[刑訴法]過失犯と訴因変更の要否

刑事訴訟法

過失犯の訴因

一般的に、過失犯の訴因には、

  1. 注意義務を課す根拠となる具体的事実
  2. 注意義務の内容
  3. 注意義務に違反する具体的行為

の3つが記載されます。

これらの事項に変動があった場合、訴因変更手続が必要でしょうか。

考え方

過失の態様(注意義務違反)に変動がある場合

過失犯は開かれた構成要件であり、過失の態様(注意義務違反)は、過失犯の構成要件要素です(構成要件要素説)。罪となるべき事実を記載するためには過失の態様(注意義務違反)を記載することが不可欠です。同一事故で同一の罪名であっても、過失の態様が異なれば構成要件的に別個の法規範違反があり、訴訟物が異なることになります。そのため、過失の態様が変動する場合には、審判対象の画定の見地からの訴因変更(第1段階の訴因変更)が必要になります。

最判昭和46.6.22(百選10版A18)

過失の態様が変動した場合の訴因変更の要否についての判例です。

一旦停止後の再発進の際のクラッチベダルの踏み外しを過失の内容とする訴因に対し、裁判所は停止の際のブレーキペダルの踏み遅れを過失の内容と認定しました。

最高裁は、「起訴状に訴因として明示された態様の過失を認めず、それとは別の態様の過失を認定するには、被告人に防禦の機会を与えるため訴因の変更手続を要する」としました。

最決平成15.2.20

過失の態様が変動した場合の訴因変更の要否についての判例です。

前方を注視せず安全確認を怠ったことを過失の内容とする訴因に対し、第2審は、前方を注視せずハンドルを右方向に転把し対向車線内に自車をはみ出させて進行したことを過失の内容と認定しました。

最高裁は、「検察官の当初の訴因における過失の態様を補充訂正したにとどまるのであって、これを認定するためには、必ずしも訴因変更の手続を経ることを要するものではない」としました。

注意義務を課す根拠となる具体的事実に変動がある場合

過失犯の要件は、注意義務の存在と注意義務違反の事実であり、注意義務の発生根拠事実は訴因の記載として不可欠な事項ではありません。しかし、注意義務の発生根拠事実は「被告人の防御にとって重要な事項」であって、検察官が訴因で明示した以上、異なる事実の認定には原則として訴因変更が必要です。もっとも、被告人に不意打ちにならず、かつ、不利益にならないのであれば、訴因変更は不要です。

最決昭和63.10.24(百選10版46②)

注意義務を課す根拠となる具体的事実が変動した場合の訴因変更の要否についての判例です。

「一定の注意義務を課す根拠となる具体的事実」については、訴因としての拘束力は認められず、少なくとも第1段階の判断枠組による訴因変更は不要であるとしました(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』210頁)。

訴因変更の要否については、以下の記事を参照ください。

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