[刑訴法]写真撮影・ビデオ撮影の適法性

刑事訴訟法

問題の所在

対象者の真意に基づく同意・承諾がある場合には、写真撮影・ビデオ撮影は強制処分に当たりません。

しかし、捜査機関による写真撮影・ビデオ撮影については、対象者のプライバシーの制約・侵害を伴い得ることから、対象者の同意・承諾がない場合には、①「強制の処分」(197条1項但書)に当たるかどうか、②「強制の処分」に当たらないとしても任意処分として許容されるか、を検討することになります。

「強制の処分」に該当する場合、五官の作用によって認識する処分といえるため、「特別の定」たる「検証」(218条1項)にあたり、検証許可状が必要になります。検証許可状なく行えば違法な捜査になります。

強制処分該当性を判断する際には、

  1. 対象者に認識されることなく秘密裏に写真撮影・ビデオ撮影した場合、現実に対象者の明示の意思に反し又はその意思を制圧した事実はないため、「意思の制圧」がないのではないか
  2. 「身体、住居、財産」そのものに対する侵害・制約は認められないことから、被制約利益の内容をどのように捉えるか(「身体、住居、財産等」の「等」とは何か)

が問題になります。

強制処分該当性

【要件】

  • 意思の制圧
  • 「身体、住居、財産等」に対する制約(憲法の保障する重要な法的利益に対する制約)

「意思の制圧」の有無について

最判昭和51.3.16は、強制処分とは、「個人の意思を制圧し、身体、住居、財産等に制約を加えて強制的に捜査目的を実現する行為など、特別の根拠規定がなければ許容することが相当でない手段を意味する」としていました。

従来、「個人の意思を制圧し」については、文字通り相手方の反対意思を現実に制圧することまで要求されるのか、それとも、合理的に推認される当事者の意思ないし黙示の意思に反する場合もそこに含まれるのか、学説上争いがありました。

もっとも、反対意思の現実の制圧を伴わない電話検証(最決平成11.12.16)や梱包物のエックス線検査(最決平成21.9.28)について、判例は、強制処分該当性を肯定しており、文字通り相手方の反対意思を現実に制圧することまで要求されるわけではありません。

そして、GPS判決(最判平成29.3.15)は、「合理的に推認される個人の意思に反」する場合も、「個人の意思を制圧し」に含まれることを示しました。これは、合理的に推認される個人の意思に反して重要な権利利益を侵害する場合も現実に表明された意思を制圧して重要な権利利益を侵害する場合も価値的には同じであると考えられるからです(東京高判平成28.8.23参照)。

そうすると、対象者の承諾を得ずにする、同人が撮影されていることを知れば拒否すると考えられる撮影行為は、合理的に推認される個人の意思に反しているため、「個人の意思を制圧し」ているといえます。

「身体、住居、財産等」に対する制約(憲法の保障する重要な法的利益に対する制約)の有無について

GPS判決(最判平成29.3.15)は、 「強制の処分」について、「個人の意思を制圧して憲法の保障する重要な法的利益を侵害するもの」としており、被侵害利益が「身体、住居、財産」に該当しなくても、憲法の保障する重要な法的利益であれば、「強制の処分」に当たり得ることを述べました。

「憲法の保障する重要な法的利益」に当たるか否かの判断基準は、私的領域に侵入しているか否かです。上記GPS判決は、憲法35条が、「住居、文書及び所持品」に限らず、これらに準ずる私的領域に侵入されない権利も保障していることを指摘し、GPS捜査が私的領域に侵入する捜査であるとして、「憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」としました。

公道上にいる対象者を撮影した場合

公道は、「通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所」であり、住居内と同様の高度のプライバシーを期待できません。公道にいる人を写真撮影・ビデオ撮影することは、「みだりに容ぼう等を撮影されない自由」が制約されるにすぎず、私的領域に侵入されることのない権利を侵害するものではありません。したがって、「強制の処分」には当たりません。

警察官が公道上でデモ行進中の人物の容ぼう等を写真撮影した事案について、

最高裁は、「個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態(以下「容ぼう等」という。)を撮影されない自由を有するものというべきであ」り、「警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない」と述べた上で、「公共の福祉のため必要のある場合には相当の制限を受ける」として、「(a)現に犯罪が行われもしくは行われたのち間がないと認められる場合であって、しかも(b)証拠保全に必要性および緊急性があり、かつ(c)その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもって行われるとき」((a)(b)(c)は筆者が挿入)には「撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容ぼう等の撮影が許容される」と判示しました(最判昭和44.12.24)。

本判決は、本件の写真撮影が強制処分なのか任意処分なのかを明示していませんが、それを適法としていることから、本件の写真撮影を強制処分とは見ていないことが分かります。

住宅内にいる対象者を撮影した場合

住居内の通常外部から見えない場所にいる者の姿を、高性能の望遠レンズ付きのカメラで撮影する行為は、対象者の「みだりに撮影されない自由」を侵害するだけでなく、本来路上からは肉眼では見えないはずの情報を得ることができ、私的領域に侵入しています。したがって、私的領域に侵入されない権利を侵害しており、 憲法の保障する重要な法的利益を侵害しているため、「強制の処分」に該当します。

任意処分としての撮影行為の限界

問題となっている撮影行為が強制処分に該当しなかったとしても、対象者の承諾なく容ぼう等を撮影することは、みだりに容ぼう等を撮影されない自由を侵害する以上、常に許容されるわけではなく、捜査比例の原則を適用すべきであり、必要性、緊急性などを考慮し、具体的状況の下で相当と認められる限度においてのみ許容されます。

考慮要素
  • 対象となる犯罪の性質・重大性
  • 捜査対象者に対する嫌疑の程度
  • 公道から肉眼で通常得られる情報以上の情報を取得しているかどうか(態様)
  • 過剰な法益侵害はないか
  • (ビデオ撮影の場合に)なぜ写真ではなく動画が必要なのか

強制捜査、任意捜査の限界については、以下の記事を参照ください。

判例

  • 公道を歩いている被告人の容ぼう等のビデオ撮影および不特定多数の客が集まるパチンコ店内における被告人の容ぼう等のビデオ撮影について、「通常、人が他人から容ぼう等を観察されること自体は受忍せざるを得ない場所におけるもの」であることを理由に、強制処分該当性を否定し、①被疑者が犯人である疑いを持つ合理的な理由の存在(合理的嫌疑の存在)が認められる場合に、②犯人特定のための重要な判断に必要な証拠資料を入手するために必要な限度において、③通常、人が他人から容ぼう等を撮影されること自体を受忍せざるを得ない場所で行われたことを理由に、任意捜査として適法としました(最決平成20.4.15)。
  • 荷送人の依頼に基づく宅配便業者の運送中の荷物に対して、その外部からエックス線を照射して内容物を観察する行為について、「その照射によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によっては品目等を相当程度具体的に特定することも可能」であることを理由に、「荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害する」として強制処分該当性を肯定しました(最決平成21.9.28)。
  • 速度違反車両の自動撮影を行う自動速度監視装置による運転者の容ぼうの写真撮影について、「現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいって緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものである」ことを理由に、適法としました(最判昭和61.2.14)。

コメント

タイトルとURLをコピーしました