[憲法]生存権(憲法25条)

憲法

生存権とは

憲法25条
1 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。

国民は誰でも健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するとされており(憲法25条1項)、これを生存権といいます。

生存権は社会権の1つです。

生存権の趣旨は、福祉国家の理想に基づき、特に社会的・経済的弱者を保護し実質的平等を実現する点にあります。

生存権の権利の内容としては、以下の大きく2つあります。

請求権的側面
国家に積極的に、社会的・経済的弱者が人間に値する生活を営むことができるように、国家に積極的な配慮を求める作為請求権としての側面
自由権的側面
公権力による不当な侵害から国民の「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を守るという、国家に対する不作為請求権としての側面

生存権の法的性格

大きく3つの説の対立があります。

プログラム規定説

憲法25条は、国民の生存を確保すべき政治的・道義的義務を国に課したにとどまり、個々の国民に対して具体的権利を保障したものではない、と考える(芦部『憲法』第7版279頁)。

この見解は、生存権の内容が抽象的で不明確であることから憲法25条に基づいて生存のための具体的請求権を導き出すことは難しい、という前提があることが根拠となっている。

抽象的権利説(多数説)

憲法25条は、予算を前提とした立法を通して、国に対して生存権を実現すべき法的義務を課している、と考える(芦部『憲法』第7版279頁)。

憲法25条1項は、法律制定の基準となるので立法権を有する国会を拘束し、法律がすでに制定されている場合には、裁判所の法律解釈の基準となり、裁判所が当該法律は「最低限度の生活」(1項)を保障していないと判断した場合には、違憲審査権を行使し、違憲と判断できることになる(百選Ⅱ7版287頁)。

この見解は、憲法25条1項が「権利」と規定していることから、生存権に法的権利性が認められることを根拠としている。

具体的権利説

憲法25条は国民に具体的請求権を保障したものであり、国民は生存権を具体化する法律が制定されていなくても憲法25条だけを直接の根拠として権利の実現を裁判所に請求することができる、と考える。

この見解も、憲法25条1項が「権利」と規定していることから、生存権に法的権利性が認められることを根拠としている。

抽象的権利説を前提とする制度設計

➀まず、生活保護法を中心とした立法措置を通じて国民は、生存権の権利行使が具体化される。

②次に、これを実施する行政庁の措置によって個別・具体的な権利保障が図られる。

そのため、憲法25条の問題は、➀立法措置がそもそも合憲かという観点から、行政立法に関する裁量の問題、②立法があることを前提に、その法の解釈・適用の場面で行政裁量の統制が問題となります。

1項2項分離論

堀木訴訟の控訴審判決は、「第2項は国の事前の積極的防貧施策をなすべき努力義務のあることを、第1項は第2項の防貧施策の実施にも拘らず、なお落ちこぼれた者に対し、国は事後的、補足的且つ個別的な救貧施策をなすべき責務のあることを各宣言したもの」と解し、いかなる防貧施策をどの程度実施するかについては立法府の裁量に委ねられるという解釈を採りました。

1項…救貧施策
2項…防貧施策 ← 立法府の裁量に属する

この見解からは、生活保護基準の設定が救貧(1項)に関わるとして厳格な審査を求めることができます。

もっとも、1項の救貧施策を生活保護法による公的扶助に限定し、他の施策をすべて防貧施策として広汎な立法裁量に委ねた点で問題があり、1項2項分離論は最高裁判例では採用されていません(芦部『憲法』第7版278頁)。

合憲性判定基準

【朝日訴訟】【堀木訴訟】を踏まえると以下のようになります。

 憲法25条1項の「健康で文化的な最低限度の生活」は、きわめて抽象的・相対的概念であり、その具体的内容は、文化の発達の程度、経済的・社会的条件、一般的な国民生活の状況等との相関関係において判断決定されるべきものであり、それを立法に具体化する場合には、国の財政事情を無視することができず、また、多方面にわたる複雑多様な、しかも高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とする。
 したがって、具体的にどのような立法措置を講ずるかの選択決定は、立法府の広い裁量に委ねられており、それが著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるを得ない場合を除き、裁判所が審査判断するのに適しない。

【朝日訴訟】については、以下の記事を参照してください。

【堀木訴訟】については、以下の記事を参照してください。

【老齢加算廃止違憲訴訟】については、以下の記事を参照してください。

制度後退禁止原則

制度後退禁止原則とは、最低限度の生活水準の決定については立法府に広い裁量権があるとしても、一旦法律によって生存権の内容が具体化された場合には、それが憲法上の権利の保障内容となり、これを切り下げる場合には裁量の幅が狭まり、ある程度厳格な審査がなされるべきであるという考え方です。

仮に、制度後退禁止原則を前提とする主張をすると以下のようになると考えられます。

制度後退原則を採用したときの主張

「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法25条1項)は、生活保護法・行政庁の定めた保護基準によって具体化され、具体的権利である。そして、不利益変更は、被保護者の生存に不可欠な憲法上の具体的権利の制限である。
 そのため、➀生活保護基準の切り下げを必要とするやむにやまれぬ事情があり、②引き下げが必要最小限度のものでなければ(厳格審査基準)基準の引き下げは違憲となる。

最高裁判例は、制度後退禁止原則を採用していませんが、裁量権の逸脱・濫用を総合判断する際の一要素としています(最判平成24.2.28老齢加算廃止違憲訴訟)。

老齢加算廃止事件判決の判断基準

➀基準の引き下げは、被保護者に長期間続いた保護の変更を伴うことから、このような者の信頼を保護する必要があり、②生活保護費の減額という「最低限度の生活」を下回るおそれのある行為であるため、判断過程審査をした。

判断過程審査
➀判断過程の合理性を審査する
②判断するための考慮要素に着目して、
 ⅰ考慮すべき事情を考慮し、考慮すべきでない事情を考慮しなかったかに着目する判断方法
 ⅱそれぞれの考慮要素に重み付けを行い、その評価を誤ったか否かを検討する方法

制度後退禁止原則を否定する理由
  1. 法律は憲法より下位のものである。憲法上の法規範の内容は、下位規範に先行して確定しているはずであり、憲法上の法規範の内容が、憲法より下位の制度の有無・内容によって規定されるのは不合理である。
  2. 憲法25条1項によって保障されているのが「健康で文化的な最低限度の生活」である。もし、ある法律が”健康で文化的な最低限度の生活+α”を規定していたならば、”+α”の部分は憲法25条1項の要請ではないため、この部分を取り除いても違憲にはならないはずである。
  3. 生存権は既得権を保障するものではない。

生存権の答案の書き方については、以下の記事を参照してください。

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