[刑訴法]前科証拠・類似事実による立証の可否

刑事訴訟法
ほくる
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・「前科」があることなどを、証拠として用いることができるでしょうか。
・使えるとすると・・・どのような場合に使えるのでしょうか。

前科証拠・類似事実を証拠と用いるとどうなる?

Q.前科証拠・類似事実を「犯人性」などを立証するために用いるとどのような状況になるでしょう。

まず、同種前科の場合には、「必要最小限度の証明力を有している」といえるから、自然的関連性は認められます。問題となるのは、法律的関連性があるといえるかです。

全く異なる前科を立証したとしても、自然的関連性が否定されます。

「犯人性の推認」は許されるの?

Q.前科証拠・類似事実を「犯人性」を推認させる証拠として用いることはできるでしょうか。

原則の考え方

前科証拠や類似事実証拠を、被告人と犯人の同一性(以下「犯人性」という)の証拠として用いる場合、

  1. 同種前科・類似事実があることから、被告人にはそのような犯罪を行う悪性格・犯罪性向があることを推認し(第1の推認
  2. 被告人がそのような悪性格・犯罪性向を有していることから、証明対象となる犯罪事実(起訴されている犯罪事実)を行ったと推認する(第2の推認

ことになります。

しかし、被告人に特定の性格があることから起訴されている当該犯罪の犯人も被告人であると推認する力は、決して強くありません(第2の推認)。

また、第1の推認についても、窃盗の前科があることから被告人に人の物を盗む癖があるということを推認する力(推認力)は、強いとはいえません。

上記のように前科証拠や類似事実証拠から犯人性を立証しようとすることは、不確かな推認が二重に介在し、事実認定を誤らせる危険が大きいため、許されません。

また、前科証拠や類似事実証拠から犯人性を立証しようとすることを許容すると、訴訟の争点が拡散・混乱してしまう危険もあります。

より具体的にすると・・・

「Aさんには、過去に万引きをした窃盗事件の前科がある」(前科事実)

ってことは・・・『Aさんは、万引きをする癖のある人だ』(第1の推認)

ということは、『今回の万引き事件をしたのもAさんだ』(第2の推認)

「証拠」に用いた時の危険性

➀ 不確かな推定が二重に介在し、推定の確実性が必ずしも高くないのに、裁判官に不当な偏見を与え、事実認定を誤らせる危険性

② 当事者が前科などに立ち入った攻撃防御を行うなど、争点が拡散・混乱する危険性

まとめ(論証例)

 同種前科証拠や前科以外の被告人の他の類似犯罪事実の証拠は、一般的には自然的関連性を有している。しかし、同種前科・類似事実は、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、事実認定を誤らせるおそれがあり、また、これを回避し同種前科・類似事実の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため当事者が前科・類似事実に立ち入った攻撃防御を行うなど、争点が拡散・混乱するおそれもある。
 したがって、前科証拠・類似事実証拠を被告人と犯人の同一性(以下「犯人性」)の証拠に用いる場合については、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがあるため、原則として、証拠として許容されない。このように証拠能力が制限される以上、前科証拠や類似事実を犯人性の間接事実とすることも、原則として許されない。

「被告人が他の類似行為をしたことがあるという事実のみから本件の犯人性を認定することが許されないというのではなく、そもそも、犯人性の証明のための類似行為の事実の立証自体が許されない
 それゆえ、犯人性の証明のみを目的として、類似事実を推認させる証拠の請求がなされた場合、裁判所はこれを却下しなければならない。」(リークエ2版360頁)

例外が適用できうる場面

 証拠能力が制限される理由が事実認定を誤らせるおそれがあることだとすると、前科証拠・類似事実証拠によって証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときは、例外的に証拠とすることが許されると考えることができそうです。

Q.では、どのような場合に実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるのでしょうか。

判例では、例外を認めたケースがあります。

 前科証拠・類似事実証拠を犯人性の証明に用いる場合について、前科事実や類似事実が顕著な特徴を有し、かつ、その特徴が証明対象である犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるものであるときは、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないとして、例外的に証拠とすることが許されます(最判平成24.9.7百選10版62事件)。

 これは、顕著な特徴を有し、かつ、相当程度類似している場合には、それが別人によって行われるということが経験則上考えにくいため、複数回行われた場合にその特徴が高度に類似していれば、それらは同一人によって行われたものと推認し得ることが根拠にあると考えられています(リークエ2版362頁、経験則による合理的推認)。

※なお、顕著な特徴は、犯行の態様(手口)だけでなく、犯行の日時・場所、犯行動機、犯行に至る経緯、犯行後の情況も含めて考慮して構いません(最決平成25.2.20参照)。

顕著な特徴を有し、かつ、相当程度類似している場合には、「犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価」を介在させる必要がなく、犯人性が直接推認されます。

最判平成24.9.7百選10版62事件は、「前科証拠は、単に証拠としての価値があるかどうか、言い換えれば自然的関連性があるかどうかのみによって証拠能力の有無が決せられるものではなく、前科証拠によって証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときに初めて証拠とすることが許される」という一般論を述べています。
 さらに、前科証拠を犯人性の認定の証拠として用いる場合について、「前科に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、それ自体で両者の犯人が同一であることを合理的に推認させるようなものであって、初めて証拠として採用できる」としました。

最決平成25.2.20は、「前科以外の被告人の他の類似犯罪事実の証拠を被告人と犯人の同一性の証明に用いようとする場合にも」上記平成24年判決の法理が「同様に当てはまる」としました。
 また、「前科に係る犯罪事実や被告人の他の犯罪事実を被告人と犯人の同一性の間接事実とすることは、これらの犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、その特徴が証明対象の犯罪事実と相当程度類似していない限りは、被告人に対してこれらの犯罪事実と同種の犯罪を行う犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価を加え、これをもとに犯人が被告人であるという合理性に乏しい推論をすることに等しく、許されない」としました。

【まとめ】

  • 被告人に前科があるという事実から、被告人が犯罪を犯すような悪性格を持っていることを立証し、こうした悪性格の立証を介して、被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとすることは、NG(法律的関連性否定)。
  • 特殊な犯行方法・態様等の共通性に着目し、そこから被告人が被告事件の犯人であることを推認させようとすることは、OK(法律的関連性肯定)。

主観的要素の推認

Q.前科証拠、類似事実証拠を主観的要素(故意など)を推認する証拠として用てよいでしょうか。

原則の考え方

犯人性を推認する場合と同様、主観的要素を推認する場合にも、前科事実・類似事実による立証は、「犯罪性向があるという実証的根拠に乏しい人格評価」を介在させることになるため、不確かな推認が二重に介在し、事実認定を誤らせる危険が大きく、原則として許されません。

「証拠」に用いた時の危険性

 不確かな推定が二重に介在し、事実認定を誤らせる危険性

例外が適用できうる場面

証拠能力が制限される理由が事実認定を誤らせるおそれがあることだとすると、前科証拠・類似事実証拠によって証明しようとする事実について、実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められるときは、例外的に証拠とすることが許されます

Q.では、どのような場合に実証的根拠の乏しい人格評価を介在させない合理的推認と認められるのでしょうか。

主観的要素の推認における例外類型としては、以下のものがあります。

  1. 同種事実の反復により過失ではなく故意による犯行であることを推認する「偶然行為の理論」
  2. 同種前科事実の存在から違法性の意識・犯罪該当性の認識等を推認する場合(最判昭和41.11.22、大阪高判平成17.6.28)
  3. その他…①犯意等の継続を推認する場合、②不合理な弁解を排除する場合

例外の内容を押さえておきましょう

1.偶然行為の理論

上記1の「偶然行為の理論」は、故意か偶然の事故かが問題となる場合に、類似事実を立証することにより偶然の事故であることが否定されるという理論です(古江頼隆『事例演習刑事訴訟法(第2版)』268頁)。

2.違法性の意識・犯罪該当性の認識等

最判昭和41.11.22は、被告人が以前に同様の行為により詐欺罪で処罰を受けていることから、それと同様な形で寄付金を集めれば、相手方が錯誤に陥って金銭を交付するであろうこと、したがって、自分の行為が欺罔行為となり詐欺罪が成立することを認識していたはずである(故意。あるいは違法性の意識)という推認を許したものであると理解されています(川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕』284頁)。

「Aは、寄附金を集める形での詐欺をした前科がある」

「Aは類似の行為をすれば、相手方が錯誤に陥って金銭を交付するであろうことを認識している」と推認することができる
(自己の行為が詐欺罪にあたることの認識)

最判昭和41.11.22は、過去に類似の詐欺を働いたことがあるから今回も詐欺の故意があったに違いないと推認することを認めるものではありません。
これでは寄付金詐欺を働くという悪性格・犯罪性向を介在させてしまっているからです。

他の例としては、以下のようなものがあります。

和歌山毒カレー事件(大阪高判平成17.6.28)は、「被告人の周辺において複数の者が繰り返し急性砒素中毒を発症させたという事実は、それらが被告人の犯罪行為によるものであると否とにかかわらず、それ自体、……その殺傷力に対する知情性を推認させるものということができる」としました。

まとめ(論証例)

 前科証拠・類似事実証拠を犯罪の主観的要素の証明に用いる場合については、同種態様の前科・類似態様の犯罪歴があるということは、その種の行為が処罰されるということが、少なくとも前科の刑を受けたことにより被告人も認識したはずであり、今回の行為に際しても、被告人が違法性の認識を有していたと合理的に推認することができる。
 したがって、犯行の客観的側面について立証がされた後であれば、例外的に、故意のような主観的要素を証明するために証拠とすることが許される(最判昭和41.11.22)。

3.①犯意等の継続

 類似事実と起訴されている事実が日時・場所に置いて近接している場合に、「人が近接した日時・場所で類似の行為を繰り返す場合、その意図・目的が途中で変わることは考え難い」という経験則に基づき、被告人の意図・目的が継続していると推認することは、悪性格・犯罪傾向を介在させない合理的推認として許されます(東京高判平成25.7.16)。

3.②不合理な弁解を排除

 被告人が行った別の同種事件の犯行内容に照らし、被告人が弁解している本件犯行の意図・動機等を不合理なものとして排除することも、悪性格・犯罪性向を介在させない合理的推認として許されます(東京高判平成25.7.16、東京高判令和元.5.15)。

たとえば・・・

 被告人がわいせつの意図をもって強姦事件を起こしていたことから、被告人の「傷害を負わせる目的で行った」との弁解を不合理なものとして排除し、同様の態様で行われた本件犯行についても、わいせつの意図を推認することができます。

「顕著な特徴、相当程度類似」の判断枠組は、犯人性の推認の場合に出てくる例外の枠組みであり、主観的要素の推認の場合にまで要求されているわけではありません。

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