[行政法]―裁量権の逸脱・濫用の書き方―

行政法
ほくる
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裁量権の逸脱濫用は、司法試験に頻出される問題です。

裁量権の逸脱濫用についての「基本的な考え方」と「規範」を示します。

書き方の順番が分からないという方にオススメの記事です。

具体的な事例を解決ためには、情報として不十分だと思います。

裁量権の逸脱・濫用の検討方法

行政裁量とは、立法者が法律の枠内で、その執行者である行政機関に対して認めた独自判断の余地のことをいいます。

したがって、行政裁量の問題が出題された場合、以下の順序で検討します。

  1. 裁量権が認められるか。
  2. (裁量権があるとして)裁量権の逸脱・濫用として違法となるか。

裁量権の有無

裁量の種類

裁量には、「要件裁量」「効果裁量」そして、「時の裁量」の3つの種類があります。

裁量の種類

1. 要件裁量
⇒認定された事実が法律の定める「要件」に該当するかどうかの判断に行政裁量が認められる場合をいいます。

2. 効果裁量
⇒要件を充すと判断された場合に、処分をするか、どのような処分をするか等、「処分の効果」について行政裁量が認められる場合をいいます。

3. 時の裁量
⇒どのタイミングで処分をするかについて行政裁量が認められる場合をいいます。

「事実の認定」については基本的に行政裁量は認められません。

 もっとも、原子力発電所の安全性等のように将来の予測を含む高度な科学技術的な問題は、「事実の認定」と「要件該当性」の判断を切り離すことができないので、行政裁量が認められるとした判例があります(最判平成4年10月29日)。

裁量権があるかの判断方法

行政裁量は、「立法者が法律の枠内で、・・・・・・認めた独自判断の余地」です。

そのため、裁量権が認められるか否かを検討するに際して、もっとも重要な点は、以下の点です。

法令の仕組みを読み解くこと

具体的には、①文言を読み解くこと、②処分の性質を判断することが求められます。

したがって、規範としては、以下のとおりで十分です。

規範

裁量の有無は、法令の文言や処分の性質から判断する

最判平成18年2月7日(百Ⅰ73事件)は、上記の内容で判断しています。

法令の文言を読み解く

具体的な検討内容として、まず、法令の文言を読み解く必要があります。

具体的には…
 法律の文言が行政庁に一定の判断の自由を認めているような規定ぶりであるか検討します。

[裁量権がありそうな規定の例]

○ 概括的・抽象的な不確定概念の例[要件裁量]
・「行政機関の長が認めるにつき相当の理由がある…」(情報公開法5条3号、4号)
・「公共のために」と規定されている。

○ 選択肢があるような規定ぶり[効果裁量]
・「○○は、…できる」と規定している

もっとも、「行政機関の長が認めるにつき相当の理由がある…」(情報公開法5条3号、4号)というように明確に裁量(この場合は、要件裁量)を認めるような規定をしていることは少ないため、法令の文言のみでは、裁量権を認めることについての実質的理由にならないことが多いです。

ほとんどの場合には、抽象的な規定ぶりがあることのみをもって、直接的な裁量の根拠とすることはできません。

このような抽象的な規定ぶりをしているのには理由(立法者の意思)があるため、この理由(立法者の意思)を、裁量があるといえる根拠として、答案に書く必要があります。

この理由(立法者の意思)は「処分の性質」から裏付けることができる場合が多いです。

つまり、法規として「…できる」などの抽象的な文言を用いたのは、裁量が認められるべき実質的理由があると立法者が判断した結果であり、抽象的な文言を用いた実質的理由は、他のところにあると考えるのが通常です。この実質的理由を探し出す作業が、「処分の性質」の検討になります。

「処分の性質」の検討

次に「処分の性質」を検討しましょう。

具体的には…
 行政庁に自由な判断の余地を認めることの実質的妥当性を検討します。

まず、行政の行う処分の注目すべき性質は、「権利・自由を制限する性質を有するか」という点です。

「刑法の刑罰」や「租税法の課税処分」のように国民の権利・自由を制限する性質を有する行政の行為に要件裁量・効果裁量が認められないのは、罪刑法定主義・租税法律主義といった厳格な制限を受けるためであり、この根拠は、行為が国民の「権利・自由を制限する性質」を有するためです。

したがって、「権利・自由を制限する性質」を有する場合、原則として裁量は認められません。

具体例

○ 私人の権利・自由を制限するもの⇒裁量を否定する方向に働きます(裁量が狭い)。
効果裁量
・自動車運転・食堂営業免許の許可
(警察許可として、要件を充たす以上、許可するのが原則であるため)
・公衆浴場営業許可の許可
(先願主義を採用しており、要件を充たす以上、許可するのが原則であるため)
・土地収用の場合の損失補償
(完全補償を求めており、完全補償しなければ財産権侵害となるため)

○ 私人に利益を付与するもの⇒裁量を肯定する方向に働きます(裁量が広い)。
効果裁量
・学校の目的外利用の許可
(公用物である学校は、学校教育という特定の目的のために使用されるもので、目的外利用は権利として認められるものではないから、これを認めなくても権利侵害にならない)
・情報公開法の不開示事由に該当する情報の例外開示
(情報公開法で不開示事由に該当する情報は、本来は開示請求が認められない情報であるから、これを開示しないとしても権利侵害にならない)

もっとも、「権利・自由を制限する性質」を有するかという視点のみで裁量の有無を判断することはできません。

行為の性質を総合的に判断して裁量の有無を検討する必要があります。

[考慮さいれる事情としては・・・]
 ①「政治的判断である場合」、②「専門技術的判断である場合」、③「裁判所が判断するに適さない内部的事情である場合」、④「地域的性質を考慮すべき場合」などがあります。

具体例

専門技術的判断である場合
専門技術的判断が必要である場合には、裁判所に裁量が認められる傾向にあります。
 もっとも、専門技術的判断であるとしても、「専門技術的判断が尊重される」性質の行為でなければ、これを根拠として裁量を認めることはできません。

まとめ

❶ まず「法律の文言」を確認する。⇒行政裁量を肯定しうる規定ぶりならば・・・❷へ

❷ 「処分の性質」を考慮して、「法律の文言」の意義を具体的に説明する。

裁量権の逸脱・濫用の基準

裁量の逸脱・濫用の基準としては、大きく2つにわけることができます。

それは、「社会観念審査」と「判断過程審査」です。

社会観念審査

社会観念審査とは、「行政庁の判断が全く事実の基礎を欠き、または社会観念上著しく妥当性を欠く場合に限って」処分を違法とする方法です。⇒最判昭和52年12月20日、最大判昭和53年10月4日

裁量権行使の実体・内容・結果に着目した審査方法といえます。

裁判所が原則的には審査を差し控え、最小限の審査しかしない審査方法です。

社会観念審査の違反例

●重大な事実誤認
●目的・動機違反
●信義則違反
●平等原則違反
●比例原則違反(予備平成24年出題)

判断過程審査

判断過程審査とは、行政庁の判断過程に不合理な点がないか、を審査する方法です。

判断過程審査をしたと考えられる判例・裁判例を示します。

最判平成18年2月7日
「その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が重要な事実の基礎を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。」

東京高判昭和48年7月13日(日光太郎杉事件控訴審判決)
現国土交通大臣がある範囲について裁量判断の余地はある。「しかし、この点の判断が・・・・・・諸要素、諸価値の比較考量に基づき行なわるべきものである以上、・・・・・・この点を判断するにあたり、本来最も重視すべき諸要素、諸価値を不当、容易に軽視し、その結果当然尽くすべき考慮を尽さず、または本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れもしくは本来過大に評価すべきでない事項を過剰に評価し、これらのことにより・・・・・・判断が左右されたものと認められる場合には、・・・・・・裁量判断の方法ないしその過程に誤りがあるものとして、違法となるものと解するのが相当である。
上記平成18年判例と「社会通念審査」を前提としていない点で区別して、考慮要素型判断過程統制方式という、独立した審査方法であるとする考え方もあります。

判断審査過程審査は、行政庁が処分をする際に考慮すべき事項を抽出した上で、実際の行政庁の判断の過程を後から追い、考慮不尽他事考慮考慮事項の不当重軽視がなかったかを検討していきます。

判断過程審査の違反例

●他事考慮:考慮しうると定められている事項にない、他の事を考慮すること
●考慮不尽:考慮すべき事情を考慮していない、又は考慮の程度が不十分であること
●不当重軽視:考慮事項について、法が求める程度に反した重み付けで判断すること

まとめ

まとめとして、規範例を示します。

●裁量権の行使としての処分が重要な事実に誤認があるために全く事実の基礎を欠くか、又は、事実に対する評価が明白に合理性を欠くため社会通念上著しく妥当性を欠く場合には、裁量権の逸脱・濫用があるものとして違法である(行訴法30条)。

裁量判断の過程で他事考慮、考慮不尽又は事実評価の明白な合理性欠如がある場合には、裁量権の逸脱・濫用として違法になる(行訴法30条)。

裁量基準がある場合

前提

裁量基準は、法律の委任に基づかない、行政内部での基準ですから、法規としての性質を持ちません。したがって、裁量基準に従わない処分が当然に無効になるというわけではありません。

裁量基準の合理性判断

まず、裁量基準があるとして、「この裁量基準は行政処分の違法性の審査において、法令の趣旨・目的に照らし合理的といえるか」を検討する必要があります。
 そもそも、基準として合理的でないなら、当該基準に従い審査を受けるという国民の信頼は生じないため、裁量基準を用いる前提の問題として検討する必要があります。

裁量基準は、合理的なものでなければ考慮することができず、不合理な裁量基準を適用してなされた裁量処分は他事考慮による裁量権の逸脱・濫用になります。

裁量基準に従わずになされた処分の適法性

裁量基準が合理的であるとすると、以下の規範を用いて裁量権の逸脱・濫用の有無を検討することになります。

そして、裁量基準に従わずにされた処分の適法性について、以下のように示されました。

「処分につき当該処分基準の定めと異なる取扱いを相当と認めるべき特段の事情がない限り、そのような取扱いは裁量権の範囲の逸脱・濫用に当たる。」(最判平成27年3月3日)と判示されています。

裁量基準に従ってなされた処分の適法性

一方で、裁量基準に従ってされた処分は、無条件に適法といえるでしょうか。

たしかに、裁量基準が、法令の趣旨・目的に照らし合理的なものである場合、そのような裁量基準に従ってなされた処分は原則として適法です。

もっとも、裁量基準を機械的に適用するとかえって法律の趣旨・目的を損なう場合には、裁量基準に従わずに処分すべきことが求められ、裁量基準の機械的な適用は裁量権の逸脱・濫用として違法とされます(個別的審査義務)。

まとめ

まとめとして、規範の例を示します。

「処分基準」(行手法12条1項)は、処分基準の設定と公表について努力義務を課している。この趣旨は、不利益処分にかかる判断過程の公正透明性を確保し、処分の名宛人の権利利益を保護することにある。
 そのため、処分基準が設定され公表された場合には、裁量権行使における公正かつ平等な取扱いの要請、基準内容に係る相手方の信頼保護の観点から、当該処分基準の定めと異なる取扱いをすることは、これを相当と認める特段の事情のない限り、裁量権の逸脱・濫用として違法となる。

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