[刑訴法]エックス線検査の適法性

刑事訴訟法

問題の所在

宅配便業者のもとにある荷物に、令状なく、荷送人・荷受人の承諾もなく、エックス線を照射して、荷物の内容の射影を観察する行為は「強制の処分」(197条1項但書)に該当しないか、「強制の処分」に該当すれば刑訴法の特別の根拠規定が必要となるため問題になります。また、仮に任意処分であるとすると、何らかの制約があるのかが問題になります。

強制処分該当性

「強制の処分」(197条1項但書)とは、個人の意思を制圧して、憲法の保障する重要な法的利益を侵害するものをいい、ここにいう「意思を制圧」するとは、個人の明示の意思に反する場合はもとより、合理的に推認される個人の意思に反する場合も含みます(最判平成29.3.15百選10版30事件)。

「憲法の保障する重要な法的利益」に当たるか否かの判断基準は、私的領域に侵入しているか否かです。GPS判決(最判平成29.3.15百選10版30事件)は、憲法35条が、「住居、文書及び所持品」に限らず、これらに準ずる私的領域に侵入されない権利も保障していることを指摘し、GPS捜査が私的領域に侵入する捜査であるとして、「憲法の保障する重要な法的利益を侵害する」としました。

あてはめ

宅配業者の承諾を得ていたとしても、内容物に対するプライバシー権を有する荷送人・荷受人の承諾がなく、荷送人・荷受人の合理的に推認される意思に反しているため、「意思を制圧」しています。

また、エックス線の照射で得られる射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であり、本来、肉眼や外表検査では得られないはずの密封された荷物の内容物に関する情報を得ることになるため、荷送人・荷受人の私的領域に侵入していることになります。

したがって、私的領域に侵入されない権利(憲法35条)を侵害しており、 憲法の保障する重要な法的利益を侵害しているため、「強制の処分」に該当します。

本件エックス線検査は、対象物の形状等を五官の作用によって認識する処分たる「検証」(218条)に当たり、令状が必要であるところ、本件では令状なく行っているため、違法です。

*検証とは、一定の場所、物、人の身体につき、その存在や形状、状態、性質等を五官の作用(視覚・聴覚・嗅覚等の五感)によって認識する行為を強制的に行う処分をいいます(リークエ2版147頁)。

最決平成21.9.28百選10版29事件

第1審から最高裁まで、本件のエックス線検査が荷送人・荷受人の内容物に対するプライバシー等を侵害するものである点は認めています。

しかし、第1審及び原審は「内容物が具体的にどのようなものであるかを特定することは到底不可能である。したがって、この方法が荷送人・荷受人のプライバシー等を侵害するものであるとしても、その程度は極めて軽度のものにとどまる。」として、任意処分と判断しました。

これに対し、最高裁は、エックス線の照射で得られる「射影によって荷物の内容物の形状や材質をうかがい知ることができる上、内容物によってはその品目等を相当程度具体的に特定することも可能であって、荷送人や荷受人の内容物に対するプライバシー等を大きく侵害するものであるから、検証としての性質を有する強制処分に当たる」とし、検証許可状を得ることなく行った本件エックス線検査を違法と判断しました。

上記の[第1審・原審]と[最高裁]の差は、強制処分たる検証といえるかについての事実認定の差です。

また、宅配荷物について、仮に運送約款で宅配業者に内容物を見る権限が付与されてたのであれば、捜査機関が内容物を見ることに承諾を与えることも可能であり、荷送人・荷受人の私的領域への侵入が正当化され、荷送人・荷受人のプライバシーへの合理的期待の要保護性も乏しくなるとして、強制処分に該当しないとの見解もあります。しかし、最決平成21.9.28の調査官は、約款上の権限は、あくまで荷物の運送管理のためのものであって捜査目的で行使することはできないと考えています。

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