[刑訴法]別件捜索・差押え

刑事訴訟法

別件捜索・差押えの意義

別件捜索・差押えとは、専ら「本件」についての証拠を発見・収集する目的で、(比較的軽微な)「別件」について捜索・差押えの手続を採ることをいいます。

ある被疑事実と関連性がある差押物件が、同時に、別罪と関連性がある場合もあり得るため、別罪の証拠として利用されたからといって直ちに当該差押えが違法になるわけではありません。

では、どのような基準で捜索・差押えの適否を判断すればいいでしょうか。

判断基準・令状主義潜脱説

令状主義の趣旨、すなわち、憲法35条及び219条が差押目的物の明示を要求した趣旨は、捜索・差押えをその都度裁判官の許可にかからしめることで、捜査機関による捜査権限の濫用を防ぐとともに、裁判官が個別的に捜索・差押えの対象を特定して「正当な理由」の有無を判断しなければならないとすることによって、その判断の確実性を担保し、そのような特定の範囲についてのみ捜索・差押えが許可された旨を捜査機関に対して明示することで、令状の執行の際の逸脱を防止し、もって「正当な理由」なき捜索・差押えを防ぐ点にあります。

令状裁判官は、特定の被疑者・罪名・被疑事実(規則155条1項3号・4号参照)を基準として、捜索・差押えの「正当な理由」の有無を判断します。

そうだとすると、令状に記載されていない物の差押えが禁止されるだけでなく、捜査機関が専ら別罪(本件)の証拠に利用する目的で差押許可状に明示された物を差し押さえることも、令状裁判官による「正当な理由」の有無の判断がされていないため、令状主義を潜脱するものとして禁止されるべきです。

もっとも、捜査機関の目的(主観)を立証することは困難であるため、専ら別罪(本件)の証拠に利用する目的であったか否かは、当該事案をめぐる客観的諸事情、すなわち、別件の被疑事実の内容、被告人の関与の態様、程度、当時の捜査状況から、①別件についての捜索の必要性、②押収物と別件被疑事実との関連性および証拠価値、③押収過程それ自体の相当性、④別件捜索・差押えを実施する際の捜査機関の目的等を総合考慮して判断します。

参考判例

最決昭和51.11.18
「憲法35条1項及びこれを受けた刑訴法218条1項、219条1項は、差押は差し押えるべき物を明示した令状によらなければすることができない旨を定めているが、その趣旨からすると、令状に明示されていない物の差押が禁止されるばかりでなく、捜査機関が専ら別罪の証拠に利用する目的で差押許可状に明示された物を差し押えることも禁止される」としていました。

広島高判昭和56.11.26
専ら本件の証拠に利用する意図があるかについて、別件の被疑事実の内容被告人の関与の態様、程度当時の捜査状況から、①多数関係者のうち特に被告人方だけ捜索する必要性が果たしてあったかどうかすこぶる疑問であること、②提出物が別件の立証に役立たないとする警察官の判断、③別件が起訴されなったことから、上記の意図を認定しました(百選10版26事件解説3)。

広島高岡山支判昭和56.8.7
①防犯課警察官の証言、②本件捜索に要した時間、③本件捜索で収集された物件が全て覚せい剤取締法違反の証拠物件であったことから、専ら本件の証拠に利用する意図を認定しました(百選10版26事件解説3)。

令状による捜索・差押えについては、以下の記事を参照ください。

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