[民法]「物」について(有体物の概念、一物一権主義)

民法

総論

「物」とは

民法85条(定義)

この法律において「」とは、有体物をいう。

物権の客体は、原則として有体物をさします。有体物とは、気体、液体、固体を指します。

「有体物」の概念には、以下のような争いがあります。

○物理的支配可能性説

「有体物」とは、「物理的支配可能性」を基準とした概念であると考えます。そのため、電気等の無体物は、「物」に含まれないことになります。

刑法245条は、本来、有体物しか盗取の目的物とならないのに特別に「電気」も窃盗・強盗の対象物として扱うという特別の扱いをしています。)。

この考え方を前提とした場合、無体物が物に含まれるか否かは、当該規定が類推適用できるかについて検討することになります。

○排他的支配可能性説

物理的支配可能性を問わず、排他的支配可能性があれば「物」に該当するとする考え方です。

物権は、権利者に客体の排他的支配を認める権利です。そのため、物権の客体と認められるためには、①排他的支配が可能であり、②排他的支配を承認しても相当であると認められる必要があると考えます。

一物一権主義

物権の対象となる「物」は、大きく2つの特徴があります。

① 1個の物として独立していること(例:物の1部分には、物権は成立しない)

② 1個の物としての単一性を有すること(例:2つの物に1つの物権は成立しない)

この二つの特徴のことを一物一権主義といいます。

「独立性」の例外

「物」は、1個の物として独立していることが必要です。

もっとも、土地の場合には、「一部の時効取得」や「一部に対する地役権の設定」が可能です。

これは、土地が「筆」という単位で区分していることに由来しています。

これは、自然の区分ではなく、法技術によって人為的・便宜的にしている区分にすぎません。土地は「分筆」によって「一筆」の範囲を変更し対応することで、一部の土地について物権を成立させることができます。

単一性の例外「集合物」

原則として、「物」は1個の物は1個の物として扱うことが必要です。

もっとも、特定の倉庫の中にある在庫商品のような個々の物の「集合体」の価値に着目して、1つの「物」として扱うことがあります。

例えば、「倉庫内の在庫商品の全て」という「集合体」に譲渡担保を設定することがあります。

このように、個々の「物」の集合体を経済的に一体のものであるとしてとらえた物のことを「集合物」といいます。

「集合物」が「物」として認められる理由は、集合したものを一体のものとしてとらえると、視点を変更しているにすぎません。そのため、集合物が一物一権主義に反すると考えることも可能です。

しかし、判例は集合物を「物」として認めた上で、構成部分の変動する集合物(いわゆる「流動集合物」)を「物」と認めています。「流動集合物」が「物」に該当する条件は以下の通りです。

最判昭和54年2月15日 民集33巻1号51頁

構成部分の変動する集合動産についても、その種類、所在場所及び量的範囲を指定するなどなんらかの方法で目的物の範囲が特定される場合には、一個の集合物として譲渡担保の目的となりうるものと解するのが相当である。」

物権の種類(不動産、動産)

民法86条(不動産及び動産)

1 土地及びその定着物は、不動産とする。

2 不動産以外の物は、すべて動産とする。

不動産

不動産は、「土地」及び「土地の定着物」を指します(民法86条1項)。

土地の定着物」とは、土地に固定されたもので、容易に移動できない物であって、取引観念上も土地に継続的に固定された状態で利用されるものをいうと解されています。

例えば、建物、地中の岩石や砂利、樹木、石垣、庭石や灯篭などが「土地の定着物」にあたります。

土地の定着物は、大きく3つに分類することができます。

①土地と一体となった物、②建物、③両者の中間に位置する物です。

①土地と一体となった物(原則)

地中の岩石や砂利、石垣、庭木等がこれにあたります。

これらの定着物は、その付着している土地と一体をなす物として扱われます。そのため、原則として、土地と別個の物として扱われることはなく権利の客体となりません。

したがって、これらの定着物は、付着している土地の売買をすると当該土地と同時に所有権が移転します(民法555条、同法176条)  

建物(例外①)

建物は、付着した土地とは別個の不動産です。民法に「建物」と「土地」が別個である旨の規定はありません。不動産登記法には、「建物」と「土地」が別個の不動産であることを前提として規定しています。

「建物」と「土地」が別個の不動産とする法制度は、他国と比べると少数派です。ドイツ、フランス、イギリス、アメリカ等の多くの国は、「建物」と「土地」を1つの不動産とする法制度を採用しています。

日本では「建物」と「土地」が別個の不動産であるとされているため、建物の所有者と土地の所有者が異なっていてもよく、この複雑な関係が多くの法律問題を生じさせる原因になっています。

両者の中間に位置する物(例外②)

土地に植えられている樹木は、原則として「土地と一体になった物」に該当することになります。「土地と一体となった物」は、土地の内容の一部として捉えられるため、土地に植えられた樹木は、当該土地の売買と同時に買主に所有権が移転します。

もっとも、樹木が土地と別個の物として取引することができる場合が以下のとおり2つあります。

①慣習法上の公示方法としての明認方法を行えば樹木・立木を土地とは別の物として扱われる

立木法の定める登記がなされると独立した不動産として扱われる

動産

動産は、「不動産」を除くその他の物をいいます(民法86条2項)。

主物と従物

民法87条(主物及び従物)

1 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。

2 従物は、主物の処分に従う。

意義

主物」とは、複数の「物」の間に一方の物が他方の物の経済的効用を補う関係にある場合に補われている物のことを指します。

従物」とは、他方の補っている物のことを指す。

「従物」と認められるためには、以下の要件が必要です。

従物の要件

① 「物」としての独立性があること

② 主物に付属していること

③ 主物の効用を高めていること

④ 主物と所有者を一にすること

効果

「主物は従物にした合う」(民法87条2項)とあります。

一体として扱う理由は、主物と従物の関係が、一体として扱われることで経済的効用が上がるため、当事者の意思としても、「主物を処分すれば、従物も一体として処分されるはずである」と考えられるためです。

民法87条2項は、当事者の意思の推定規定(任意規定)です。そのため、当事者間で別の意思表示をしてその意思が合致しているなどの、反論がある場合には、民法87条2項を覆すことができます。

元物と果実

民法88条(天然果実及び法定果実)

1 物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。

2 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。

意義

果実」とは、ある「物」から生じる経済的利益をいいます。

この果実には、2つの種類があり、それは「天然果実」と「法定果実」です。

天然果実」とは、「物の用法に従い収取する産出物」(民法88条1項)をいいます。たとえば、リンゴの木に実ったリンゴの果実、母馬が産んだ子馬、鉱山で採掘した鉱石等がこれにあたります。

法定果実」とは、「物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物」(民法88条2項)をいいます。たとえば、マンションを貸して得た賃料、土地を貸して得た地代がこれに含まれます。

果実の帰属

民法89条(果実の帰属)

1 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。

2 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。

天然果実」は、元物から分離する時に、収取権を有する者に帰属します。

原則として収取権を有するのは、元物の所有者です。もっとも、天然果実が分離する前に契約等によって帰属先を変更することは可能です。

法的果実」は、収取権の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得します。

建物賃貸借をしている場合、賃貸建物の所有者が収取権を有します。賃貸借契約が月額○○円という契約であった場合に1ヶ月間の途中で賃貸建物を譲渡した場合、原則として賃貸建物を譲渡した日を基準として日割計算して、賃料が支払われることになります。

もっとも、賃貸建物の代金に果実の価格を含むと決める等の別段の合意がある場合には、民法89条2項の規定は適用されまぜん。

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