性変動説

 もっとも、憲法35条の「正当な理由」の存否の判断は、被処分者の利益と捜査の必要性との比較衡量に基づく規範的なものであるから、それに必要とされる被疑事実と差押目的物との間の関連性の程度は一義的に決まるものではありません。

 つまり、「正当な理由」を基礎づける関連性の程度は、令状執行の際の具体的状況によって変動し得るものであるということになります(川出敏裕・平成10年度重要版判例解説(ジュリスト1157号)181頁)。そうだとすると、令状により差し押さえようとしているUSBやパソコン等の中に被疑事実に関連する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険がある場合や内容を確認することが技術的に困難な場合には、内容を確認せずに差し押さえることも適法であると解すべきです(損壊される場合について最決平成10.5.1)。

関連性変動説

 被疑事実の内容、現場の状況等の事情に照らして差押えの対象物に証拠の存在する蓋然性が認められる場合であって、その証拠の関連性をその場で確認したのでは、証拠が損壊される危険性がある場合、技術的に困難な場合などには、内容を確認せずに差し押えることができる。

関連判例➀[最決平成10.5.1]

「令状により差し押さえようとするパソコン、フロッピーディスク等の中に被疑事実に関する情報が記録されている蓋然性が認められる場合において、そのような情報が実際に記録されているかをその場で確認していたのでは記録された情報を損壊される危険があるときは、内容を確認することなしに右パソコン、フロッピーディスク等を差し押さえることが許されるものと解される。」

関連判例②[最判平成9.3.28]

 被処分者らが暴行等の激しい妨害行為を繰り返したことにより捜索・差押えの実施が事実上不可能な状態になったため、帳簿等の内容を確認することなく差し押さえた行為について、「本件差押物件の中には、……相当の時間をかけて平穏な状況の下で犯則事実との関連性ないし差押えの必要性を吟味して差押物件の選別を行うことができたならば、右の関連性ないし必要性がないという判断をすることが可能な物件が含まれていたことを否定することができないとしても、本件差押物件の差押えに違法があったということはできない。」として、当該差押えを適法としました。

[関連性変動説に対する批判]
 被疑事実との「関連性」は、憲法35条が要求するものであり、被疑事実の罪体や動機、背景のほか情状を証明する手段となり得るものである。そうすると、差押目的物の種類・性質や差押現場の状況によって、被疑事実の罪体等を証明する手段となり得るか否か、すなわち関連性が変動するはずがありません(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』117頁)。

見解②「捜索の一環」ないし「必要な処分」説

 捜索現場において、関連性および令状記載の差押目的物であることを確認が困難である場合は、その確認のために、捜索の一過程ないし必要な処分として、その確認に適する場所に当該物を移動したうえで(一時的な占有の取得であって、差押えではない)、その内容を確認し、関連性がないものについては直ちに返却し、関連性が認められるものについては、差押えを行うという措置を採ることができます(酒巻匡「押収・捜索とそれに伴う処分」刑法雑誌36巻3号453頁)。

[「捜索の一環」ないし「必要な処分」説に対する批判]

別の場所への搬出・選別は差押えではないと考えるため、①被処分者が他の場所での内容確認に立ち会えない、②目録の交付(222条1項、120条)などの占有取得に伴う手続が定められていない、③不服申立ての権利が認められていない等、被処分者の権利が保障できません。

オススメ

「捜索の一環」ないし「必要な処分」説では上記平成10年決定を説明できないため、試験の答案では関連性変動説で書くことをオススメします。

注意点

関連性のない電磁的記録媒体が含まれていることを前提にそれも含めて差し押さえてもいいかという「包括的差押えの可否」の問題(大阪高判平成3.11.6)と、内容を確認せずに差し押さえることが可能かという問題(上記平成10年決定)は、少し異なります。

内容を確認せずに差し押さえることが可能かということは電磁的記録媒体が1個の場合でも同じく問題になります(電磁的記録媒体の数を問わず問題になります)。

平成10年決定について、108枚のフロッピーディスクすべてについて関連性する情報が記録されている蓋然性があることを前提とする判示であると解すると、蓋然性のない物も含めて差し押さえるという意味での「包括的差押え」の問題ではないということになります。

古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』121,122頁参照、川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』143頁参照

関連判例大阪高判平成3.11.6

フロッピーディスク271枚を内容を確認することなく差し押さえた行為について、「捜索機関による差押は、そのままでは記録内容が可視性・可読性を有しないフロッピーディスクを対象とする場合であっても、被疑事実との関連性の有無を確認しないで一般的探索的に広範囲にこれを行うことは、令状主義の趣旨に照らし、原則的には許され」ないとの原則を述べた上で、「しかし、その場に存在するフロッピーディスクの一部に被疑事実に関連する記載が含まれていると疑うに足りる合理的な理由があり、かつ、捜索差押の現場で被疑事実との関連性がない物を選別することが容易でなく、選別に長時間を費やす間に、被押収者側から罪証隠滅を去れる虞れがあるようなときには、全部のフロッピーディスクを包括的に差し押さえることもやむを得ない措置として許容される」と判示しました。

令状による捜索・差押えについては、以下の記事を参照ください。

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